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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2.5章 様々な思惑、動き出した運命の歯車
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運搬車《タクシー》ネスク

一日空きからの投稿です。

 

 ―――森が姿を変えた。


  ざわざわ ざわざわ


  枝が擦れて枯れ葉が宙を舞う。

  皆で散策をしていると、突然空気が変わった。

 不穏な空気を漂わせる。

 ――嵐の前のような静けさ。


「ネス様これは‥‥。」

「‥‥空気が‥‥‥‥ざわついてる‥‥」


  ポーアとルリが突然の変化で困惑している。

 自分も両手の包帯の下の肌が総毛立つ感じがする。

  空が曇り雨がぽつぽつと降り始めた。

 こんな時期外れだというのに。


―――っと、こんなところで立ち止まっている場合ではない。


「‥‥ポーア、あの子達を連れて引き返そう!」


  目で見える変化。それは強力な魔物がいる証拠。ミレド達が魔物の対処をしてくれてるとは思うが。――絶対に、とは言い切れない。

  こんな森の中。子どもを庇いながら戦うとなると流石の俺でも魔法無しでは、かなりキツイ。


  俺もこの数日で多少の魔法は使えるようにはなったが、それでも以前のように強力な魔法をぼかすかとぶっぱなせない。


「はい!‥‥っ、あの子達は!?」

「‥‥っ!」


  ポーアが辺りを見渡すと、子ども達五人の姿がどこにも無い。先ほどまで、花を観察したりしていた子ども全員、姿を消していた。


――――マズイ。


「【長距離探知(ロング・サーチ)】」


  自分を中心に波紋が広がる。


 ・・・・・・・いた。


  ここから西に三つ。北に二つ。

  二方に別れた反応を示した。

  子どもは目を離すとすぐにふらふらと遠くへ行ってしまう。まだ親になる年ではないけど親御さんの気持ちが分かった気がする。


  その付近に赤の点が幾つもまばらにある。

 まだ気づいてはいないようだがいずれは気づかれる。


「いた!西に一○○、北に一五○。ポーアは西の三人を頼む。」

「分かりました!ネス様、‥‥よろしくお願いします。」


 ポーアと目と目でアイコンタクト。

――そして、蔓羽衣をたなびかせてポーアが駆け出す。


「ルリ、お前は‥‥」

「いや!私も‥‥‥‥行く。」


  ぎゅっと裾を掴まれる。


「いや、子どもは戻れ。足手まといが増えるだけだ。だから、‥‥戻れ。」



  キツイ言い方になってしまうがそれでも彼女の身の安全が何よりだ。―――だが、ルリは振りほどこうとするも離さない。


「む、‥‥ネスクも、子ども。‥‥だから、戻るのなら、‥‥一緒!」

 

  ルリがむすっとした表情。確かにネスクの見た目は、十四の子ども。中身は十七だが、反論はできない。


「‥‥‥‥。


 ‥‥‥‥‥‥はあ。時間がもったいない、か。仕方ない。それじゃ、行くぞ。」


  しばらく悩みに悩んだネスクはそう結論付けた。――こうなれば、連れて行った方がいい。

  こういう子は一度事を決めてしまったら後には引かない。

  それにルリを一人帰してそこを襲われでもすればすぐに助けられないと今気付いた。

  それなら、手の届く所に置いておいた方がいいか……。


―――俺って何だかんだ女の子に弱いよな。


「ん……、行こ‥‥!」

「乗れ。飛ばしていく」

「うん‥‥」

 

