雪の降る夜
更新します。
前話より、少し時間が過ぎています。
吐いた息が白い靄となって、灰色の空に消えていく。
肌を撫でるように付いた白い綿が袖の上に付着すると、シュッと一瞬で消える。
ピコン!
脳内に軽い音が響いた。
どうやら正常に起動しているようだ。
『ネスネス~!!』
『寒くないの~!?』
空から雪、じゃない。精霊二人がふわふわと近寄ってくる。自分より見るからに寒い格好をしている。もう肌が晒し過ぎて水着といっても過言ではないくらいネモとペーレの格好は寒そうだ。
「調子、どうだ?」
『うん!バッチリ~!』
『ありがとうネスネス~!』
二人に礼を言われるような事はしていない。
どちらかといえば、こちらが助かっている方だ。
――何せハニワさんに二人の『眷族』を搭載した
『新生・ハニワ』を警備に二◯体も回しているのだから。
精霊は濃密な魔力の中で格を上げる。
それは自身の体に長い年月を掛けて周囲の魔力を貯蓄する。そして、貯蓄した魔力を一気に使うことで『進化』とも呼ばれる現象が起こる。
――これが『精霊』が格を上げるという事だ。
ハニワさん『試作品1号』のおかげで。
精霊が中へ入ることで危険な魔物を駆逐させることが出来ることは既に証明された。
もし、そこに『倒した魔物の魔力を吸収させる』という機能を加えたら、その場合はどうなるのか。答えは簡単。
―――精霊の貯蓄する魔力となる。
ペーレとネモの仕事は、
眷族である精霊達の格を上げること。
それは本人達の口から聞いた。
俺は聖域を魔物達から守りたい。
――そこで俺の制作した『ハニワさん』だ。
ネモとペーレの仕事と俺の目的が組合わさったハニワさんは使える。ということで、ネモとペーレの眷族達に警備兼、格上げをしてもらっているということだ。
「ううう~、さむっ!!」
厚着をしているというのに、肌を刺す寒さは変わらない。辺り一面が雪景色。
まだまだ春が来るまでが遠い今日この頃。
「二人とも戻るぞ。」
『『あ~い!!』』
冷えた体を暖めるためにネモとペーレを連れて家の中へと戻る。
***
「外で何してたのじゃ?ネスクよ」
入ると真っ先にミレドと遭遇した。
「ハニワさんの状況確認。どうやら、正常らしい。な?」
『うん~!』『バッチ~!!』
ネモとペーレがミレドに小さな手でVサインを作る。
「そうか。問題無いのならば構わぬが、そんな格好で外に出ておったのか?」
ミレドがネスクの格好を下から上へと見る。
長袖の黒いシャツ。その上にブルモーの革を加工して中に綿を敷き詰めたジャケット紛いの物を羽織っている。下は靴下を数枚重ねた物を履き、ズボンは風を通さないように加工した長ズボンを履いている。
「その辺だけだからな。」
「それでも今日は一段と冷えたじゃろ?
