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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2章 亜人連合国騒乱編
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閑話 笑顔を君に‥‥

いよいよ二部の閑話です。

ここまでお付き合い頂きありがとうございます。

長くなるのも失礼ですので、長めのコメントは後書きにさせて頂きます。

  エピローグ



  アオオオオオオーン!!


  魔物の遠吠えと一緒に目が覚めた。

 まだ日も昇らないほの暗い時間。だけど放っておく訳にもいかない。

―――あの後、しばらくミレドと会話を弾ませた。 気付けば夜も更けて遅くなっていたので、ミレドは話した後直ぐに帰った。

  次の日は朝からクーシェの修行をするそうだ。

 俺も一緒にしたい所だけど、今の体ではムリ。

 それに連れ帰った彼女達もいる。いつ遭遇するとも限らないので断った。



「はぁあ‥‥」


  大きな欠伸が自然と出る。大きく背伸びしてベッドから体を起こす。机の上に無造作に置いていたアイテムポーチの中からミレドから貰った替えの包帯を取り出す。

  両手の包帯を取り替えた頃には完全に目が冴えた。

  そのまま、扉から出て魔力を纏って駆け出す。



  森の中を走り出すと五感が研ぎ澄まされる。

 前方の様子が手に取るように分かる。獣の五感のように状況が分かる。

―――森中の音。

  自分の風を切って駆け抜ける音、木が擦れあってざわつく音、更には遠くにいる魔物の呼吸する音まで。

  数にして十匹。


「さて、お仕事だ‥‥。」


  ネスクの体を電気が包む。

 こんな夜明け前の時間に魔物討伐をするのは日常茶飯事だ。結界の最も安全な地点で暮らしていた時はミレドの魔力が牽制していた。

 ――魔物は『聖』を嫌う。

 それ故、魔物達の最も恐れる存在がミレドである。まあ、纏っている魔力の性質で恐れているだけなので強い魔物となると、魔力を喰らおうとそのまま迫ってくる。その傾向はこの東の森では多い。


  高速で森の中を駆け抜ける。


  木と木の間を駆け抜け茂みを突っ切る。

  こちらにも時間制限がある為、さっさと済ませないといけない。

 

  途中で森を抜けた。

 東の森を抜けてしまったのかと思ったがそうではない。東の森の中心地にぽっかりと。

 今いる此処だけ木が生えていないのだ。

  自分が来た方とは逆の方向から狼型の魔物がやって来る。

  四足歩行の狼型の魔物。

 恐らく『シュバルド』という魔物だ。

  東の森では比較的数の多い魔物で、その特徴は前足二本の鋭い爪が異常に発達していて、爪が鎌のように鋭い。基本、群れで行動するこの魔物はその爪が非常に厄介である。


  十匹の内二匹が上空へ飛び上がった。


  その鋭い爪で空を切り裂く。

 カマイタチのようにその鋭い斬撃が迫ってくる。


「速い‥‥だが、」


  後方へ一歩下がり、両手をを銃のような形にして照準を飛び上がった二匹に合わせる。

 構えた指の先に電流を集めて溜まった所で撃ち放つ。

  電流が斬撃を吹き飛ばし、魔物二匹の体を射貫いた後、空に広がる雲を掻き分けて飛んでいった。

  二匹のシュバルドが地面に落下。

 その頭から一直線に小さな穴が空いている。


 ガッルルル!!


  残りの八匹が円状に展開。一匹が飛び掛かる。

 電流を流して仕留めようとするが、先程の斬撃が迫る。そちらへ電流を流して相殺した所で先程とは別方向から同じ斬撃が迫って来る。


「くっ‥‥!」


  前から魔物、横から斬撃、そして後方には下がれない。息の合った連携で圧倒される。

  飛び掛かってその爪で切り裂こうと振るって来たシュバルドの一匹を、足元に電流を流して上空へ逃れる。

  頬に一筋のかすり傷が浮かび上がる。


「仕方ない、こうなれば‥‥。」


  電流が白く光る。【聖雷(パージ・ライトニング)】だ。電流を足場に流して体を空中に固定して矢をつがえる構え。

  電気がネスクの構えた手元で弓と矢の形を取る。


「【鳴雷(なるいかづち)・白竜】」


  シュパン!!


