見つめる彼女は天然です。
1日空いてしまいました。
今回は、前々回同様ルリの話です。
ジー
「‥‥‥‥」
ジーッ。
背後に視線を感じて落ち着かない。
―――あっ。形が崩れた。
手を汚して泥をこねる。朝食のあと、ハニワさんの新たな姿を作るために泥をこねて粘土状にして形を作っているのだが、どうも朝の朝食から見られているようで中々落ち着けない。
「‥‥‥‥あ、あれぇ?」
人型のハニワ。‥‥を作っていた筈なのだが、どういう訳か小さな鳥のような形になってしまった。しかも、数にして六つ。
ヒヨコの形。
―――まあいいや。これはこれで残しておこう。
再び粘土をこねる。こねて胴体と頭の部分を作る。そして、そこから不釣り合いな手をくっつける。あとは目と口を開ければ前回の『ハニワ試作品1号』の完成。
だけど、今回はここに丸い球体を二つ胴体の底にくっつける。そして前回同様に目と口を掘る。
いちおう、その丸い部分は足として使う。
「‥‥‥‥あとは、乾燥させて‥‥焼けば、だな。」
焼く時は(家の)中の釜を使えばいいか。
さて、次の仕事だ。
今日中の仕事は、
残すところ。あと、一つ。
―――『薪割り』
もう冬も間近。
今の内に木を切って薪にしておく必要がある。
作ったばかりのハニワさん(仮)と六羽のヒヨコさん(仮)を日当たりの良い隅のほうに避ける。
懐からアイテムポーチを取り出す。この中には
修繕した斧と溜めておいた木が入っている。
高く積み重なった木が今まで切り倒した圧倒的な量を物語っている。
その中の一本を片手で持ち上げ上空に放り投げる。
脚力のバネを使い自身も上空へ――
イメージは網状に切り出して、
角材にするイメージ。
――握った斧を振る。
「せいっ!!」
縦に一線、その後、連続で縦横に切りつける。
―――重力にしたがって地面に着地。
空から角材が降り注ぐ。
空中でキレイに分解した木の角材がピラミッドのように並んでいく。頂上に最後の角材が縦向きで落下し先に並んだ角材の上に落ちると下の角材と同じ方向に着地した。
―――見事な芸当だ。
一発芸としてテレビ出演出来そうな早業であった。
これをあと十回もすれば、
十分過ぎる位の数になるだろうな。
「ん?」
目の端に小さな影が写った。
自然と気になって目で追う。
先ほどハニワさんを置いた所に子どもが、
―――ひとり。
黄色のブロンドの長髪に小さな体躯。
黄色のブロンドで思い当たる人物は一人だけである。
けど、あんなところで何をしているんだ?
その時、
積み重ね過ぎた丸太の山が彼女の方へと、
倒れ始める。
マズイ!!