さっさと暖炉の前まで行けよ。また風邪ひくぞ………」
半月前、雨でびしょ濡れの上に、頭からココモアの実の果汁を頭から被ったことで見事に風邪を引いた。ミレドの聖魔法でも流石に風邪のような細菌はムリなようで数日間。
高熱に苦しめられた。
朦朧とする意識の中でポーアの煎じた苦すぎる薬草が昨日のように思い出す。
その分、
すぐに治ったがその味は今も忘れられない。
―――良薬は口に苦し。
そんなことわざの意味を身を持って味わった。
「へーい。」
『へーい?』『へへーい?』
風邪を引いてからという物、妙にミレドが体調面を気にするようになった。その物言いがまるで母のような‥‥。
「あ、ネスク様!」「ネス様」
「‥‥ネスク」「ネスクさん」
「ネスク、さん」
暖炉の前は満員電車のように渋滞していた。
暖を取るポーアにクーシェ。そして、暖炉の前で遊んでいるパルメとルリとフルール。
―――そして、
ポーアの膝上ですやすやと眠るフィアール。
その近くで丸くなって自身の尻尾を体に乗せて眠るマロンと大きな黒い羽を小さくして眠るネラ。
ここまで無防備になっているのも、この半月をそれなりに過ごした事で敵で無くなってはいるのであろう。
だが、いまだにフィアールとマロン、ネラとはまともに会話が出来ていない。
パルメ、フルール、ルリとはそれなりに会話を交わせるほどにはなった。
「三人はまた、やってるのか?」
眠る三人を起こさないように、声を落とす。
三人の手の中には俺があげたヒヨコさんがいた。
「‥‥うん、‥‥お守り」
「可愛い、から」
「大切にしてます……」
俺が無意識で作ってしまったヒヨコさん達は『お守り』としてルリ達六人がそれぞれ持っている。
普通に見ればただの置物。だが、ちょっとした仕掛けを施してあるのだ。
それは、持ち主の魔力を微弱ながら吸収する。という仕掛けだ。三人が持つヒヨコさんには既に彼女達の魔力を吸収したのかそれぞれの『色』が見える。
パルメが淡い『青』、フルールが白に近い『黄』、そしてルリが『黄緑』。
それぞれの色が付与されたヒヨコさんはその内それぞれの性質にあった物に変化する筈だ。
神器ほどでは無いにしろ彼女達に力を貸す物に『進化』する仕掛けとなっている。
ヒヨコさんがどんな姿に成り変わるのか今から楽しみだ。
「よっこいせ。」
羽織ったジャケット紛いを脱いで床に座る。床には熊の魔物から剥いだモコモコの毛皮が敷かれている。(靴は外から戻った時に脱いである。)
ネモとペーレも、ポーアやクーシェの近くにちょこんと下りて座った。
暖炉から発せられる『温もり』という名の誘いに引かれたネスク達が猿山のお猿さんのように団子状態。そのせいか、いつもの生活スペースが広く感じる。
この家も何回改築を繰り返したのか分からないくらい改築をした。
始めは、ミレド、クーシェ、俺、ポーアの四人が暮らせる程度だったのが、今では俺を入れた十三人が暮らせるくらい広い家になってしまった。
物思いに耽っていると、あぐらを掻いていた上に重みが乗っかる。
振り返るとあぐらを掻く太ももの上にルリが乗っかっていた。フルールとパルメも俺の近くに寄って来ていた。
「‥‥ネスク‥‥お話‥‥して?」
お話というのは、前世の『昔話』だ。
ルリ達は、まだ奴隷として扱われていた頃のことが悪夢として夢に出るようでそんな時はなぜか俺のベッドに潜り込んでくるのだ。
そんな時に『昔話』をよくしてあげる。
「そうだな‥‥どんな話が良いんだ?」
「‥‥雪」「動物のお話が、いい」
「暖かいお話がいいです」
三人の意見に合ったお話といえば、
狐の子どもが手袋を買いに行く話かな。
雪が降って、動物の話。そして、悲惨な話でもない。心が少しほっこりする話。
(ソフィまた頼めるか?)
『‥‥分かりました。少々お待ち下さい』
頭の中でソフィアに話掛けると回答がすぐに帰って来た。禁書庫の中には子ども向けの昔話もあるようで読み聞かせのためによくその絵本をお願いしている。
しばらくするとピコンと言う音がした。
「【語り本】」
ボンッという煙と一緒に薄めの絵本が一つ。
――ソフィアに頼んだ本だ。
「そんじゃ、始めるぞ。」
ネスクの語り物語が始まった。
雪が降りしきる夜。その物語の中でも、
こんな風にちらちらと雪が降る。
―――ネスクの語りをその場の皆が耳を傾ける。
窓際にいるミレドも、外の景色を眺めて
聞いていた。
外には、その物語から飛び出したように、
狐の親子が戯れている。ネスクの語り聞かせを聞きながら、時間が過ぎてゆく。
そんな安らかな時間に全員が微睡む。
小さな寝息も淡々と語るネスクの言葉で安らかである。
次回はまた場面が変わる予定です。
もっと冬の話をしたい所ですが、そろそろ三章への欠片<ピース>を話に混ぜたいのでころころ変わる話になってしまいますがお楽しみに。