  弦を弾く音。矢が弓を離れてそれぞれの照準元へと飛んで行く。電気で生み出された矢が取り囲んでいたシュバルドへと飛ぶ。

  斬撃を飛ばして弾こうとするシュバルド、避けようと後方へ大きく退くシュバルドなどそれぞれ個体毎の判断をするがその抗いも虚しく終わる。

  一本それぞれの矢が空気中の魔力を吸収して巨大な雷となってシュバルドを飲み込む。


  成長した雷がまるで竜を彷彿させるように太く伸びた光を残してシュバルドを全て塵に帰した。



 ****


「はあ、はあ、はあ、はあ」


  ゆっくりと地面に降りた後、たまらずに地面に寝っ転がる。


「はあ、‥‥はあ、疲れた。」


  【聖雷(パージ・ライトニング)】をしてからの【鳴雷(なるいかづち)・白竜】は今の体ではきつい。両手がズキズキと痛む。

  魔力切れの症状とは違う。

 これは『獣の呪い』の症状だ。


  家から魔力で走って倒すまで三十分程。

 たったのそれだけでこの有り様なのだから情けない。


「‥‥‥‥寝よう。」


  起きて早々走らされた。

 そのくらい、許されるだろう。

 おやすみなさいzzz。






「‥‥スク‥‥ま、‥‥き‥‥さい。」

「‥‥zzz。」

「ネスク様、起きて下さい。こんな所で寝ていては風邪を引きますよ。」


  誰だろう。

 俺を知っていてこの言葉遣い。


「‥‥‥‥クー?」

「いーえ、違いますよ。一ヶ月遭っていないだけで忘れられるとは、わたくしはネスク様にとってどうでも良い存在だったのでね!」


  それを聞いて眠たかった頭がびっくりし過ぎて覚醒した。

「ポーア!?」

「きゃっ!」


  跳ね起きた勢いで頭をゴッツンこしそうになる二人。ポーアの緑の綺麗な瞳が近くに見える。息が掛かりそうな程近い。


「急に起きないで下さい!

 わたくしもびっくりしますよ、もう!!」


  頬を膨らませてそっぽを向くポーア。

 心なしか頬が少し赤くなっている気がする。


「わ、悪い。本当に‥‥悪い。」


  ふと一ヶ月前の時の事を思い出す。

 緊急だったとはいえ、俺はポーアの唇を‥‥。

 勝手に唇を奪った罪悪感が今になって押し寄せる。嫌われたのではないかという不安で心の中がいっぱいになる。


「‥‥構いませんよ。‥‥もう。

 わたくしも不用意に近づき過ぎた事も原因ですから。‥‥お互い様です。」


  手を差し述べる。その手を掴んでネスクは体を起こした。両手の痛みもいつの間に引いていた。


「ちょっと待って下さい。」


  ポーアが右手を頬に出来たかすり傷に触れる。淡い緑の光粒子が魔力を通して舞い上がる。


「【治癒(ヒール)】」


  かすり傷の痛みが無くなって消え去った。


「他は‥‥無いみたいですね。良かったです。

 ‥‥所でネスク様はこんな所で何をされてたのですか?凄い惨状ですが‥‥」


  ネスクの周りには魔法での破壊痕跡が円状に八つ残されていた。


「あー、仕事?かな」

「こんな朝からですか?」

「まあ、そうだな。俺の就業時間は不定期だからな。」

「ふふふ、何ですか?それ、」


  口元を押さえて笑うポーア。やはり、一国の王女様なのだと実感する。何というか仕草一つ一つに上品さを感じる。

  だけど、王女様としての言動とはまた違う。庶民と同じ目線から、という風であるため。とても親しみを感じられる。


「俺の方はそんな感じだ。所でポーアはどうしてこんな東の方にいるんだ?

 ミレド達の場所とは全然違うだろ。」

「わたくしも、初めはそちらに【エキザカム】を使用と思ったのですが、

 ‥‥‥‥その、‥‥くて。」


  今、何て言った?


