表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2.5章 様々な思惑、動き出した運命の歯車
179/347

妹への想い

グラスとディル。

二話目です。今回もこれで話は終わりです。


 

「グラスは今回の件、どう考えておる?」


  ディルがグラスの殺気を浴びながら次に出た言葉がそれであった。


「‥‥ナザラの暴走、俺はそう見てます。」


  怒りの矛を少し納めながらグラスはそう答える。それを聞いたディルは少し考えた後、


「ナザラと反勢力貴族のみ、今回の敵をそう思っていると?」

「‥‥実際に犯行を企て実行したのは奴等でしょう。それ以外ありません。」


「‥‥我はそう思えぬ。」

  曇らせたディルがそう答える。


「‥‥どういうことですか?」


  グラスが首を傾げながら答える。

 目の前のディルは真剣そのもの。茶化す訳でもなく、両手を組む。

「裏から彼等を支持した者がいる。

 それもこの国の中に、我はそう睨んでおる。」


「‥‥なん、です、と?」


  グラスが大きく目を見開く。

 それもそうだ。彼の言葉が真実ならば、この国自体の滅亡にほかならない。


  仮にナザラの内乱が成功するとしよう。

 奴が成功した暁にする事といえば、自らの傘下に加わった者を近くに置き、それ以外を国から追放もしくは処刑である。

  奴の頭の悪さは知っている。有能な者は構わず排除されただろう。

  その後、他国から攻められるもなすすべなく、滅亡。


  この筋書きが背筋を凍らせる。

「ポーアから受けた地下の非常口からの強襲。

 あの非常口は国内でも知っておる者は少ない。国外から知るには非現実過ぎる。我もまさか、そこから強襲を受けるとは思わなかった。」


「ナザラが知っていたのでは?」

「いや、叔父は知らなかった筈だ。まず知っていればそこから全部隊を入れて短時間の強襲をした筈だ。我が敵ならそうする。」


  確かに報告を受けたこの強襲には不可解な者がある。怪しい人物も混じっていたと報告も受けた。

「それとポーア様の追放はどう関係があるのですか?」

「何者かは分からぬが、そのような輩が次にする事は簡単よ。"ポーアの力を我が手に"だ。」


「‥‥成る程、な。」


  内乱が失敗してもその責任は、ディルへと行く。その責任を利用してポーア様を(めかけ)にしようと考える。――大人の汚い考え方だ。

  ポーア様の力はその年にしてこの国でも上位の強さに入る。俺もポーア様の力には勝てる気がしない。その上、ポーア様には一ヶ月前に、神木様が力を授けられたと本人から聞いた。


 ―――神器―――

  太古の時代に『英雄』と呼ばれた者達が使用したという伝説の武器。人を見極め神器に秘められた力を神器自身が認めた主に授けるとされる。


  ヒュドラとの戦いでその力の片鱗を顧みた。

 その力は全身を逆撫でるような感覚に陥いるようであった。だが、それと同時に美しく思えた。

  魔法陣から発せられた七色の光がポーア様を包み込み、ヒュドラを追い詰めて行く姿は絵画に描かれるような光景であった。


「‥‥ポーアには悪いと思う。彼女の心を傷付けたと思う。だが、この国の権力を振りかざす汚い連中に()()な妹を奪われる事だけは、‥‥‥‥我の求める未来では無かったのだ。」


  ディルの手に力が篭る。


「‥‥‥‥」


「グラスよ。斬りたくば斬れ。

 ポーアの為を思っての行動だ。悔いは無い。」


  剣の柄に伸ばしていた手を下ろす。

 妹思いのこんな不器用な兄を斬れる訳が無い。

 ここで彼を断罪してしまってはそれこそ、あの世のあいつらに一生恨まれる。


『グラス‥‥‥‥この子達をお願いしますね。』


  彼女、《ティル・ツェリア・ペルメス》の最期の言葉が脳裏で再生された。


  その光景が昨日のように甦る。

  その日はテルの代わりにティル様の様子を見に行ったのだ。住まいに着くなり慌ただしい様相をしていた。

  急いでティル様の寝室へと近付くに連れてその慌ただしい様子が更に慌ただしくなった。

  寝室に入って直ぐに目に入ったのが泣きじゃくるディル様。そして、ベッドの上で横たわったティル様。そして、給女に抱えられ産まれたばかりであろうポーア様だ。

  医師が必死に呼び掛けるも、ティル様は応答しない。


『うそ、だろ‥‥。ティル様!!』


  呆然としていた俺はベッドに急いで近寄り彼女の空いていた右手を握った。まだ温もりはあったが脈が弱かった。


『ティル様!!ティル様!!』


『‥‥‥‥グラス、ですか。』

 

  弱々しくも優しげな声音でティル様は答えた。

 元々体が強くはなかった

 ディル様を産んだ時でさえも、

 産んだ後、数週間。意識が戻らなかった。

  今回だって‥‥


『頼みます‥‥グラス。

 ‥‥‥‥この子達をお願いします。』


  自分が今一番大変な事を分かっている筈。

 なのに、自分ではなく愛する兄妹を想ってか。

 俺に微笑んだ柔らかな微笑みを今も忘れない。



  椅子に座ったディルの後ろへ回り、


「‥‥ディル坊。バシッとしろ!」


  片手で思いっきり背中を引っ叩く。


「ひぎゃっ!!」

 

  鶏が首を絞められたような声がディルの口から飛び出た。机が引っ叩いた勢いで前へ動いた。

 背中を押さえてディルが机にうつ伏せになる。


「ディル坊の決めた事なら俺がとやかく言うつもりは無い。それがポーア様を思っての事なら尚更だ。」


「グラス、お前‥‥」


  いつの間にか昔の呼び方に変わったグラスにディルは驚く。


「だが!ポーア様をそのままほったらかしにする事は許さんぞ。ポーア様にもしもの事があればきちんと責任を取って貰うぞ。ポーア様も女の子だ。そこの所、きちんと考えておけ。」


  女性に傷を付ける事はこの世界では結構重大な事である。それが結婚前の女性なら尚の事。


「‥‥グラス、兵の中で女兵はいるか?」


  痛みから復活したディルがグラスに問う。

「‥‥いますよ。ポーア様に恩があり、彼女を裏切る事が無い忠実な奴が‥‥!」


  暫く考えたグラスが両手を打ってそう答える。

 そして、一人の女兵に白羽の矢を立てた。


「なら、十日後。その者をミレドグラル様の元へ向かわせろ。もちろん、その者にもきちんと説明を通して、五人部隊で魔物に注意してきちんと送り届けろ。‥‥その時に貢物も忘れるな。」


「了解、我らが(リーダー)

 このグラス。その命、見事遂行してみせよう。」


  来る時の苛立ちがひっくり返ったのかと思える程、軽やかな足取りで足早に去っていく。


「ポーア、しばらくは会えないが、必ずこの国を良くしてみせる。だから、その日まで‥‥待っていてくれ。」


  まだ幼さを宿した若手の(リーダー)は国の中心で格闘する。汚く醜い大人を相手に‥‥。

兄が妹を想う愛情は恋人の愛とは別で惹かれる物がありますよね。(行き過ぎた愛情には困りますが(苦笑))

さて、次回は所変わってクロの話です。

お楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