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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2.5章 様々な思惑、動き出した運命の歯車
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隠し部屋とかつての自分

2.5部、1話目は、ヒサカキとの約束の話です。楽しんでいただければ嬉しい限りです。

誤字報告を頂いた方、ありがとうございます。


 

「『ソフリア・クレ』【開け(オープン)】!!」


  透明の鍵を右回転する。

 ガチャリと鍵が空間に填まったような音の後いつもの

≪概念≫の機械のような声が頭に響く。


『【禁書庫】への入場申請を確認。

 申請者・所有者<ネスク様>。

 入場申請を受理。

 動向者有り、書庫内から個人情報を取得。

 少々お待ち下さい。


 ・・・・・・


 動向者の確認終了。

 動向者の入場を受理します。

≪ようこそ、我等が主の友人御一行様≫

  聖龍ミレドグラル様、クーシェ様、ポーア様

……ヒサカキお嬢様。』


  光景がいつも見ていたテラスの光と沢山の本棚が立ち並ぶ書庫内へと切り替わった。

  テラスからの暖かな日差しが懐かしさを感じさせる。いつ来ても心が和む。


「……ここは昔とあまり変わらぬのう。」

「ほえー、本がいっぱい……。」

「‥‥こんなに本が集まる所、世界のどこにもありませんね。」


  ポーア、クーシェの好奇心と驚きに満ちた反応。ミレドの何処か懐かしむような反応。そんな中、一人だけ辺りを見渡す人物がいた。


――――ヒサカキだ。


  姉の姿が見えず探しているようだ。


 ‥‥あれ?いつもならソフィが顔を見せるのに何処にもいない。どうしたんだろう?


「皆はくつろいでいてくれ!紹介したい子がいるから探して来る。」


  備え付けられた机と椅子を指差して指示した後、本棚が立ち並ぶ間を順番に探しに行こうとする。


「ネス、私も!」

「妾も探すぞ。ソフィに挨拶もしておきたいしのう。」


  ヒサカキとミレド。この二人は既にソフィアの事を知っている。挨拶したいのも分かる。


「二人も座ってろ。一応二人も此処ではお客なんだしな。それにクーにもヒサカの事を教えてやらないと。さっきからじっと見つめてるぞ。」


  クーシェの方を振り向くと、ジーッとヒサカキの事を見つめていた。当然である。

  これまで、クーシェだけは合った事が無いのだから。

「ソフィは俺に任せてほれ。行った行った!」


  二人をポーアとクーシェの方へと背中を押した後、順番に探していく。

  俺達は今、前にヒサカキと約束した通りにソフィアと会わせる為に書庫へと赴いていた。

 最初は、ヒサカキだけを会わせるつもりだったが、いつの間にかヒサカキがポーアを誘っていたようだ。一体何時、誘ったのだろうか‥‥。

  それからは芋づる式にポーアから始まって、クーシェ、ミレドと増えていったのである。



 外の事は信頼出来る警備員に任せてあるため大丈夫。


「‥‥‥‥いない?」


  全部の棚と棚の間を探したが何処にもいない。

 こんな狭い部屋の中、何処かに隠れる事何て出来ない。‥‥‥‥どこか見落としたか?


「うーん……。」


  一番端の壁沿いに面した棚に背中を預けた時、


  ガタンッ!


 何か音がした。


「うわっ!」


  突如、背中を預けた戸棚が回転して動いた。

 ここは忍者屋敷か!


  視界が反転して見える。仰向けで尻から後ろへと転がった。

 埃が舞ってチラチラと光って見える。

 回転した先にも本棚がある。

 その手前で脚立に座って読書を嗜む少女が一人。

 

 ―――ソフィアだ。


  まさかこんな隠し部屋にいるとは思いもしなかった。というか、この部屋は何だ?


  表の書庫の十分の一程の狭い部屋。

 大きな本棚が一つあるだけでその他は何もない。


「ゴホッゴホッ」


  そして埃だらけ。

 どうやら長いこと使われていなかったようだ。


「おや?ネズミが出てきたのかと思いましたら、"ネズク"様ではありませんか。」


  何かの本をパラパラ捲っていたソフィアがその本を閉じて足を組む。

 そして、見下したような目線を向けてくる。

「ネズミと俺の名前を混ぜるな!

 お前はどこのドSお嬢様だよ!」


  仰向けに倒れていた体を起こして服に付いた埃をはたく。


  改めてソフィアと向き合って気づいたことがある。いつもは『白』を基調にしたフリフリのドレスのような服を着ているが、今日は黒を基調にしたゴスロリ系のドレスを着ている。

