あれから一年
久しぶりに投稿します。
チリ―――ン
おりんを鳴らして、両手を合わせた。
そして一言、
「行ってきます兄さん。」
正座から立ち上がり、
廊下を通って玄関で靴を履く。
玄関に置いていた鞄を担いで、ささっと外に出る。
ふと、スマホの画面を確認する。
六時五十分
―――まだ日も出ていない時間。
肌寒い外の風を浴びて深呼吸。
肺を冷たい早朝の空気が通り器官に入っていく感覚がする。
しっかりと首にマフラーを巻いて、鍵を掛け戸締りを確認。
そして歩き出す。
いつもの道を通り学校へ向かう。
朝の風を浴びても眠い。
基本的に私は早朝に弱い。
頭がぱっとせず、ぼーっとする。
首には紫の石を嵌め込んだ蝶々の形のペンダントが着慣れた制服の下に隠れている。
「おっはよ~、さーよ!」
寝ぼけながら道を歩いていると、突然後ろから
重しが体にのし掛かる。
堪らず体がよろけた。
「きゃっ、もう!マ~リ!!」
「あはは、ゴメンって!サヨって朝弱いんだったね。忘れてた~♪」
「はあ、‥‥おはよう。マリ」
彼女のハグで一気に眠気が吹っ飛んだ。
抱き付いてきた私と同じ制服に、"赤い"リボンの女子高生。
それは同じ学年を意味する。
『浅川 真理亜』
私の親友で地毛の茶髪が肩まで伸ばした女の子。
流行りの軽めのナチュラルに化粧をした
彼女は、学校でかなりの人気者。
一部では、ファンクラブもあるらしい。
噂によれば、
ファンからは名前が"まりあ"から、『マリア様』であったり、まだ結婚もしていないのに、『聖母様』と呼ばれることもあるそうだ。
おしゃれに疎い私でも、
彼女の魅力を肌で感じる事がよくある。
彼女は私と同じく二年に上がったばかり。春になったというのに、今年は、その寒さは未だに健在。
早く暖かくなって欲しいところである。
‥‥昨日、兄さんの一回忌であった。
もう、あれから一年。
とても早く感じてしまうが、それでも。
あの日のショックは昨日のように思い出す。
そして、あと一月もすれば、私は兄さんの歳に追い付いてしまうのだ。
「‥‥ヨ!サヨってば!聞いてる?」
「あ、ゴメン。ちょっと考え事してた。」
私の顔を覗き込むように見てきたマリアの顔で 我に返った。
「なになに?なーに考えてたの?」
「‥‥内緒」
年頃の乙女らしく口に手を一本立ててウインク。同級生の男子であれば、
これでノックダウンしそう。
―――て、何を考えるんだ私は……
「えー、いーじゃんか。教えてくれたって!」
「乙女には秘密が付き物ですよー」
「ぷっ。何それww。いつの時代の人?」
「現代人」
「あははははははは!!
さ、サヨ…。私を笑い転がせたいの!?」
お腹を抱えるマリアと愉快な会話をしながら通学路を通って学校へ向かう。
***
学校に近付くに連れて、徐々に同じ制服の生徒が増えてくる。
あちこちで「おはよう」という声が頻繁に飛び交う。校門を通り抜けて、下駄箱で靴を取り替える。
「サヨ、昨日出た課題やった?」
「んー、一応やったよー」
答案が合っている自身はないけど。
「マジッ!あとで見せてお願い!!」
どうやらマリアは出来ていないよう。マリアのこんな拝むようなポーズをするのは出来ていない時だけだ。
「べつにいーけど、『苺ミルク』奢ってね♪」
「ふえー、私が奢るの~!?」
「いやならべつにいーけど。今日、マリアが当てられる日、でしょ?」
私達の先生は、基本的に今日の日付で当てて行く。それが、今日はマリアが絶対に一回は当てられる日なのだ。
「ああー!そうだったー!!」
頭に雷が落ちたようなショック顔をしている。
これは、勝ったな。
昼のお値段が浮いた。ラッキー♪
「ならお昼にお願いねー♪」
「背に腹は代えられん。
よろしく願うでござる。」
畏まったような言い方をマリアがする。
「どこの落武者よ!(笑)」
「まだ落ちてないよ!」
「はははっ!」
他愛ない会話をして扉を開ける。
教室入ってクラスメートに「おはよう」と挨拶をしながら、席に持ってきた鞄を置く。
ちなみにマリアは私の前の席。
鞄から課題をまとめたノートを取り出して、マリアへ渡した。
「サンキュー」と一言だけマリアは口にした後、黙々とノートに書き記していく。
席に戻って空を見上げる。
「もう、一年。‥‥何だよね。」
登校中考えていた事について思案する。
チャイムまでにはまだ少し時間がある。
最近はよく暇さえあれば、一年先について考える事がある。
あと一年もすれば、進路を決めなければいけない。
―――就職するか、大学に進学するか。
私個人としては、大学へ進みたい。
けど、大学となると、勉強面もあるが、母子家庭であるため金銭面も考えないといけない。
そうなると、兄さんの遺骨を墓の中に納める日が遠くなってしまう。
―――兄さんなら、
気にするなといいそうだけど……。
いつまでも納骨しないままでは兄さんが可哀想。あんな無残過ぎる姿だったというのに。
肉が焦げたような異臭。
白い布を掛けられただけで帰って来た兄の体。
(うぐっ。‥‥大丈夫。これは幻覚。幻覚。幻覚。あれはもう一年前。だから落ち着いて。落ち着いて……。)
吐き気を催し、心を鎮める。
‥‥‥‥最近は納まっていたのだが、やはり。あの時の光景を思い出すと、胃の中を戻しそうになる。
自然と右手が首に掛けた蝶々のネックレスがある部分へとおいていた。こうすると落ち着く。
気分が悪くなった時、兄の形見であり、最後のプレゼントを握ると心が落ち着く。
兄がこの世に残した最後の。――想いの形。
私を優しく包み込んでくれているようで安らぐ。
キーン コーン カーン コーン
HRのチャイムがなると同時に、担任の先生が扉から入ってきた。
今日の始まりだ。
小夜の話に入ります。
最近は諸事情により、前話の全修正を行っていますので投稿のペースは遅くなってしまいます。