聖奈と結菜も言うときは言う
聖奈と結菜のお口が段々悪くなって参ります。
お上品なお話が好みの方は回れ右でお願いします
「ねえねえ、折角だから今回の討伐が終わって都市に戻ったら息抜きに芝居を見に行かない?」
結菜の目の前にヒラリとチケットが二枚落ちてくる。ジェラルドは端っこを摘んで蝶のように動かしながら
「俺たちにだって休息は必要だと思わない?ずっと根を詰めて遠征し続けていたら流石に心を病んじゃうよ」
息抜きやお楽しみに誘ってくれるのはいつもジェラルドだ。気持ちを上げる為と言っては人気の菓子や、小物を買ってきてくれたりもする。
結菜はこの国のお芝居には興味があったので
「それは良いかもしれませんね。行きましょうか。聖奈はお芝居などは見たことないって言ってましたからすごく喜びそう」と微笑んだ。
ジェラルドはそう聞くとプッと子供のように頬を膨らませた。
「いやいや、このお誘いはユイナにだけなんだよね。わかってくれるかな?」そう言うと急に背後に周りそっと肩に両手を置く。
「あのね、奥手って言うのは知ってたけどそろそろ大人の階段登らない?学園生徒みたいに集団でずっと仲良しごっこもいつまでも続かないと思うんだ。そろそろ二人きりで一度話したり、将来のこととか少しだけ考えてみない?」ジェラルドの甘い囁きが結菜の耳たぶを擽る。
その瞬間ゾワゾワ〜と首元に何かが這い上がったような感覚が走った。
「え?そんな……そういう意味なのね」
「俺の気持ちにそろそろ気付いて欲しいんだけど。神の国じゃこういう時どうするのかな?詩を送りあったりするの?それともダンスで表現したりするのかな?」
結菜は一瞬想像して顔面が強張った。
頭の中では小学校の時に一度無理やり宿題で書いた詩の一節が思い出される。
芋虫は、大きくなると蛹になる。
蝶になるまで時間がかかるね。
つついてみたらグミみたい
言わずもがな。評価は先生のかろうじてのお情けでくれた丸一個だ。周囲も『ゆいちゃんの詩は面白いね!』という当たり障りのない評価である。
大変である。
愛を囁き合うのに『詩』なんて送り合えるわけがない。
ダンスももちろん出来ない。
のらりくらりと躱してきたから、ジェラルドがそろそろ落としにかかってきたか!と思うと同時に、若い男性の、まあまあの汗の匂いと距離感に
『神様!!やっぱりこの年齢の男性を異性として見るのは無理!』という強烈な感情に突き動かされる。
これはきちんと断らなくてはと結菜は気持ちを引き締めた。
「ジェラルド様……その……この前私ジェラルド様の幼馴染の素敵な女性とお会いしましたわ。やはりあのような可憐な令嬢と将来を考えた方が私は良いと思います。私たちこの国を去る立場の者ですし」
目線を合わせきれずに、お人形のようなご令嬢を思い浮かべて、丁寧にお断り文句を口にする。
するとジェラルドは急に背後からギュッと抱きしめて声を上げた。
「わかってる!!女たちに嫌味を言われて心が傷ついたんだろ?でも君のような女性に会ったことがなくって。俺本気で感情が揺さぶられるんだ。ユイナみたいに芯があって謙虚で、一歩も二歩も後ろから男性を支えようとする人を僕は知らない!!気遣いができて押し付けがましいところがまるで無い女性なんてこの先一生会えないと思うと、運命だって思えて仕方ないんだ!!」
それは貴方のことを姉のように世話をしている……いや、母のように案じているからそうなるんです。二歩引いているのは年齢がひと回り以上離れていて、傍に行くと自分の年齢がバレちゃうかな〜って。特に肌の弾力とか、水の弾き具合とか?
