四、参-中「真ん中」
重い。想定よりも、一段強い。
腕の中で暴れるようにうねる力。押し返す間もなく、
ジンの体ごと後ろへ押し込まれていく。
その先——通りの端では、見物に来ていた若いニ人組の女性が、完全に足を止めていた。
「え……ちょっと、こっち来るんだけど!?」
「嘘、止まってない……! 兵士さん何してんの!?」
そのとき——
(そこで止めろ!それ以上いかせるな!)
ツカサの声が、ジンの意識に鋭く入る。
(い、いや、こ、この力!)
抑えるだけで限界だった。
攻撃に回す余裕などない。両腕、身体へと伝わる圧が、骨の奥まで軋ませる。
獣魔が暴れるたび、足がずるりと後ろへ滑る。
「きゃっ——!」
二人組の一人が腰を抜かし、その場へ尻もちをつく。
「ちょっと、立って! 早く!」
もう一人が、半ば叫ぶように振り返る。
誰もが距離を取ったまま、息を呑み、目の前の暴れる黒い巨体を見ているだけだった。
兵士たちも、踏み込む隙を掴めない。
「ぐっ……!!」
ジンは踏みとどまりながら、獣魔の首元へ左腕を深く押し込み、
そのまま体を密着させるように組みついた。
暴れる頭を押さえ込みながら、獣魔の体に沿うようにさらに踏み込む。
重心ごと強引に押しつけ、抱え込むように拘束したまま、右手の対魔剣を引き絞った。
刃先を、獣魔の胴へ向けようとする。
(な、なんとかっ……!)
獣魔が低く唸り、全身を激しく震わせる。
暴れる力がさらにもう一段、膨れ上がった。
組みついたジンの腕を引き剥がそうとするように、巨体が荒々しく暴れる。
黒い気が毛並みの隙間から噴き出すように立ち込め、周囲の空気を重く濁らせた。
押さえ込んでいるジンの体が、今にも弾き飛ばされそうになる。
周囲では、兵士たちが一歩引きながらも、辛うじて陣形を維持していた。
「お、おい……今なら後ろからやれるんじゃないか?」
張り詰めた声が漏れる。
「そ、そうだな……お前が行ってくれ……」
「い、いや、お前が……」
獣魔から溢れる気に押され、誰も不用意に踏み込めない。
だが視線だけは、全員が一点、黒い巨体へ食らいつくように抑え込む、ジン達へ集中していた。
周りの市民も、息を呑んだまま距離を保ち、ざわめきだけが広がる。
少し離れた所で、ツカサは腕を組んだまま、一歩も動かない。
視線だけを、まっすぐジンに向けている。
ジンと獣魔のすぐそばで、先ほど腰を抜かしたその一人が、まだ地面に座り込んでいた。
「む、無理……立てない……っ」
「いいから行くよ! 早く!」
もう一人が必死に腕を引き、半ば引きずるようにしてその場から離れようとしている。
ジンはなおも、獣魔に押し込まれていた。
左腕で首元を抑え込み、体を密着させている。だが、暴れる力が強すぎる。
右手の対魔剣に力を込めようとするが、うまく入らない。
(く、くそっ、限界だ……)
感覚が薄い。
腕も、足も、もう自分のものではないようだった。
汗が顎を伝い、地面へと落ちる。
獣魔の唸り声が、耳、体の奥まで響く。
そのとき——
(ジン!下に回り込め!)
ツカサの心念が、ジンに飛び込んできた。
(し、下!?……)
ジンは、獣魔と自分の入り込んでいる位置関係をちらりと見る。
(た、確かにいけそうか!?......)
(縦横の模様が交わる、胸の真ん中!)
(えっ、も、模様……!?)
(速攻だ)
一瞬、意味が分からない。
だが考える余裕もない。




