スイーツ女子と思い出
今回でお茶会の話は終わりです。
次からまた別の話に入らせて頂きます。
短めの話が続きます。お気軽に楽しんでいって下さい。
「ほふぅ!食ったのじゃ。満足♪満足じゃ♪」
「大朏様はもうよろしいのですか?」
「――ああ、美味しかったよ。久しぶりに、
こんな旨いスイーツを食べた。それと皆が食べてる所を見てるだけで腹いっぱいだ!」
食べる手が止まっていた俺にソフィが聞いてくる。
お腹を擦るミレドが椅子の背もたれにだらしなく寄り掛かっている。他の皆もお腹がはち切れるのではなかろうかというくらいおかわりをしていた。満足したのか、今は紅茶を飲みながら談話を楽しんでいる。
今日、皆を連れて来て良かったと心から思う。
―――この数ヶ月、大変だった。
今思い返すとそう思う。
カップに入れられた紅茶に添えられたシロップとミルクを入れてミルクティーにする。
口の中に含むと紅茶の良い香りとミルク、シロップの甘さが広がって行く。
書庫の中では食器が直ぐに片付けられる為、正確な数は把握来ないがそれでもおかわりをしている所を見るからに皆最低でもホールにして二個分位は食した筈だ。
見ているだけで自分のお腹もいっぱいになりそうだ。実際、俺が食べたケーキは三個くらい。
皆の中ではダントツに少ない。
「ネス。それだけで満足なのですか?
ネスの胃は小さいのですね。」
「ネスク様、お口に合わなかったのですか?」
あまりの少なさにクーシェとヒサカキが聞いてくる。
「いや、美味しかったぞ。」
確かに十分美味しかったと思う。
――ショートケーキ
――チョコレートケーキ
――チーズケーキ
――ミルフィーユなど。
どれも記憶にある通り甘く美味しかった。
スイーツ女子が喜びそうな物ばかり。
そう、記憶のある通り――。
「今度は皆の手作りを食べて見たいもんだな。
なんちゃって、はははっ。」
記憶にあるスイーツ以外。そう、今の世界にあるスイーツを食べてみたい。
そういう思いで冗談混じりで口にした言葉が彼女達の中の火に小さく引火したようだ。
「では、戻った後にでも何か作って差し上げましょう。」
クーシェが紅茶を飲みカップを机に置いた。
「何作るんだ?クー」
「それはお楽しみということで♪」
クーシェが右手の人差し指だけを立てて可愛くウインクする。その仕草に思わずドキッとしてした。最近、他愛ない仕草が可愛く見えてしまう。何かの病気だろうか……。
「クーシェ様が作るのでしたら、わたくしも何か作りましょう。」
「ポーちゃんお菓子作れるのですか?」
「クーシェ様程長けていませんが、それでも簡単な物でしたら幾つかは作れます。」
「そうなんですね。でしたら、ミレド様も入れて三人で何か作りましょう!」
「む?妾もか!?」
スイーツ作りに燃え上がる二人。そこに今までくつろいでいたミレドが巻き込まれた。
どうやら近日中にお菓子を焼くための釜を作ることになりそうだ。
ちょんちょん
誰かに服の端を引っ張られたような気がした。
振り返る。
だけど、誰もいない。
「???」
確かに誰かに引っ張られた気がした。
だけど、皆そこで作るスイーツについて談話している。
あれれ?
持っていたカップを机の上に置いて本棚の裏へと歩いていく。
一つ一つ確認するもやはり誰もいない。
最後に先程ソフィアがいた裏の小部屋へと入る。
しかし、そこにも当然誰もいない。
「気のせい、だったのか?」
本棚を回転させて戻ろうとした時、
ガタンッ!!