  屈んでルリが乗れるようにする。

 そこにルリが体重を預けて乗っかる。


 ‥‥よいしょっと。


  ルリの体を背中に乗せてから起き上がる。

 子どものためかそこまで重く感じない。むしろ子どもにしては軽すぎるくらい。

  俺だけならいつもの全力走が出来る。

 だが、ルリの事も考えると、どうしてもスピードが落ちる。―――なら。


「ルリ、風魔法で掛かる圧を防げるか?」

「‥‥‥‥出来る。けど、魔力が‥‥」

「魔力は俺のを使え」

「‥‥‥‥分かった」


  足に魔力を回す。脚力が増大されていく感覚が沸き上がってくる。


『我は風。疾風の如きその()で地を駆け抜ける。風は全てをいなし、ねじ曲げ。我の意思のもとに集いたまえ』


  全身の重さが無くなっていく。空気のように軽く背負っているルリの体重も、一人で立っている時と大差ないくらい軽い。


「【風の領域アエーマ・エア・フィールド】」


  粒子が緑の光を発し、ネスクとルリの体が風に包まれた。風が付近の植物を揺らし吹き荒れる。


「行くぞ。」

「‥‥‥‥うん」


  地を蹴り駆け出す。その瞬間、木の合間を風が凪いだ。

 ルリを抱えて全力の速度で駆け抜ける。

  五○メートルの速度を測れば、おそらく四秒を切ってしまうだろう。

 ―――その分、体に掛かる重圧も凄まじいだろうが、そこはルリの風魔法で重圧も無に等しい。


  反応があった場所まであと五○メートル。

 いた。二人は固まっている。

  無事なようで何より。


 ―――青い髪に特徴的なヒレの耳。『マーメイド族』の「パルメルス」だったか。

 ―――もう一人が黄色混じりの白に近い髪。そして、まだ子どものためか額に小さな一角。『ユニコーン族』の「フルール」。


「良かった、二人とも無事で。」


  本当に一瞬であった。

 一五○メートルをここまでの速さで駆けることのできる足。前の自分の体からは到底想像できないだろう。


「い、いや。‥‥こ、こない、で!!」

「やー!やー!!」


  二人とも目に涙が貯めて体が震え、パニックを起こしている。このまま放置するわけにも行かない。まずは落ち着かせる必要がある。


「ルリ、頼めるか?」

「やって、みる」


  ルリを背中から下ろして立ち上がろうとした時――。


  肌にピリッとした痛みが走った。


――っ!こんな時に。


「ルリ、悪い!!」

「えっ?ひゃっ!!?」


  ルリの背中を二人の方へ押した。

  ルリが二人の近くにうつ伏せで手を地面に付く姿勢で転がった。


  振り向きざまに両手で巨大な顎を抑え込む。

 地面を滑ったあと、ルリ達の目の前で停止した。


  ルリを含む三人がその光景に硬直した。


「はああっ!!」


―――力を込める。

  無理やり突っ込んできた顎の大きな魔物を、力の限りに投げ飛ばす。幾つも木を下敷きにして魔物の体を押し戻された。


「すぐに終わらせる。すまんが、そこで固まっててくれ。」


  三人の様子をみる暇は無い。

  この魔物、見かけ以上にかなり手強い。

  ブサイクな見た目の四つ足型の魔物。口からヨダレを垂らしているその魔物が歯を剥き出して襲いかかる。


  「【聖雷(パージ・ライトニング)】」


  バチッと空気に白い雷が走った。

 襲いかかるその魔物の下。腹側へと潜り込み、


『魔力を込めた脚力+纏った雷』

 で思いっきり仰向けの姿勢から蹴り上げる。

 汚いヨダレを振り撒きながら上空へ打ち上げられた。

  すぐに仰向けの姿勢から両手で地面を押して起き上がる。


「【鳴雷(なるいかづち)・天雷】」


  左手に弓、右手に矢が一本。弓につがえられた矢先の照準を打ち上げた魔物にセットして放つ。


  シュパンッ!!


  弦が弾いた音と共に矢が一瞬で魔物の体を射貫く。その瞬間、


 ―――空から落ちた雷が魔物の体を焼いた。


  地面に落下した魔物の体は黒く焦げて元の姿が何だったのか判別すらできない。

  ズキンズキンとする両手の痛みは無い。

  これも東の森での賜物である。


「ルリ大丈夫か?」


  ルリは呆けた様子で呆然としている。先ほどの魔物の衝撃がまだ抜けていないのだろうか。


「おーい、ルリさんや~。」


  右手をルリの前で振ってみるも、反応する様子はなく一点を見つめただけ。

  とりあえず、二人を連れてポーアと合流だ。

  こんな時期外れに雨の降りしきったこんな場所にずっといれば、流石の俺でも風邪くらいは引く。


「二人とも。無事か?」


  パルメルスとフルールに安否を確認する。こちらも大分衝撃(ショック)が強すぎたせいで固まってしまっている。


『ネズ~!だずげで~!!』

『ぐわれる~!!』


  どうすればいいか考えていると聞き覚えのある声がした。声のした方を振り向くと小さな緑と青の光がこちらに寄って来ていた。


「おいおいおいおい!」


  その背後には先ほどまばらに散らばっていた魔物を全て引き連れくる。

  朝、ポーアにこってりと叱られた事など考える暇は無く右にフルール、左にパルメルス。そして背中にルリを背負って走り出す。


  流石に三人も抱えれば重い。


「せーの!」


  地面を思いっきり蹴る。

 空を飛び下に見える木の頂上を台にする。

―――木の頂上から頂上へ。

 忍者もびっくりするその動きで宙を駆ける。


『ふう~、助かった~!』

『ありがと~ネス~!』


「お・ま・え・ら・な!」


  肩に掴まる小さな者達に思わず怒りたくなる。


『おひさ~、ネモだよ~!』

『ペーレ~!覚えてる~?』


  のんきな精霊二人。こっちは子ども三人も抱えているというのに。精霊二人は人をタクシー代わりか何かと勘違いしているのではなかろうか。

久しぶりに精霊二人登場。

と、いうより『合流』ですね。

賑やかさがこの章でメチャクチャ増し増しになってしまいました(笑)

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