『甘いもの』と優しさを
いつもより少し遅くなりましたが更新します。
――――ゴツンッ!
精霊二人の頭に衝撃が落ちた。
『いた〜い!』
『ううぅ〜!』
ネモとペーレの頭に大きなたんこぶ。そのたんこぶを作ったのはもちろんネスクである。
「これで許してやる。はあ、感謝しろよ。」
本当はもっと鉄拳制裁をしたいが流石に可愛そうだから頭に指での(デコピンで)げんこつのみにした。
――他にも、指圧でこめかみをぐりぐりを考えていた。
しばらく移動したところでただ今休憩中。
子どもでも三人抱えれば長時間の移動はかなりしんどい。ポーアの(魔力反応の)方へ近づいている。魔物の反応も遥か彼方、約一○○メートルくらいは離れた。
その反応も徐々に消えていく。
三人(ミレド、クーシェ、カレン)のいずれかが対処しているのだろう。
『ごめんなさい〜!』
『めんご〜!』
「‥‥もう一発、やる?」
『『い〜え、結構です〜!!』』
反省の色が見えない謝り方をしたため、
くろ〜いオーラで指を鳴らすと二人が慌てたように声も同調して慌てふためく。
―――もちろん冗談である。俺はそこまでサディストではない。
「まあいい、二人とも元気そうで良かった」
『うん!元気、元気〜!!』
『から元気〜!!』
‥‥‥"から元気"なら、(精霊界へ)戻って欲しい。
ネモとペーレは、あの内乱後。
魔力を使い果たしたネモとペーレは、精霊界に帰っていたのだ。
「二人とも、王様には怒られなかったのか?」
王様とは精霊王のこと。
二人は王様に内緒で出てきていたため、普通なら――怒られる筈だ。
『もう、カンカンに怒られた〜。』
『うう〜、思い出すだけで〜、お尻が痛い〜』
ネモとペーレがお尻を押さえてさすり出す。王様にお尻ペンペンでもされたのだろうか。
――なんか、こどもっぽいな。
「‥‥で?二人がここにいるってことは、許してくれたのか?」
『うん〜ゆるしてくれた〜。』
『けど〜、バツとして〜お仕事頼まれたの〜』
???
許しをもらったが、仕事を頼まれた。
普通であれば、精霊界から出さないと思うのだが‥‥。
精霊王の意図が全くもって、分からない。
「ネスク‥‥誰?」
服の袖を引っ張られ振り返ると復活したルリがいた。
「そういや、ルリ達は会ったことないのか。この二人は『精霊』、ネモとペーレだ。」
「!」
ルリがびっくりしている。
―――『精霊』。普通はこの反応か……。
俺達は特殊過ぎて『精霊』と知ってもそこまでの衝撃はなかった。メンツがメンツだからな。
この世に唯一の龍に。
『RDB』、(絶滅寸前の生き物を記した本)に表記されてしまった種族に。
一国の(元)姫。
肩書きが濃すぎて『精霊』という種名が薄れている。
『めっずらしい〜。《セイレイノコ》がこんなところに〜』
「せいれいの、こ?」
ネモの言葉で妙な単語に疑問符が浮かんだ。文字通りならば、『精霊の子』。
どういう意味だ?
