総司令官と副総司令官 2
重い話の後には軽い話が良いよね…
と、勝手に思って2話目の投稿
ディケンズの態度は大きくは変わらなかったが聖女、特にセイナを同志として見るようになった。
それはウィリアムが一番最初に感じた印象だ。
今までのように冷めた視線で見るのではなく、ほんの少しだけ熱のある視線だ。
(どんなに思っても若い女は結局のところ煌びやかな男達を選ぶのを知っているんだがな)ウィリアムはディケンズの姿と自分を重ねて少し侘しい気持ちになっていた。
討伐が落ち着いてくると国にも食料がまわり、活気が出てきた。聖女達が降臨してから僅か一年。
特に農村地区が全て浄化された頃にはすっかり以前のようだ!と国の回復を喜ぶ声を皆が口にした。
その頃から夜会や、お茶会が開催されるようになり、セイナとユイナが王子や侯爵家の青年達に猛アプローチを受けているのが目立つようになってきた。
デートや贈り物はもちろん、侍女や、女騎士達も聖女達をくっつけようとフォローに回っている。
同時に、彼らを結婚相手として狙う貴族令嬢達からの嫌がらせも増えてきた。
赤凱の皆はそれを最初こそ人ごとのように眺めていたが、聖女達が本気で望んでいないと分かってくると遠慮がちに少しずつ手を貸すようになっていった。
「セイナ様〜!王子殿下たちがお茶をしようとお呼びですよ〜」
侍女が探している最中も藪の中で身を隠すユイナのお尻が見えていたが、赤凱の兵士は黙って素通りした。
「ユイナ様〜!宝石商が参りました!お部屋にお戻りください!!」侍女がユイナの行方を探していても、赤凱の女兵士のマントの中に隠れてユイナは一緒に門の外へと出ていってしまう。
女兵士が『ユイナ様よろしいんですか?宝石を買ってくれると言ってくれてるんですよ?』と言っても
「私のこの細い首に何本ネックレスを着けるつもりなのかしらね?私肩凝りもあるから本当に要らないのよ。三日前にしっかり断ったのに、この国の方達って全然私の意見聞いてくれないの」と肩を竦めた。
聖女達は本気で、王家や貴族が彼女達のためと言いながら行うことを嫌がっているようであった。
ディケンズはそれを不思議な気持ちで観察していた。
恋の駆け引きでもなければ、(注!総司令官にその経験は当然ない)、国を相手に翻弄し、報酬の額面をあげようとしているなどというものでもない。聖女達の意図が言葉通りだとすると、貴族は間違った方向に向かっているのではないかと思った。
そうこうしていると聖女二人から貴族令嬢の誤解を解きたいの、と相談を持ちかけられた。
ウィリアムとディケンズは二人の相談に乗り、解消に向けて多少力を貸せば、聖女達は素直に喜んでくれた。
聖女たちがお礼に招待したいと連絡を遣し、誘われたお茶の席でウィリアムは思い切って質問する。
「聖女殿、あなた達はなぜ宝石を欲しがったり、ドレスを欲しがったりしないのですか?王子達と結婚すれば権力も思いのままです。なのにすべてを断り続けている。神の国に帰るからという理由だけではないように思うのですがね」
そう言うとユイナが『その質問をしてくれる人は初めてね』と笑った。
「実は私の住んでいたところはウランバルブ王国の趣味とは真逆の世界なんです。流行もあるのですけれど。例えばですけど……そうね。もしウィリアム様の奥様がお婆ちゃんが好んで着ていたような昔のドレスを義母さんからプレゼントされていたらどう思います?」
「私に妻はいません!」
「いえ、例えばです」
「…………母に対して『妻にそんな嫌がらせをするな』と言うでしょう」
ウンウンとユイナが頷くとウィリアムは『妻はいませんのであくまで想像ですが』と再度口にした。
「少し分かってもらえるかしら?私たちが贈ってもらっているお品物は全てそういったものなんです。とても綺麗なのはわかるんですけれど趣味ではないの」
そう言うとセイナも確かにねぇと呟いてディケンズに言う。
「例えばですね、討伐がない日に朝ゆっくりと寝たりするのって幸せじゃないですか」
「俺はどんな日でも早朝から剣の鍛錬は怠らない」
