帰路にて。
簡単なタイトルになりますが、
小夜の話三話目です。
放課後、帰路。
「……お、重い。買い過ぎた……」
スーパーで買い出しをしてから家へと向かう。両手にパンパンに詰め込んだビニール袋をぶら下げて背に鞄を背負う。
そんな主婦もびっくりな大荷物を持って家への帰路を急ぎめで足を動かす。だが、
「サヨ片方持ってあげようか?」
「だ、大丈夫………。」
――両手の荷物が重くて思うように歩行速度が上がらない。
横には、マリアが一緒にいる。
絶対、と言って私に付いてきたマリアが心配そうにしている。
こんなに持っていれば心配もされるよね。
「やっぱり片方持つよ、それくらいはさせて。
サヨの手が千切れたら嫌だし。」
いや、これくらいで千切れるほど人間の体は柔じゃないと思うよ。
けど、先の道を見て心が折れた。
延々と続くのかと思えるくらいの長い急斜の坂が続く。
「……………片方、お願い。」
「うん!」
明日筋肉痛になっても困るため。素直に持ってもらおう。
はちきれんばかりのいい笑顔でマリアが返事した。その笑顔は凶器。もし私が男なら、
この場で―――告白しそう。
マリアが鞄を肩に掛けて両手を使い私が渡した袋を持つ。
「うっ。おもっ!サヨよくこんなの持てたね。」
「これでも、昔は鍛えられたからね。じっ様に。」
小夜は、
数年前の遠い記憶が呼び起こされて、
遠い目になる。
祖父 十六夜 流弦の指南を受けた日々を思い返す。
冬の寒い朝から木刀を一本。
腕の感覚が無くなるまで振り続けそれが終われば、じっ様が稽古をつけてくれた。
普段は物優しいじっ様。
だけど、稽古となれば人が変わる。
あれは、《鬼》だ。
「鍛えられた……?。
サヨってスポーツか何かしてたの?」
「昔、じっ様の影響で剣道を齧った……。」
「へぇ。けど、部活はしてないよねサヨ。
剣道、しないの?」
「………複雑な事情でしない。」
じっ様が亡くなった後に、母さんの離婚。
それから間もなくして兄さん。
ここ数年、心身的に来る出来事ばかりのため剣道をするどころではなかった。
「ふーん。ま、私はサヨには部活入ってほしくない……かな。こうして、一緒に帰る事もできなくなっちゃうから。」
「マリ……」
彼女のような『親友』を持てて、私は幸せ者だと思う。
「サヨの家ってそこを右、だったよね?」
「そ。右に曲がって、真っ直ぐ。」
坂を下り右に右折して、そのまま真っ直ぐ進んだら右手に今朝出た家がある。
夕暮れ時のこの時間。
冬であれば、もう真っ暗となっていたのだが、大分、日が伸びた。
「……重い。サヨこんなに買う必要、あったの?
巣籠もり前のクマさんみたいだよ?
サヨ巣籠もりするの?」
「しないよ!しないしない。
私と母さんの二人ならこんなに買わないけど、
……三人で来るみたいだから。」
「へぇー。三人なんだ。……あ、そこだね。」
マリアと話していると家まで目と鼻の先。
家の前に三人誰か立っている。
どうやら私達が到着するより先に
着いていたようだ。
「さよちゃーん!!!」
その内の一人が気付いて私の名前を呼んで手を振る。私も振り返す。
「ひっさしぶり!ナナミ~ン!!」
葬式の際に見た黒一色の制服に赤い線が入った冬用の制服。
長くなった髪をポニーテールにしてまとめて色白の肌が覗いている。
小さい顔に引き締まった体躯が一年前より、彼女の美を更に引き立てている。
学校のあと直行したのか学校の鞄を担いだまま。
「え、と。さよちゃんこちらは?」
「私の親友のマリアだよ。
……と、先に買い物置かして。
さすがに、手が痺れてきたから。」
近寄ってきた恵に軽い紹介をしたあと、空いた手で鞄の中をまさぐる。
買い物を持っている手に食い込んで痛い。
早く荷物を家に置きたい。
「うんそうだね。あなたも止めちゃってごめんなさい。」
「い、いえ。私は……そんな。」
マリアにしては、遠慮がち。
あんな美人さんと話すことが出来たのであれば、すぐにでも抱きつきそうなのだけど。
鞄の中から鍵も取り出す。
家の扉のロックを外すために、家の前にいる二人へと距離を縮める。
「TKコンビも久しぶり。
覚える、よね?私のこと」
昔より、随分と背が伸びた二人。
「覚えてるよさよちゃん。久しぶり。
そのTKコンビ。
……懐かしいな。」
スポーツ刈りで横を剃って頭の上の方を伸ばしている男の人。
大分変わってはいるが、昔の面影は残ってある。――高原 孝希
TKコンビの片割れ。
昔はよくナナミンを苛めていた人物。
「久しぶりだね。さーよちゃん♪」
もう一人のこの人には私もびっくり。
コウキ先輩とは違い面影など全く残っていない。
茶髪に染めた髪を男の人にしては長く伸ばしている。一応、校則関連でピアスなんかは見あたらないが、チャラ男のイメージそのまま。
――鷹野 好太郎
TKコンビのもう片割れ。
ナナミンからは多少話は聞いていたがここまでとは知らなかった。
「その荷物重そうだね。持つよ。」
「いいですよ運べますので。」
「よっと。重っ!さよちゃん何をこんなに買ったの?」
「あ、ちょっと!」
好太郎の助け船は断ったのだが、
孝希が無理矢理小夜の持っていた買い物袋を奪い去った。
ま、いっか。使える物は使っちゃえ。
「持つからには、絶・対に。
落とさないでくださいね。卵も入ってますので……」
「お、おう。」
袋を奪い去った孝希が小夜のその気迫に圧されて退く。
その横で好太郎が笑いを堪えている。
「さよちゃん、……随分とたくましく育ったね。
前はヅッキーの後ろにベッタリだったのに、
今ではコウキを顎で使うとか。」
ヅッキーとは、兄さんのこと。好太郎先輩は兄さんを昔からそのあだ名で呼んでいる。
「鷹野先輩こそ、随分と変わりましたね。
特に見た目が。」
「イメチェンしたんだ~。さよちゃんどう?
似合ってる?」
「ウワ~、スゴイニアッテマスヨ。
セ・ン・パ・イ♪」
「もうちょっと、感情を込めてよ~さよちゃん」
そんな先輩達の間をするりと避けて扉の鍵穴に持っている鍵を刺す。
ガチャリ
解錠された音の後、鍵を元の位置に戻して引き抜く。
「ようこそ、我が家へ」
チャラ男とスポーツマン登場。
序章にも登場しましたが、
見た目はここが初、となります。