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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2章 亜人連合国騒乱編
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欠けた平穏

前の話から急に場面が変わってしまいましたが、内乱は既に鎮火したためミレド、クーシェ、ネスクは聖域にある家へと帰って来てからの話です。

 

  カーン!‥‥‥‥カーン!


  斧を振り上げて木に向けて打ち込む。メキメキという音を立てて木が横に倒れた。


「ふぅ、こんなもんかな‥‥!」


  額に浮かび上がった大粒の汗を拭き取って一息付く。―――ここは聖域。ミレドが作り出した結界に入るか入らないかの境目付近。

  俺は今、新しいすみかを作るために材木を作っている。魔法をぶっぱなしても良いが、両手がズキズキと痛み始めるため手間ではあるが人力で作った方が良い。


  クロとの死闘から一月が経過しようとしている。


  頬を肌寒く感じる風が触れる。

 早く完成させないとこのままでは冬が到来してしまう。周りの木は紅葉した葉を付けてあちこちに何かの木の実が成っている。

  両手の包帯がほどけている。どうやら、斧を振った際に巻き目が千切れたようだ。


「ネスク様!!」


  背後から呼ばれて振り返るとクーシェがやって来る姿が合った。何か籠のような物を片手で抱えつつ右手を上で振っている。


「クーか?‥‥どうした?」


  自分も手を振って持っていた斧を立て掛ける。


「お裾分け、お持ちしました!!」


  木の切り出しを止めて寄って行く。クーシェの持っていた籠の中には秋の果物だったり、食料がいっぱいであった。


「どうしたんだ?これ‥‥」

「ディル様からの仕送りだそうですよ。あちらもたくさん実ったそうです。」

「‥‥そっか、ならその辺に置いとけ‥‥。」

「は~い‥‥!」


  クーシェに指示を出した後作業に戻る。

 俺が何故、家があるにも関わらず離れた所で新たな家を作っているのかというと‥‥。


…………それは一ヶ月前に遡ってしまう。


  魔物の残党を片付けた俺達はポーアを担いでグラス団長と合流した。意識がないポーアを見た兵士達が右往左往の大混乱。だけど、団長の一喝で鎮火した。流石は団長‥‥。

  その後、夜営をして一夜過ごした。夜の森はかえって危険で昼間は休眠状態の肉食植物が夜は活発になってしまう……との事だ。

  深夜を少し過ぎた頃、ポーアの意識が戻った。傷は既に完治させた。後遺症は残らないと思うが一日は横になっていた方が良い。


  兵士の人達が鼻水に涙で号泣。この人達、

 ポーアに対して過保護すぎるのではなかろうか。


  朝日が昇る頃、捕虜を引き連れて凱旋した。皆大いに喜び、その日はどんちゃん騒ぎだった。今までの縛りが無くなった影響か笑顔で溢れかえっていた。

  その後は、内乱者を牢屋にいれたりしていた。襲撃で壊された部分を作り直したり、食料の調達もした。

  亡くなった者達を弔うための儀式を行ったりもした。(俺達は影からこっそりと黙祷をした位だが‥‥。)そうこうと忙しくしている内に数日が経過した。


  そこで俺が家を作る事になったとある問題に行き当たった。ナザラの奴隷として扱われていた女性達。―――彼女達はドルイド族ではなく、別の種族。

  彼女達を存外に扱うだけではなく、酷い目にも合わせた責任問題云々。


  そこは、『種族会議』で下されるみたいだ。


『種族会議』

 ペルメスの各種代表、つまり長が集まって会議を行う為に設立された会議。

  今回のように他種族が他種族に対して個人の権利を損なう行いをした場合、この会議で話し合った末、下した結論に基づく行為を行使する場でもある。所謂、前世でいうところの『裁判』だ。


  異議アリ!!


  みたいな事もいうのだろうか‥‥。


  話を戻そう。詰まる所、彼女達を今すぐにでも帰してあげたいが彼女達は怯えてしまって、それ処ではなかった。

  挙動不審に加え、人の顔色を常に伺い少しの仕草でさえも体をビクつかせる始末。そんな状態で帰すのは酷すぎる。

 ―――特に男性に対しては酷い有り様であった。男の人が話し掛けるだけでまるで壊れた機械のように『ごめんなさい。』をずっと繰り返し縮こまってしまう。


  ナザラのせいで彼女達の心に大きなキズを作ってしまい修復するのにとても時間が必要とドルイド族の医者のヘイズさんが言っていた。


  誰も近づかず、人目も無い。そして、キズを癒せるだけの自然が広がる場所。そんな場所はこの場所、聖域だけ。そういう訳で俺は彼女達を怯えさせず、心の治療に集中してもらうためにミレド達の家から離れて暮らす事にしたのだ。