  急に俯いてしまうポーアがぼそっと小さな声で言った為上手く聞き取れなかった。


「えー、と。今何て?」

「ですから!その‥‥‥しくて」

「え?シクテ?何それ、旨いのか?」

「だ・か・ら!!急に皆の前に移動する事が恥ずかしかったのです!!う~。」

「‥‥‥‥えーと、何か悪い。」


  両手を顔で覆うポーア。

 何ていうか‥‥。人見知りする乙女のようで可愛らしい反応であった。

 




「‥‥‥‥此処はネスク様達に出会う前、わたくしが重傷を負った際に緊急的にいた場所なんです。いわば、わたくしの《隠れ家》のような場所なのです。」


  しばらく、悶々としていたポーアが正気に戻ってから此処に来た理由を答えてくれる。

  戦闘中だった為気付かなかったが、この場所。

 花畑のようになっている。まだ、夜明け前で花は蕾のままだが、日が登った頃には美しい花が咲くだろう。

  秋だというのに、花が咲く。この場所には何か特別な物でもあるのだろうか。


「この場所は地脈から溢れ出た高濃度の魔力が土に染み出しているのです。」


 ネスクの考えていた事をポーアが教えてくれる。

 夜明け前の風が彼女の若葉色の髪を揺らす。

 朝日が顔を出して夜の影が徐々に日の光へと変わっていく。


「地脈に触れて育った花達はそれは綺麗に咲き乱れるのです。ほら、あんな風に‥‥。」


  朝日を浴びた花が次々に蕾から顔を出す。

 紫、オレンジ、黄色など色々。


「おー、絶景だな!」


  秋に咲く花。時期外れも甚だしいがそれでも一生懸命に一時の為に咲く花達のその生命力には心を打たれる物がある。


「わたくし、国を追放されました‥‥。」

「‥‥えっ?」


  急な告白に思わず、呆けた答えで返してしまった。それくらい受けた衝撃が凄まじい物だったからだ。


「今回の件で、ドルイド族の信頼は地に落ちました。二日前に『種族会議』が開かれ、その結果。―――ドルイド族の権威は全て剥奪、その上国外との交渉を永久凍結。幸い、一族全員国外追放という事にはなりませんでしたが、わたくしは以後、『ペルメス王国』への立ち入りを禁止されました。お兄様は‥‥一応族長(リーダー)という事も加味して残されましたが、‥‥‥‥『自由』という物が無くなったと思っても良いのでしょう……。」


「‥‥‥‥そうか、辛かったな。」


  ポーアを寄せて背中を軽く揺すって上げる。家族と会えない。

  それはとても辛い事だ。それも血の繋がりのある家族ともなれば‥‥。


「わたくし、家族も。居場所も‥‥無くなってしまいました。‥‥ネスク様、わたくし‥‥此処にいても宜しいですか?」


「おう!此処はポーアのもう一つの場所、なんだから‥‥遠慮するなよ。」

「‥‥はい。」


  ポーアの体が小刻みに揺れる。

 泣いているのだろう。

  しばらくしてから急にポーアがネスクの体が離れた。後ろを向いたまま涙を拭く。


「みっともないですね。久しぶりに此方に戻れましたのに……。では、‥‥改めまして。

 ただいま帰りました。()()様!」


  俺はこの日の事を将来忘れる事が無いだろう。

 朝日に照らされるポーアのその時の笑顔は、

 ―――背後に咲くどんな花よりも輝いて見えた。

  全てをなくした少女にとってはとても辛い現実を知った日かもしれないがそれでも彼女が微笑んで戻って来た事に……。


「おかえり、ポーア。」

二部は色々と悩まされました。

戦闘シーン多めの上、登場人物達の心の変化など。それはまあ、大変でした。

これ以降のペルメス連合国、クロの動向など謎のベールに包まれた所はありますが、とりあえずはしばらく平和な話を書いて行こうと思っています。

さて、次回から2.5部です。2部と3部を繋ぐ結構重要な話だったり、エピローグより少し前に戻ったりします。これから先の話を読んで戴ければ嬉しい限りです!!では、また‥‥。

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