「……例えばです。大好きな女性とゆっくり二人で夜を過ごして、朝ベッドの中でイチャイチャするのと、絶対に汚してはいけない正装に着替えさせられて、ベッタリ髪を撫で付け、髭を朝からきっちり剃り上げ、陛下達に謁見しにいく朝。どっちが幸せ感じますか?」
「……………………ベッドで寝ていることの方が幸せかもしれません。そんな相手はいませんが」
セイナは最後の一言をスルーしながら
「ね?そうでしょう?私たちはいつもそのギャップに悩まされているんです」
ねぇ〜〜と二人は顔を合わせてクスクス笑った。
「人に世話してもらっている立場ですが、私たちは自分たちの心地よい時間であったり、誰と過ごして幸せを感じるかの基準があるんです。もちろん皆様を全部否定するわけでは無いですよ。着飾るのも楽しいし、お茶会も会話が弾めば面白い。でもね、私たちの生活費は国の皆様の税金で賄われているんです。過分な宝石やドレスは気持ちが乗りませんし、赤凱の皆が残務処理と言う名の討伐で戦っている時に、呑気にお茶を飲む気なんてしないんですよ。権力って今までは少しは憧れていましたが、実際、手にしてみれば全く欲しいものではありませんでした」
結菜は苦い微笑みを二人に向けた。
「自分たちの価値基準と違う世界に暫くしたら馴染むのかな?って思っていましたけれど二年近く経っても変わりませんでした。白凱の皆様が私たちを『平民風情』と言いますけれどその通りなんですよね」聖奈が可笑しそうに笑うとディケンズは痛ましいように彼女を見つめた。
陰口はどんなところからでも本人に伝わるものだ。
彼女達は白凱の貴族の言葉や蔑んだ思いを知っていて受け止めていたんだろう。
「せめて同性の方達に敵視されないようにしたいんです。私たちは彼らと結婚する気はないって分かってもらいたいですし、一日も早く討伐を終わらせたい」
「ええ、彼女達とも話す時間は欲しいです。味方になってくれたら嬉しいけれど、そこまでにならなくとも意見を交換できる立場にはなりたいですから」
むさ苦しい男達と聖女達のお茶会は密かに行われたがそれを王家に報告する人間はいなかった。
それほどまでに総司令官達二人は聖女の『お相手』とみなされていなかったのだ。
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社交界の状況が変わったのは貴族令嬢達と聖女達が交流を持つようになってからのように思う。
悪役令嬢と呼ばれた幾人かが『聖女様達の話は興味深い』と言うようになった。
特に男性に対しての考え方や、女性の生き方に対して彼女達自身思うことがあるようで、女性だけの会の時はそれらを話し合っているという報告も上がるらしい。
とある貴族家では内々に決まっていた婚約が女性側から破棄されて騒動になったと聞いた。
男爵家の次男坊は入婿が決まっていたが結婚相手の家のメイドを妊娠させたらしい。
男爵家の令嬢は最初は黙認しようと思っていたようだがある日考えを変えた。
「愛人を認めるなら行き遅れの私と結婚してやる!だなんて上から物申す貴方なんかこちらから願い下げよ。我が家を愚弄する貴方と結婚なんてしたらそれこそ不幸の始まりだわ。私は結婚しなくても十分に幸せだって気がついたわ。家族は私に賛同してくれたもの。精々、メイドと仲良くやってちょうだい。もちろん、家同士で始めると言っていた事業計画は白紙にさせてもらうわね。すでに違うパートナーを見つけたから貴方も勝手にやればいいわ」
キッパリと告げた男爵令嬢の表情に迷いはなく男側は大層驚いて縋り付いたが、男爵令嬢からスッパリと縁を切られたそうだ。
他にも結婚を匂わせて何人もの令嬢と愛を交わしていた伯爵家の嫡男が夜会で締め出しをされるようになったと噂が流れた。
「自分の実力で伯爵になったんならともかく、生まれた時からの幸運を威張り散らして、挙句に女性に何人も手を出すなんて。そんな節操のない男の子種って要ります?私お金を貰っても要らないって思ったんです」
どこかの令嬢がそう言ったのが切っ掛けになったと聞くが真偽は定かではない。
王家の夜会で『婚姻の解放』が始まると各々貴族が盛り上がっている水面下で、何か大きな思考のうねりが始まっていると感じているのはディケンズ達だけではなかった。