「一、二~の!!せいっ!!」


  斧を振り上げる。そして振り下ろすタイミングで体重を載せて自然な力で叩き込む。真横の一点集中の斬撃が木に叩きつけた瞬間に広がった。数本の木が一気になぎ倒された。


「う~ん、まだ力加減がわからん。」


  蘇生されてから『禁扉』の代償として、獣に変化する呪いを身体中に受けた。その影響は魔法だけかと思っていたがどうやら基本的力も強くなってしまったみたいだ。


 ―――筋力、腕力、俊敏力、洞察力等が全て元の力の何倍も強くなってしまったのだ。

  底上げされたせいか今、力加減をコントロールする事が難しい。前と同じ力でスプーンを持つだけでグニャリと曲がったり、皿(鉄)を指圧だけで割ってしまったりとそれもう大変だ。



  バキッバキッと木が倒れた後、ゴトンと何かが足元に転がった。

 地面に落ちたそれは斧のヘッド部分。手元の斧に目を向けると持ち柄の所のみを残してポッキリと折れてしまっていた。


「あちゃーやっちまった。」


  かなり加減はしたのだが、それでもポッキリ。

 怪物の苦労は贅沢なのかもしれないが、それでも苦労は苦労である。


「また、作り直すのですか?」

「まあ、な。斧は意外に使えるからな。冬がくれば薪割りなんかにも使える。冬までには直すつもりだが、‥‥今日の分どうしようか…。」


  既に結構な量を斬っている。今日中には終わるかと思っていたのだが。こうなれば、魔法を使おうかな。


「‥‥でしたら、私が。」


  クーシェが指先に小さな炎を生み出す。


「‥‥いいのか?」

「はい!お任せ下さい!!」


  片手に小さめではあるが青い炎を出現させる。

 その青い炎を薄く伸ばして円盤のように広げる。


「【蒼炎の円刃サークル・キアノ・フレイム】」


  青い炎を薄くした円盤を木に向かって投げ付けた。焦げたような一直線を幹に作り出したまま、数本作り出して消滅した。


「後は回収するだけですね!もう斬りましたから。」


  再び秋の訪れを告げる風が吹く。

  風に当てられて木がドミノ

 倒しのように風の吹いた向こう側へ倒れた。

「‥‥腕上げたな。お見事!」

「えへへ、ミレド様と何度も出来るように特訓しましたから。」


  頭を優しく撫でる。尻尾が嬉しそうにブンブン揺れる。

「ポーアは、‥‥まだ帰って来てないのか?」

「はい…。まだ戻ってこれるまで少し時間が掛かるみたいです。」

「そっか。早く帰って来たら良いのに、な。」

「‥‥そうですね。」


  平穏な生活に戻る事は出来た。だが、そこにポーアの姿は無い。ポッカリと何か大事な物が抜けてしまったような感覚。それほど迄にポーアのいた日常が当たり前になってしまっていたみたいだ。


「‥‥さて、材木の確保は出来た。俺は自分の家を作りに戻るがクーはどうする?」

「あ、お供します。あの子達はミレド様にお預けしておりますので。(今日、実は言うと‥‥非番なんです)ふふふっ。」


  耳元で息の掛かる程の距離で急に言われて内心ドキッとした。

  クーシェが口元を押さえて笑う。可愛らしいその仕草に高まった鼓動が耳から出るのではないかという位の大音量で響いてうるさい。


「早く行きましょ!ネスク様!!

 日が暮れてしまいますよ!」

「あ、ああ。そうだな。」


  貰ったお裾分けを持ち上げて移動する。斬り倒した木の移動は後からだ。


 

聖域に戻ってきたミレド、クーシェ、ネスクは傷心状態のナザラの奴隷にされていた子達を引き受ける事になりました。

ミレドとクーシェは、彼女達のケアを兼ねて世話をしている状態です。

ネスクは一人自分の荷物を求めて少し離れた所で暮らす事に‥‥。

ネスクだけサボっていると思われそうですが、色々と訳があります。


一、力の制御がうまくいっていない状態での共同生活はとても危険

二、ヘイズから話を聞いていたため男である自分は彼女達から離れているべきだと考えている。

三、力のコントロールを兼ねてネスクが結界に近づく危険な魔物を狩っている。

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