お悩み相談
「あの、ネスク様。」
「‥‥‥‥なんだ?」
「…………どうして屋根が無いのですか?」
木の中に作った家に到着して真っ先にクーシェから質問された。入って直ぐにぽっかりと空いた穴から太陽の日差しが差し込む光景が目に入った。
「二日前に私が来たときはちゃんとありましたよね?」
「あー、実をいうと、‥‥昨日、怪鳥に襲われた。」
「‥‥‥‥はい?」
クーシェの呆けた返答を危機ながら昨日の事を話す。当然といえば当然だ。
―――俺も未だに意味がわからないのだから。
昨日、いつものように木材を加工してから戻って来た。そして、家の中で寛いでいると突如、空から風の刃が降ってきた。
まあ、俺、この体になってしまったため、無傷だったが‥‥。空には大きな鳥のような形をした魔物が殺気を放っていた。
指に圧縮した電流を怪鳥目掛けてぶっぱなす。怪鳥はギリギリで避けて逃げたが見ての通り、屋根には大きな風穴がぽっかりと空いてしまった。
荷物は幸いな事に無事だったが、作った家具は全てダメになった。ベッド、机、イス更にはドアまでもが風の風圧ですっとんで壊れたのだ。
風穴から覗く夜空は綺麗であったが、雨は凌げそうに無い。
「‥‥ネスク様、一体何をしたのですか?」
「何もしてない!クー、信じてくれ!」
「‥‥本当ですか?」
「本当!全く!これぽっちも思い当たる節が無い!だから、そんな目で見ないでくれ‥‥」
疑うようなジト目。
そんなに疑われているとは‥‥俺、凹んじゃう。
「‥‥はあ、まあ魔物の行動は予想が付きませんからね。分かりました。信じましょう。」
「‥‥クー。」
おお!信じてもらえた。
良かった、嬉しいありがとう。
ヤバい、何だか目から涙が‥‥。
「‥‥屋根、先に直しましょう。
このままでは家の中にいるという安心感が損なわれてしまいます。」
「‥‥そう、だな。クーがいる内に直そう。」
貰ったお裾分けを部屋の片隅に置いてから嬉し涙を拭く。部屋から外に出て裏手に回る。
裏手は自分で掘った井戸があり、その近くに昨日加工した材木を干してある。
一日寝かしたため恐らく水気も無くなっている筈だ。
まず、折れて使い物にならなくなった材木を取り外す。取り外した材木と新しい材木を取り替えてから粘っこい土で固定する。
後はそのまま自然乾燥させれば頑丈になる。
先ほど折れて取り外した材木は使える部分を丁寧に切ってから再利用。これと、壊れたイスや机、ベッドを組み合わせると再び使えるだろう。
クーに手伝って貰って運び出したイス、ベッド、机を解体していく。
「クーそろそろ夕方だ。帰らなくていいのか?」
日が西の空に沈みかけている。
集中していたからいつの間にかそんな時間になっていた。
「そうですね、そろそろ戻らないとミレド様が心配しますので今日はこの辺でお暇します。
あの子達も心配ですし……。」
「あー、そうだな。………彼女達、少しは落ち着いたか?」
「まだ怯えていますが、私やミレド様の前でも一緒にご飯を食べるようになりました。」
「‥‥そっか。俺は何もしてあげれないけど、良くなっているのなら良かったよ。」
「いえ、十分して貰ってますよ。ネスク様が気付いていらっしゃらないだけで‥‥。」
ボソッと言うクーシェ。彼女の髪が夕暮れ時に吹く風でフワッと揺れた。
夕暮れの日差しを浴びた赤い髪が輝いて見えた。
‥‥‥‥尊い。
ふとそう思ってしまう。
「名残惜しいですが、また来ます。今度は‥‥‥‥皆で。」
「おう!いつでも来い!
