エルフの少女
今日の公開分です。
チュンチュン
鳥のさえずりで目が覚めた。
『ベヒーモス』の戦い後、部屋へ戻ったら眠気が直ぐにやって来て眠りに就いた。
「はぁ~あ、んっ!!」
体を起こして寝ている間に固まった背筋を伸ばす。
カン カン カン
窓の外から木の弾けるような音が聞こえる。ミレドとクーシェだろうな、きっと。
「ん‥‥?」
ドアが少し開いている。
そして、そこから覗く小さな目と会った。
ドテドテと床を蹴って去っていった。
別段、殺気を持ったような目ではなかった。
―――好奇心に恐怖心が混ざったような目をしていた。四対六の割合だろう。四が好奇心で六が恐怖心である。
最近は妙に勘が鋭くなったと思う。
獣になったせいか、あの内乱で剣を振るい過ぎたせいかは分からない。視線だけで何となく分かる気がする。
さて、着替えるか。
寝汗を掻いたため着替える必要がある。
アイテムポーチから替えを取り出す。
上を脱いで‥‥‥‥。???
振り返る。
再び小さな目と合う。そして、またドテドテと去って行った。
まあ、いいか。
上を着て、下を‥‥‥‥。
次は分かる。振り返ったら覗く目。
そして、またまた去っていった。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
(だ・る・ま・さ・ん・が‥‥‥‥)
下を素早く替える。
「転んだ!」
シュバッと高速で振り返った。
ドアの向こうでビクッとした後逃げ出す音が複数。
―――ドテンッ!
走る音に紛れて何か異音が聞こえた。
もしや、と思ってそろりと覗いて見る。『だるまさんが転んだ』とその通りの現象が起きていた。
九、十歳くらいの幼い少女が踞っている。
「大丈夫かっ!」
ドアを勢いよく解き放って駆け寄る。
少女の体が震えた。
黄色の長い髪が特徴的なその少女。普通にみれば人間と変わりはない。(一部を除いて)
耳が普通の人より、尖っている。
この特徴でこの少女の事が分かる。
―――その少女は『エルフ』。
ファンタジーな世界では有名処、ゲームでもよく登場する種族である。
『エルフ』の他にも―――、
『ハイエルフ』・『エンシェントエルフ』・『ダークエルフ』等色々なエルフ族が登場するが彼女は恐らく、『エルフ』だろうな。
『ダークエルフ』は褐色の肌を持つといわれており、『ハイエルフ』と『エンシェントエルフ』は魔力量からして桁違いだと書いてあった。
この少女から感じる魔力はそれほど多くない。
聖域組の中では、一番少ないだろうな。
魔力の多さでいくと、上から
―――― ミレド、俺、ポーアそして、クーシェ。
魔法をそれほど得意としない獣人族のクーシェの魔力が最後なのは仕方がない。クーシェは代わりに筋力がミレドの次くらいに強い。
そのクーシェより少ないという事はどうしてなのだろうか。
「‥‥‥‥。」
涙を溜めた目と合った。ブルーサファイアのように淀みのない綺麗な青。その綺麗さに目が吸い込まれて離れなくなりそうだ。
だが、赤く汚れた膝で巧く視線が逸れた。
「‥‥見せてくれ。」
ビクッとした後、手を背後に這わせて逃れようとする。そこを強引に止めさせる。
流石にそのままではまずい。
白い肌が擦れて擦り傷になっている。火傷をしたような傷。これを放っておけば後が残りそうだ。
「細胞【再生】」
出来た傷が逆再生するように血が止まり皮膚が戻る。そして、白い肌に何も後が無くなった。
少女の瞳が一際大きくなった。
驚いているようだ。
ミレドのような聖魔力による治療でもポーアやクーシェのような魔法による治療でも無い。
細胞の再生を急速に促すこの魔法はちょっと特殊な立ち位置である。
「急に驚かせて悪かったな。大丈夫か?他に痛い所とかは‥‥‥‥」
少女の体を持ち上げる。
その少女はまるで人形を持つように重さを感じなかった。その年の割には軽過ぎるくらいである。
「ネス様?起きていらっしゃ‥‥、何しているのですか?」
「ポーアか?ちょっと聞きたいの‥‥」
そこにポーア、‥‥ではなく『鬼』がいた。
「『盾』起動。『縛れ』」
「ふぐっ!?」
一瞬でポーアの蔓羽衣が伸びてネスクの口、手、足を拘束した。
「理由は後から聞きます。まだ幼いとはいえ、
"ルリちゃん"の体を抱き抱えるとは何事ですか!このまま引き摺って行きます。ネスク様は
猛省してください!!」
「~~~~~っっっ!!(少しで良いから状況を説明させてくれ!!痛い!痛い!痛いい!!)」
ポーアが蔓羽衣で縛ったネスクを引き摺って行く。階段を下りて一階へ。
階段を一段一段下りる毎にネスクの体に階段の角が突き刺さる。ネスクの声に成らない(口も縛られている為)激痛の叫び声がうねり声として漏れ出た。
"ルリ"と呼ばれた少女が一人、二階に取り残された。傷があった両膝を何度も見直す。
そして、顔が近い距離の優しげなネスクの声が頭の中で何度も再生を繰り返す。
――ネスクの"男性"に対しての体の拒絶が止んでいた。そして『何故』という疑問だけが優しい声と一緒に堂々巡りしていた。
一応、今日から五部は"連れてきた子達"のその後を書いていくつもりです。