咄嗟に脚力をフル活動させる。
体にかかる重圧で下手すれば、体の中身だけが飛び出てしまうかもしれない。
―――しかし、そんな事言っている場合ではない。
彼女が後ろで起きている状況を理解した時には既に手遅れ。逃げるにしても時間が足らない。
ネスクの高速移動で一瞬にして彼女のいる前までたどり着く。
―――少女が目を見開いて驚く。
手に力を込めて思いっきり十字に斧を振った。
大量の雪崩れてくる丸太が四分割して四散した。だが、ネスクの力に耐えられなかった(修繕したばかりの)斧が根本からぽっきり折れて飛んでいった……。
「大丈夫か?」
目を見開いたまま少女が頷く。
「ケガとかは‥‥‥‥ないか?」
こくり
「ふう。良かった良かった。」
少女に向かって雪崩れてくる丸太を見た時、生きた心地がしなかった。
「確か、ルリだったか。‥‥立てるか?」
こくり
ルリが尻餅を付いた体勢から立ち上がろうとするところに手を差し出す。
自分より一回り小さな手が乗っかり引き上げる。
立ち上がったルリが自分の右手を指差す。
「‥‥‥‥おの……。」
「ん?」
指差された斧を見ると、
―――斧の刃の部分だけが見事に無くなり、木の柄部分だけが取り残されていた。
「ぎゃああああ!!!斧が!!!!」
耳をつんざくようなネスクの大声が響いた。
思わず近くにいたルリが耳を塞ぐ。
「斧が‥‥斧が‥‥」
ネスクが壊れたレコーダーのように『斧が‥‥』と呟く。
「私の、せいで‥‥‥‥ごめんなさい‥‥」
壊れたネスクに申し訳なさそうにペコリとルリが頭を下げた。
そのルリの行動でネスクは我に返った。
パチンッ!!と左手で自分の頬を引っぱたく。
自身の左手で頬が紅葉の形に赤くなった。
‥‥‥‥痛い。
普通は女の子に引っぱたかれて、赤くなる物なのだが……いや、ドM思考に陥ってどうする。
「い、いや。大丈夫だから頭上げて…。」
「で、でも‥‥‥‥」
「元々俺が積み重ね過ぎた事が原因だし。
斧はボロかったから。
それより、君にケガがなくて良かった。ケガさせてまたポーアにドヤされる事だけは
‥‥‥‥勘弁。」
考えただけでぞわりと背筋を撫でられたような感覚に陥る。朝のアレは精神的にも、肉体的にも来るものがあった。
案外、ポーアはドSに向いているのかもしれない。
「うううぅ!!」
また背筋を撫でられて思わず変な声が出た。
これはポーアかな?それとも他の人かな?
「‥‥ぷっ、ふふふふ。」
―――ルリが初めて笑った。
クーシェやポーアが笑った時の顔とは違う可愛さがある。(ミレドは論外)
クーシェが太陽のような明るい笑顔。
ポーアが花のような人を惹き付ける笑顔なら、
ルリは、
―――黄色の髪が光を浴びて黄金に輝き、
黄金の髪、日差しの逆光を受けて輝く笑顔。
眩しすぎるくらい輝いてみえる。
―――だけど、どこか透き通るような涼やかな風
のようでもある。
「ところで君は‥‥」
「ルリ」
「ああ、ルリはこんなところで何してるだ?」
ルリが真っ直ぐネスクを指差す。
「俺?俺に何か用事か?」
「別に‥‥‥‥。」
「別に、って‥‥。」
用も無いのに俺を観察していたということか。
新手のストーカーか何か、か?
それとも人間観察をするのが趣味って事?
「朝、なんで‥‥治したの……。」
彼女、言葉にするのがあまり得意ではないのか言葉が少し足りない。
「‥‥膝のケガか?」
こくり
「女の子なんだから、ケガが残ったらマズイだろ。」
「‥‥捕まった、時‥‥ケガ‥‥ナオシテ‥‥モラエナイ‥‥」
「‥‥‥‥。」
なんとなく、彼女の様子で察しが付く。
悪いことを思い出させてしまった。
「ばーか。」
「へぶっ!?」
おでこに軽くデコピンをした。
もちろん、軽く傷が出来ないくらい優しく。
ルリがおでこ擦りながら驚いている。中々、
面白い反応であった。
「俺は悪党じゃねえ。
他人を傷付けて愉悦に浸るような変態でもない。
ケガをした人がいたら助ける!
それが『人間』のする事、
‥‥それ以外の理由はいらんだろ。」
「そう、‥‥なの?」
当たり前の事を不思議そうにしている。
この子、意外と"天然"なのか?
「まあ、ケガした時は言えよ。その時はまた治してやるから。」
「‥‥‥‥うん。」
少し。ではあるが、彼女の心は一歩前へ前進したように思える。
先ほどの暗い表情が少しであるが、和らいだような気がする。
「‥‥‥‥ねえ」
あれこれ考えていると呼び止められた。
「なんだ?」
「‥‥‥‥これ、貰っていい?」
ルリが指差した先には、自分でなぜ作ったのかも分からないヒヨコさん(仮)の置物?があった。
「別に構わんが、そのままではすぐに崩れるぞ。」
「‥‥‥‥どうすれば、いい?」
「あとで焼いてやるから、少し待ってろ。」
「‥‥‥‥焼いちゃうの?」
なんか、すっっごい悲しんでいるようにみえる。あれ、生き物じゃないんだがな。
けど、生き物だと思ってるのに、否定するのも。‥‥罪悪感がある。
ならいっそ。
「そいつらは、"焼くこと"で命を吹き込むんだ。獣にもいるだろ?