そこまで離れて無いからな。来たい時に来い!」
「‥‥‥‥はい!!」
クーシェの眩しい笑顔を受けてそこで別れる。
クーシェとの余韻を少し堪能した後、家の中に入るために表へと歩き出す。
ドアに触れた所で動きを止めて振り返る。
そして、殺気を込めて全身の魔力を起動させる。
「‥‥‥‥失せろ。」
誰もいない森の中に殺気を放った。
がさがさという音があちこちから聞こえた後、静けさが戻ってきた。
ネスクのいる聖域の東の森は、聖域の森の中で最も危険な森。戦闘能力の高い魔物がウヨウヨいる。結界を張ってはいるが、それでも結界を無視してやって来る魔物の数は少なくない。そして、東の森、その向こう側は人間が作った国【ヤグラシア共和国】が広がっている。
「‥‥入ろう。」
直したドアを開けて中に入る。そして、作り直したベッドに横になる。
人間と関わる事は懲り懲りだ。どうせ、うまく話せず相手から一方的に嫌われるだけなのだから。‥‥‥‥人とは関わらない。
それはもう決めた事だ。今更人間の国に行くなんてことは絶対にない。
ふと、(今世の)両親の事が頭を過る。
前世では父親にいらない子と思われていた。
そのショックは未だに抜け切れない所がある。
今世の両親は自分に愛情をくれていた、(直接聞いていないからわからないけど)と思う。
――――だけど、それは本当に自分なのか……。
「‥‥何じゃ。そんやしけた面してどうしたんじゃ?」
「ん、ミレ、ド?」
「うむ。久しいのう、といっても。五日ぶり、か」
ベッドの上に寝っ転がっていた姿勢から取り付けた窓に顔を向ける。
そこにはミレドが座っていた。
「クーは戻った筈だぞ。」
「うむ、確認してからひとっ飛びして来たからのう。」
「なら俺に、か?」
ミレドが返事の代わりにこくりと頷いた。
「久しぶりに何か話そうではないか。最近は、‥‥まあ、色々あったから話せる機会も減ったからのう。それに、話した方がすっきりする事もあるじゃろ?」
右目を片方ウインクするミレド。どうやら、本当に話をするだけのようだ。
「そうだな。‥‥ミレドには前、話したよな。‥‥前世の話。」
「おお、言っておったのう。前世があると、まあ珍しい話でもなかったからそこまで気に止めてなかったのう。」
それから、先程まて考えていた事。両親の事などを話した。全部吐き出した。
自分の中の全てを。ミレドに、なら…。自分の全てを教えても良いと思える。
「何じゃ、その父親は。自らの子を手にかけるとは親の風上にもおけぬ奴じゃのう。その頭、一度しばいてやりたいものじゃ!」
「‥‥ミレドがしばいたら頭が吹っ飛ぶと思うからやめとけ。」
「大丈夫じゃ。加減はするからのう。せいぜい頭蓋が凹むぐらいじゃ。」
「やめろ。怖いわ!
頭蓋骨が凹む時点でアウト!
殺人事件が勃発するだろ、普通に…。」
「む、良いと思ったんじゃがな……。」
「はいはい。‥‥俺って誰なんだろうな。」
「おぬしはおぬしじゃろ。
今を生きているのもおぬし。死んだおぬしもおぬし。全ておぬしであって他の誰者でもない。
おぬしはこの世でただ一人。『ネスク』じゃ!」
ミレドの言葉に何故か鳥肌が立つ。‥‥何でだろう。
だけど、重たい感じの物が吹っ飛んだ気がする。肩の力が抜けた感じである。
豪快に笑ったミレドの笑顔に釣られて俺も自然に笑みを浮かべていた。
ミレドとネスク。師匠と弟子。
二人の絆は固くお互いを思いやる気持ちを持っている。
ネスクとクーシェ。妹(仮)と兄(仮)。
血は繋がらないが兄妹のように仲の良い二人。
ネスクの周りには彼が気付いていないだけで信じて思っている人で溢れています。
さて、次回。第二部の一応閑話?です。
二部は物語上短い期間での話でしたが、結構な量の話になってしまいました。