と心の声が叫びだすが、『いえいえ、お父さんたちに言われて口説いているんでしょう?無理しないでよ』とそこを本音で語りたいという気持ちも湧き上がる。
こうなったら言うしか無い!と腹を決めて結菜はくるりと体を向ける。
「ジェラルド様。貴方がお父様たちに私たちをこの国に留めるように仰せつかっているのでしょう?召喚された私たちを気遣って、無理のないように引き留める方法を考えてのことだと思うの。でもそれは間違いです(主に年齢が間違っているんです)」
「父に言われて貴女に近付いたのは確かだ。でもね、この王国でユイナほど気高い精神の人もいないんだ。そしてその美しさにも僕は惹かれている。夜、闇に浮かぶ川の流れを見るたびにユイナの美しい黒髪を思い出して胸が熱くなるんだ。そして衝動が抑えられなくなる」
「え!熱くなって抑えられなくなる!」結菜の声がうっかり裏返ってしまう。
なんと危険な!さすが若者は夜の川を見るだけでそこまで想像するのか?!結菜は驚きを隠せない。夜の川を見ていても精々(気温が高かったらお風呂がわりに水浴びさせてもらえないかな〜)と考えていたアラサーの女とは大違いである。
「ご、ごめんなさい。私はジェラルド様にやっぱり相応しいとはとても思えないし貴方に応えられない。絶対に」
結菜は勇気を振り絞ってしっかりと伝えた。
するとジェラルドが苦しそうに呟いた。
「シンジ……が忘れられないのか?」
「え……?」
「君の心にずっといる神の国の男だろ?恋人だったのか?」
「あ……私シンジ君のこと話したことあったかしら?」
「やっぱり!その男が忘れられないんだ!もう会えないかもしれないそんな男、俺が忘れさせてやる!」
結菜は焦って言った。
「そんな!シンジ君とは一緒に暮らしていたんだもの!忘れるなんて無理だわ!それに彼は私にとって家族も同然で」
「苦!!俺は負けないっ。わかってるんだ、シンジと俺は似てるってことも」
「確かに少し似ているところはあるけど、でも聞いて」
結菜が話している最中にも「負けない!!きっと君の一番になってみせる!!」
ジェラルドは大声で叫ぶと猛ダッシュで走り去ってしまった。
結菜の胸がドキドキ鼓動を打つ。
「どうしよう。シンジ君が犬だって言おうとしたのに……なんでこの国の人って人の話を最後まで聞かないのかしら」
主張の強いウランバルブ人と、相手が話し終わってから、意見を伝えようとする控えめな日本人の結菜は一生分かり合える気がしなかった。
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湖畔のボートの上でパーカーが髪飾りをそっと聖奈の頭に着けている。
「えぇ?これは一体」
聖奈が慌てて頭に手を当てるとパーカーはクスリと笑った。
「似合いますよ。この国には貴方のように濃い黒髪の人はあまり居ないから私が金具を取り寄せ、布を魔術で染め上げて作りました。本当に美しいですね」
正面に座り直したパーカーは嬉しそうにはにかんだ。
「そんな高そうな物頂けません!パーカー様、貴方には素敵な婚約者さんがいらっしゃったじゃないですか。私に気があるような素振りをしてしまったら、彼女のお耳に入ってしまいます。こういうのはいけません!」聖奈は華奢な赤毛の令嬢ビビアンの涙目を思い出して、彼女が嫉妬に狂ったら恐ろしいじゃないの!と本気で断る。
「ダメです、不誠実な男の人って嫌われちゃうんですよ!私は要らないですから、ビビアン様?に差し上げてください。それにこんな大事なもの頂いても私にはお返しするお品物もありませんし」
聖奈は困ったように眉尻を下げる。
この国の高価な品物(換金製の高い品物)などもらったところで日本に持ち帰れない。
なのにパーカーはニコニコと笑っている。
「セイナ様。これは私の気持ちです。貴女に誤解してほしくないから言わせてもらいます。私は貴女が思っているような男じゃない。私の心の真ん中にいるのはただ一人。セイナ様、貴女だ」
聖奈はキラキラしい自分より顔も小さいかもしれない美男子を前に盛大に仰け反った。これ以上後ろにそりかえったらボートから落ちてしまうかもしれないと思いながら震え上がる。
(口説きにかかってくるとは思っていたけど結構直球ーーー!)