  服が違うだけで結構印象が変わるもんだと思った。


「‥‥‥‥いつもの服も似合ってるが、そういう服もいけるんだな。」

「おおお朏様にしては、良いことを言うのですね。‥‥‥‥ありがとうございます。」

「"お"が一つ()いぞ。『お』が!」

「‥‥‥‥寒いですよ。」

「不可抗力だ!!」


  寒がるように身を引くソフィアにネスクがつっこむ。そんな"いつも"の会話をする二人はどこか楽しそうである。


「こんな所で何してたんだ?」

「‥‥私の、記憶の中の瞬間を見ていました。」

「アルバムって事か?」

「大朏様の世界ではそういいますね。ですが、

 カメラという品物は使用していません。

 私の中に残っている記憶を一枚ずつ紙に写し出した物です。」

「へぇ、それは凄いな。」


  カメラがいらないという事は機材を使わずにそんな事が出来るということだ。それは凄い。

  手元に機材が無くても一瞬で写真のようにその瞬間を写せるのだから。


「‥‥皆様、いらしたのですね。

 では、行きましょう。」


  組んでいた足を解いて脚立から降りようとするが上手く降りれないようだ。

 ネスクが右手の平を上にしてソフィアに差し出す。


「足元、気を付けろよ。」

「‥‥‥ありがとうございます。」


  ソフィアがネスクの差し出した手の平の上に小さく肌の白い手を置いてから脚立から降りた。何だか主と従者が逆になったみたいだ。

 まあ何はともあれ見つかって良かった事に安堵してソフィアの手を引いて回転本棚を潜って表へと戻った。


 ****


  ネスクがソフィアを探し回っている頃。


「おー!凄いですね!ふむふむ、成る程。

 勉強になります!」


「‥‥成る程、これを組み立てる事でこっちの魔法が発動するのですね。これが『連鎖魔法』という物なのですね。」


  ポーア、クーシェ、ミレド、ヒサカキは本を読み耽っていた。クーシェに取り敢えずヒサカキの事を紹介した後、手持ち無沙汰になっていたので魔法を勉強していた。

  単に魔法といっても人それぞれ個性が出るもので。


  クーシェが読んでいる本は『基礎魔法』。

 その名の通り、基礎的魔法について書かれた本。

  内容は子供でも発動させる事の出来る魔法をこと細かく説明している。大抵の大人は『基礎魔法』は既に習得しているせいかあまり読む事の無い魔法分類である。

 しかし、基礎魔法といって馬鹿には出来ない。


 ―――基礎となる土台がしっかりしていなければ、

 その上に立つ城は軟弱な城と成り果てる。


  基礎がしっかりしているクーシェ。元から魔法の勉強に対して真面目で誠実に向き合う彼女にとってはその本はとても参考になる。

  世界の()()()()基礎魔法の理論を取りまとめてあるその知識は彼女の基礎能力を飛躍的に向上させる。


  ポーアの読んでいる本は、『魔法陣における連鎖魔法』というタイトルである。

  ドルイドの秘術は魔法陣を主軸に発動する魔法が多い。

  魔法陣を描いてから発動する。

 その過程は、一般的な『口頭魔法』と比べると、

 非常に効率が悪い。

  魔法陣一つで発動する魔法は一つ。

―――口に出してから発動する『口頭魔法』。

 比べてしまうとどうしても発動する時間が遅い。こちらが一つの魔法を描いている内に、

 口頭魔法では二つ、三つと発動されてしまう。


  そこに『連鎖魔法』。連鎖魔法とは一つの魔法を発動させると、そこから連動して他の魔法が発動する魔法である。魔法陣にこの連鎖魔法を組み込む事で一つの魔法から二つ、三つ、四つと枝分かれするように効率も威力も発動する速度も上がる。

  この魔法は、"魔法陣からの魔法"と非常に相性が良い。『口頭魔法』で連鎖魔法を発動させる事は出来る。――だが、言葉で表現する事、イメージを体現して口にする口頭魔法ではどうしても長々しくなってしまう。


  ポーアは、神器<(スクートゥム)>の主。

 魔法陣を描くという動作は杖を打つことでイメージ通りに光で描く事が出来る。そこに今勉強している『連鎖魔法』を組み込む事で小さな魔法が大魔法へと変化する。まさに、鬼に金棒。


「久しいのう、ヒサ。挨拶が遅くなってしもうたが。‥‥息災かのう?」

「はい。ミーちゃんも元気そうで良かったです。レイとジルを亡くした後のミーちゃんは‥‥見ていられませんでした……。本当に良かったです。」


  二人が勉強する傍らでミレドとヒサカキが久々の再開で話に花を咲かせる。

  懐かしの同胞に再び巡り会えたのだ。二人はいつもより、テンションが一段階高い。


「‥‥そうじゃのう。あの時は心が張り裂けそうになったのう。自分の半分が遠いどこかへ旅立ったような感覚じゃ。」

「その感覚は今もですか?」


  ヒサカキが躊躇いながら心配そうに、ミレドを見つめる。


「消え去った、とは言えぬ。じゃが、いつまでも過去の残像に囚われる程、妾は暇では無い。

 今は、我が弟子に掛かりっ切りじゃ!」

「"ネス"ですか?」

「うむ!知っておるか?あやつ、少し目を離しただけで変な厄介事を引き連れて戻ってくるじゃ!!」

「例えば、どんな物ですか?」

「妙な盗賊連中、我が宿敵であった邪龍ヘヴラ、更には獣の呪いじゃな。」

「ヘヴラを連れて帰って来たのですか!?」


  すっ頓狂するヒサカキが思わず大きな声を上げる。それもその筈だ。

  太古の時代から幾度となく死闘を繰り広げた宿敵。

  それを‥‥釣りして、釣り上げて、持って帰って来た。と言っているようなモノなのだから。


「まあ、ネスクと二人掛かりで倒したからのう。あやつらの仇はしっかり取ったよ。」

「そうだったのですか‥‥ミーちゃん、大変でしたね。」

「うむ、‥‥この数ヶ月はとても目まぐるしかったよ。じゃが、妾は充実しておった。」


  ネス、それから目の前で勉強しているポーちゃんに、えーと確か‥‥クーシェちゃんと言ってたっけ。三人の影響力は()()()()()()()ミーちゃんの心に希望を与える程、深く、太く、そして、強く根付いているようであった。


  ヒサカキは、かつての、死んだような虚ろの眼をしていたミーちゃんの瞳には希望に満ちた光が宿っているように思えた。

ヒサカキとミレド。

ソフィアと再会する前の二人の昔語りはかつてのミレドの様子が伺える内容でしたね。

それと、ソフィアとネスクの小突き合い。

二人の仲の良さがあらわになりましたね(笑)!

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