ビクッとし後ろへ飛び退きながら振り返る。
本が一冊棚から落ちただけであった。
「ふぅ‥‥、びっくりした。」
心臓がまだバクバクしている。飛び出るのではないかと思える程に驚いた。
此処に今いるのは俺達六人(俺を含めて)だけ。それ以外の人間がいる筈ないんだ。
落ちた本を拾い上げ、おもむろに中の内容に目を通す。
―――これはアルバムだ。
小さい頃のソフィアが写っている。
(今もかなり小柄だが)今よりもっと幼いソフィアが白い髪に銀の瞳をした女性と一緒に写っている。他の写真はソフィアと(他の神器の子達だろうか)子供達が写された写真がある。
あ、このソフィアの後ろにいるのはヒサカか。
遊んでいる姿のソフィアの後ろに見覚えのある蔓植物を体に纏った女の子がぴったりと張り付いている。この姿を見ると今のヒサカは成長したと思う。
パラパラと捲っていくと、一枚の写真に目が留まった。ヒサカキとソフィア、それから真っ赤な瞳に真っ赤な髪をした女の子が綺麗な花畑で遊んでいる写真。
その姿、まるでクーシェのような‥‥。
『私を‥‥‥‥見つけて』
耳元で囁かれたような気がして辺りを見渡す。
だが、今この場にいるのは俺だけ。
「大朏様、やはりこちらに居ましたか‥‥。」
本棚が回転してソフィがやって来た。
「ああ、悪い。ちょっと気になって‥‥な。」
本を閉じて棚に戻す。
「皆様がお呼びでしたよ。そろそろ、お暇するとの事です。」
「そっか、なら行こうか。」
ソフィアの横を通り過ぎて表へと急ぎ戻る。
****
皆様が帰られた後、再びアルバムを手に取り広げる。アルバムの中の写真と共に幼き頃の記憶を辿る。
ジル様に拾われた後、私は"聖域"へと連れてこられた。そこには私より年下の子供がたくさん。ジル様がいうにはここにいる皆、私の妹弟だという。私の記憶は、痛みの記憶が最初。それ以前の記憶は辿れない。まるで記憶を消去されたのかと思えるほど、全く……。
『あなたはだーれ?』
一人の幼い子どもが(ここに来て)初めて話し掛けて来た。その子どもは印象に残るような真っ赤な瞳に髪という組み合わせの子供であった。
『わかりません。記憶が無いのです。』
『きおく?なーに、それ、おいしいの?』
子どもにはまだ難しい言葉だったようだ。
その子どもは小首を傾げて聞き返してきた。
『食べ物ではありません。記憶とは自分が経験した体験。もしくは学んだ事です。』
『むー。わかんない!!』
頬を膨らませる。子どもらしい反応だったと思う。それと引き換え私は‥‥。
今思うと言動が子供らしさというものが無かったと思う。それは私の能力に由来するものが大きかった。
『ごめんなさい。難しかった、ですね。
では、こう言いましょう、<思い出>。』
『あ、それならわかる!たいせつだよね!
おもいで!!』
機嫌が直ったその子どもは満面の笑顔でそう答えた。彼女の笑顔はとても暖かい。まるで炎のように他人の心を温めてくれた。
『なら!おねえちゃんとあえたのもおもいでだね。‥‥‥‥わたしは、《スーリル》!!
《スー》ってよんで!!』
『私は仮名です。
よろしくお願いします、スー‥‥。』
差し出された手を握り返した。
『よろしくね!おねえちゃん!!』
「スー、貴方は今、どこに‥‥いらっしゃるのですか‥‥。」
彼女の信号はある日を境にぱったりと途絶えた。探しに行きたくても行けない。
神器の運命という鎖に縛られた私達は自身の意志では動けない。
それが自身の妹に対しても同じだ。
「もし、望めるのなら‥‥再び彼女と巡り会いたい。」
信号が途絶えたあの日にはもう戻れない。
――ならば、彼女が無事である事を願うだけだ。
幸い彼女が守護する種族は生き残っている。
希望はまだ残されている。
「私は諦めません。スー、待っていて下さい。」
アルバムを棚に戻して歩き出す。
いつまでも過去に更けるのではなく彼女の情報を得るために。
新たな神器(妹)登場しました。
まだ、出番は先になると思いますが、順次神器や他の種族を出して行きます。お楽しみに!!