これはちゃんと断らないと討伐がまだ続くのに大変なことになってしまう。聖奈は気を引き締めるとパーカーに向き直った。
「一度話しておこうと思っていました。パーカー様。宰相のお父上から私をこの国に残すためにいろいろ言われていらっしゃると思うのですが、私はやっぱり日本が恋しいのです。貴方は本当に素敵な男性だと思います。でも私はパーカー様にどんな魅力的な提案を頂いてもその気持ちは変わることはないんです」(ナルシスト入ってるパーカー様は特に無理なんです)
聖奈は誠実に見えるように彼の目を見てしっかりと話す。
ね!本心だからちゃんと受け止めて。貴方がどんなにイケメンでも私は日本に帰るのは決定事項なんです。
届け私の思いーーー!と目に力を入れる。
パーカーはその勢いに一瞬呼吸を止めたが、やがてフッと吐き出した。
「ビビアンと王宮で揉めたことは聞きました。貴女がそれで心を痛めているんじゃないかと私は心配していたんです」
愁を帯びた表情でパーカーはフウとため息をこぼす。夕日をバックに湖畔のボートの上。美麗スチールのような彼の動きに聖奈も見惚れはするが、現実主義の聖奈がそこで胸を躍らせることはない。
「ビビアンとは幼馴染であることは本当です。ですが、私はその思いに応えることはできない。何故なら貴女という存在に出会ってしまったのだから。自立して、男に頼らず、媚びない女性なんて今まで知らなかった。セイナ様といる時だけ私は素の自分を曝け出せると気付いてしまったんだ」
クッとパーカーがボートのオールを力強く握ったが聖奈はそれを見て(出た!自分のセリフに酔ってる)と背筋に寒いものが走る。
やばい……振られたことのない男が年増の私みたいな女に振られたら、どんな暴れ方をするかわかったものじゃない。
早く岸につかなければこの上でキスとか盛り上がって雰囲気作ろうとするかも……
聖奈はもう一組のオールを手にするとスイーッと漕ぎ始めた。
「パーカー様。お気持ちは嬉しいんですが、私はパーカー様の傍に立つ自分が全く想像できません。何故だかわかりますか?私みたいな(筋肉ゴリラ)女が隣にいては皆が不釣り合いだと言うのも目に見えています。(主に私が泥棒猫呼ばわりされる未来しか見えない)きっとパーカー様は毛色の変わった見たことのない者に心がかき乱されているだけです。そして、私はビビアン様こそが地位も見た目も(精神構造も)相応しいと思うんです」
それを聞いたパーカーが貧血を起こしそうなほど顔を青ざめさせて天を仰ぐ。
「そんな悲しいことを言わないで。私にチャンスをくれ」
「いやいや……」
押し問答を何ターンか行なっているうちに、頑張って漕いだだけあって岸に無事ボートは到着した。
「パーカー様。どうかこの件だけは諦めてください。私は貴方に合わせることがどうしてもできそうに無いんです」そう言って髪飾りを外し、パーカーに渡そうとすると
「やめてくれ!!これは君を思いながら作った唯一無二の物だ。これだけは持っていてくれ」
「え!!でも困ります」
聖奈は必死に言ったがパーカーは踵を返すと走り去ってしまった。
聖奈は手に残された髪飾りをそっと眺めた。
「本当に無理だって……二十六歳の年齢とか無視してもこんなキラキラ乙女チックでリボンとお花マシマシのバレッタなんかつけてたら結菜絶対爆笑しちゃうって……そして私の趣味と本当に真逆なんだってば……」
誰にも届かない声が湖畔に静かに響いた。
「ヘェ〜ジェラルド君はシンジくんと毛の色が被ってるんだね。結菜の家にいるワンちゃんは何犬なの?」
「豆柴よ。とても可愛いの。お尻が特に笑」
聖奈がそれを聞いてあぁ〜と納得したように笑った。
それイメージ湧くなぁと言う意味だろう。
「ところでそれなあに?どうしたの?」
サッと隠そうとしたのにポケットが立体的に盛り上がるから、目敏い結菜にバレてしまった。ズボンの不自然に膨らんだところを見つめる。
聖奈は観念してポケットから取り出すと結菜の前に差し出した。
「こ、これは……原宿で買ってきたんじゃないわよね?」
「パーカーが私をイメージして作ったらしいよ」
「……………」
その日、侍女たちは非常に驚いた。
苦しそうに大きく咳き込む結菜がベッドに倒れていたからだ。
ヒイヒイ、ハアハアと呼吸困難に陥っていたため、何かの病気かと思ったが、大丈夫です!と二人は言う。
「パーカー様、そういうとこだよね。日本にこんなロリータファッションでもない限り、少女趣味のデザインのものつけることないんだけどね。ここの国のファッションいつになったら、私たちの気持ちに馴染むんだろうね」
「そこなんだよね〜私人生の中で花柄とか1回も来たことないんだけどどこからこのイメージ来たんだよってなっちゃう」
聖奈の泣きそうな笑顔を見て、結菜も激しく同意するのだった。