火に入る事で尽きかけた命が再び蘇る奴。」
「『火鳥』?」
お、こっちにも『フェニックス』に似た鳥がいるんだな。また今度ソフィにでも聞いてみよっと‥‥‥。
「そ、だから。ちょっと待っててくれ。
すぐ終わらすか、ら。」
ピラミッドのように積んだ角材を壁際まで押しやる。しかし、かなり派手にやってしまった。
―――四散した角材がものすごい量。
まさか、あんな一瞬でこうなるとは思わなかった。
「‥‥‥‥手伝う。」
風がふわりと揺れる。
散らばった角材が次々に、空中に浮いていく。
「『風魔法』か。」
自分も風魔法は使えるが。
物を浮かして運ぶ。そんな芸当は流石に出来ない。
風魔法は、かなり繊細な魔力のコントロールが必要だ。
魔力の量が多ければ荒ぶる風となって物を吹き飛ばし、逆に少な過ぎれば物を浮かすことが出来なくなる。
何百もある角材が一斉に壁際に並べられていく。その光景は圧巻である。
空飛ぶ柱ならぬ。空飛ぶ角材。
他の人がみれば、顎が外れそうだ。
黄色の髪が風でなびいている。汗も掻いていない。ルリはかなり、魔力コントロールに長けているようだ。
全ての角材が一ヶ所に納められた。
ルリが地面に座り込む。
「お、おい!大丈夫か?」
「だい、じょう、ぶ。‥‥‥‥いつもの‥‥こと、だから。」
顔が真っ青。そして魔力量がとても少ない。
「‥‥ちょっと触れるぞ。」
手首の血管に指を当てる。
‥‥‥‥‥‥脈が弱い。
魔力の元である魔素は、血流のヘモグロビンによって酸素と一緒に体を流れる。
当然、魔力を使えば血流の魔素が少なくなる。これを過度にし過ぎると『魔力欠乏症』と呼ばれる症状に襲われる。
しかし、空気中の魔素を呼吸で心臓へ取り入れしばらくの休息を取ることで自然回復する。
ルリのこれはおそらく、元から魔力を溜める『器』。心臓に何か理由があるのだろう。
今はとりあえず、魔力を分けてあげよう。魔力なら俺の中にたっぷりとある。
指先に細い魔力の糸を編む。あのドルイド族の街での治療によって、魔力の糸を使った治療法は何度もやったため、これくらい朝飯前。
編んだ糸をチューブにしてルリの小さな手首に繋げる。そして、そこから魔力を少しずつ注ぎ込んでいく。
「‥‥‥‥すごい。」
「気分はどうだ?」
「‥‥‥‥楽」
―――何が楽なのか言って欲しい。
けど、真っ青だった顔の血色が良くなってきている事から大丈夫だろう。
しばらくすると顔色も元に戻り立ち上がれるまでに回復した。ここまでくればもう大丈夫だろう。
ぐぅ~!
安心して腹の虫がなった。
「先に飯にしよう。焼くのはその後だ。」
「ん‥‥いこ、ネ‥‥‥‥?」
首を傾げるルリ。『ネ』で止まった。という事は俺の名前だろう。……おそらく。
「‥‥ネスク、な。」
「ん!‥‥‥‥ネスク!」
手を引っ張られて駆け出す。
天然で人懐っこい。
そして、言葉が不器用。
ルリの意外な一面を垣間見た気がした。
ハニワを作っててヒヨコを作り出したネスク。一体どうやったらヒヨコの姿になってしまうのでしょうね(笑笑)