『ネスネス〜あの子達ほっといていいの〜?』
おっといけない。いけない。
ペーレの発言で思い出した。
***
「二人とも落ち着いたか?」
ネスクの顔に視線を向ける二人。
『マーメイド族』のパルメルスと『ユニコーン族』のフルール。
怯えた色は抜けていないが魔物の襲撃前のパニックは収まったようで良かった。
抱えていた三人を木の根元に下ろして雨宿りが出来るまだ木の葉がある所に座らせていたが、ルリはそこで精霊二人に取り囲まれている。
ネモかペーレの影響なのか。降ってくる雨が俺達を避けて降る。自然の力を操る『精霊』ならそれくらい朝飯前なのだろうな。
懐に入れていた魔法の袋からボーリングの玉の大きさの『ココモアの実』を取り出す。
『ココモアの実』は硬い外皮の中に糖分を含んだ飲料を内に貯めた木の実。前世でいう『ヤシの実』のような物だ。
硬い外皮に指圧で小さな穴を開ける。
「‥‥‥‥どうぞ。」
ココモアの実を二人に渡す。
差し出したココモアの実を二人は躊躇いながら受け取る。二人はネスクの行動の意図が分からない様子。
「子どもなんだ。水分補給はしとけ。」
子どもは汗をよく掻く。体の代謝が大人より良いからだ。
その分、体内の水分もすぐに減少する。
季節が移り変わってもその摂理は変わらない。
――家を出てから約二時間近くは経過する。
その間、水分補給をしていた様子は無かった。
人間とは不思議な物で。極度の緊張状態になると自然と体の水分を多く消費する。二人はポーア達と離れ過ぎたせいで精神的にも疲れている筈だ。それは極度の緊張状態に値する。
「疲れた時は甘いもの。な~んてな!」
二人にココモアの実を渡した後自身もその実を袋から取り出して飲む。
果実の汁に甘酸っぱい味が口の中に広がる。
スポーツドリンクに似たその味は意外に癖になる味だ。
ネスクの飲む姿を見た二人が真似する。
「!!!
‥‥‥‥おいしい。」
ついさっきはパニックを起こしていたせいで気付かなかったが、パルメルスは透き通るような綺麗な声をしている。『マーメイド』といえば、『歌姫』というイメージが強い。
――それは、この世界でも同じようだ。
きっと、歌を歌えば綺麗な歌声だろうな。
フルールもパルメルス同様、驚愕している。
心なしが額の角が淡く光っている。
「うまいだろ?」
ネスクが二人に笑い掛ける。転生者のため忘れがちであるが、この世界ではネスクもまた、立派な子ども。そのネスクが笑うと自然に年相応の『幼さ』が堅調に現れる。
―――イタズラが成功して喜ぶような純粋な笑み。
その幼さは、この場合は良い方向に繋がる。
奴隷として扱われ、下劣な笑みに当てられた二人にはその違いが過敏すぎるくらいに感じ取れる。
―――怯えが消えていく。
二人の中に巣くっていた『悪意』が払われる。
それは少女達の事を思いやるネスクだからこそ出来たこと。
「「うん!」」
二人がネスクの問い掛けに答える。
ネスクに釣られて自然と二人から笑みが零れた。それは初めてネスクに見せた二人の心からの声であった。
――この人なら信じられる。と
『あー!!ネスネスずるい~!』
『ペーレも~、ペーレも頂戴~!!』
精霊二人が騒ぎ出す。
「はいはいちょっと待て。というか、精霊も飲んだり食べたりするんだな」
『するよ~!しようと思ったらね~』
『ね~!』
ネモとペーレがそう答える。
ネスクはそれを聞きつつ再び袋の口を開けてココモアの実を二つ取り出す。
ジー
いや、三つだ。
ルリが興味深いのか俺の飲んでいたココモアの実を見ている。
「まったく‥‥」
こんな騒がしくなるとは、数ヶ月前の自分なら真っ先に逃亡を図っていた。
ブシャーッ!!
ネスクが指圧で穴を開けると、中身がネスクにぶっかかった。ネスクに果汁たっぷりの飲料が頭から掛かりびしょびしょ。
『ぶっ。あはははははははは!!』
『ネスネス~ははははは、はっ何してるの~!』
考え事をしていたせいで指圧の加減を間違えたようだ。
「「「ふふふふふふふ!」」」
果汁ブシャーのネスクを見たその場の全員が笑う。水も滴る良い男ならぬ果汁滴るネスクであった。
これで三人。残すところあと、半分。
ネスクの少女達攻略はまだまだ続く。
さて、次回。
精霊二人と残りの三人を連れてポーアと合流してから戻ったネスク。家に着いた一向達の前に合った光景は‥‥。