人間、止めてしまいました
ネスク復活!!
だけどその直後‥‥。
『精神と肉体の定着を確認。
これより、禁書庫との同期を開始。
・・・・・・同期完了
記憶の保管開始
・・・・・・完了 』
淡く光っていた体の光が失われる。
それと同時に書庫内に置いていた意識が定着した体の中で目覚める。
宙に浮いていた体がゆっくり降下して地面に降り立つ。体の動きを確認する。
腕、足、首。体中からゴキゴキと音が鳴る。
「ははは、また派手にやらかしたみたいだな。‥‥俺。」
周りを見渡すと、あちこち地面が抉れ、巨大な木の幹がごっそり削られている。
俺はクロとの記憶が途中から無いため、
どんな状況だったのか知らない。
だが、地形の変化を見る限り大分、派手に暴れたみたいだ。
「ネズ、ク様、ごほっ、ごほっ!」
「ポーア様!!」
悲鳴でそちらへと向く。
倒れたポーアに駆け寄るクーシェが目に入る。
ポーアの周りは血で真っ赤になっている。
「ポーア!!」
クーシェの後から駆け寄ったミレドが魔力を使いポーアの回復を開始する。
しかし、途切れ途切れになりつつあるミレドの回復が追い付かず、ポーアが再び吐血する。
「鑑賞に浸っている場合じゃない。」
出来立てホヤホヤの体に魔力を流す。
魔力が心臓から足へと送られる感覚。前の体より魔力の速度が上がっているように思える。
地を蹴りポーアの前までひとっ飛び。
「ネスク様‥‥。ポーア様が‥‥。
ポーア様が‥‥!!」
「くっ、魔力が足らぬ。ネスク!蘇生早々で悪いのじゃが。手を貸せ!」
「ああ、分かってるよ‥‥!」
ミレドの空いている手を握る。
自身の体にある魔力をミレドに手から手へと委託するイメージで送り出す。
途切れ途切れだった聖の光が増す。
「‥‥まずいのう。心臓が動いておらぬ!」
「えっ?【視認】」
X線検査のようにポーアの体の中が透けて見える。【視認】は目に見えない魔力の痕跡を視認する魔法。人は体中に魔力が流れている為、この魔法で見ると体が透けて直視する事が可能。
「くっ、ポーア!帰ってこい!!」
ポーアを仰向けにした後、すぐに心臓マッサージを行う。
俺を甦らせる為にその命を使う。
‥‥‥‥そんな事、俺は望んでいない。
「ふぅ!ふぅ!ふぅ!ふぅ!」
心臓マッサージを二十回程した後、口を開かせて空気の通り道を確保。
「はぁぁ!!‥‥‥ふう!」
「なっ!?」
「えっ!?」
『『ひゅ~♪』』
皆の驚いた声が聞こえるが今は命が掛かっているのだ。そんな事言っていられない!
再び心臓マッサージを再開する。
「ネモ!ぺーレ!ミレドに魔力を貸してやれ!
ミレド!魔力を使ってポーアの体内の傷を直してくれ!このままじゃ、いくら心臓マッサージをしても体内が治ってないから意味がない!」
『『了解!!』』
「う、うむ。‥‥ネスク、おぬしの言葉。
信じておるぞ。」
「ミレド様!私にも『魔力付与』、お願いします!」
周囲の温度が上がった気がした。
心臓マッサージをしながら横目で見る。
クーシェの周りを炎が衣のように包み込む。
そして、二本の尾がゆらゆらと揺れる。獣のような形を取った炎が彼女に従うように揺らめいている。
「‥‥クーシェ、頼む!」
「お任せ下さい!」
聖の魔力を込めた球をクーシェへと渡す。すると、聖の球体がクーシェの首元で光り留まる。
「【白炎】!!」
白い炎がポーアの体を包む。
驚いて少し身構えたが炎は熱くない。
それどころか何処か心地よい。
『ハイハイ~魔力だよ~♪』
「うむ、助かる。それじゃ、妾も!」
ぺーレがミレドの肩に乗る。そこから、魔力がミレドに送られる。ぺーレから受け取った魔力を聖魔力へと変換してポーアに流す。
視認していた内部の傷が治っていく。
「‥‥‥‥ふぅ!」
人工呼吸をして、再び心臓マッサージ。
それを何度も繰り返す。
トックン トックン トックン
弱くではある。だけど、心臓が脈打ち始めた。
そして、呼吸も。浅いが確実に戻った。
どうやら危機は脱したようだ。
「‥‥ふう、良かった。」
額の汗を拭きながら一息付く。あとは内部の傷を治してからゆっくり休ませ上げるだけだ。
‥‥‥‥ポーアには感謝しかない。
地面に浮かんでいる魔法陣へと目を向ける。
今にも消えかかっているが恐らくあれはポーアの魔法だろう。ということは、ポーアがいなければ俺はあのまま死んでいたのだ。
ガウウウウ!!
せっかくの休憩を邪魔する者が現れる。
「‥‥はぁぁ、全く。空気の読めない奴め!!」
四足歩行の黒い魔物。奴らが放っていた魔物の生き残りだろう。
「‥‥俺がやる。皆はポーアを頼む!!」
「ネスク様、気を付けて下さい。」
「任せたぞ、ネスク」
『『ガンバ~!!』』
立ち上がって魔物が出てきた方へと向かい合う。
そして、腰に手を当てるが愛刀が無い。
「【構造具現化】」
右手に色の無い透明な剣を生み出す。
握り締め使い心地を試すが愛刀のようにしっくり来ない。どこか借り物のような感じする。
ガアアア!!
魔物が自分に飛び掛かって来る。
それをそのまま下から潜り込んで胴体目掛けて下から上へ一閃。魔物の体が縦に分断される。
ウルガ!! ウガルガ!!
両側から先程と同じ魔物が飛び上がってくる。
一匹目を斬り伏せた事で【構造具現化】で生み出した剣は既に手元に無い。
得物を失った所を強襲。
中々にこの魔物頭が良い。だが、
―――両足に魔力を込める。
飛び掛かって来る魔物の片側を魔力を込めた片足で蹴る。魔物の腹部にヒットした魔物が上空へと吹っ飛ばされた。
「【聖雷】」
体中に白い電流が走った後、雷が纏わり付いた。
ガアアア!!
傍らの吹っ飛ばされた魔物の意は返さず牙を剥いて襲い掛かって来る。
だがネスクに触れる前に雷に焼かれて力尽きた。
ガルルル!!
巨体な岩が迫る。指を一本立てて飛んでくる岩へ向けると指から出た雷が巨大な岩を縦に分けて後方へと飛んで行った。
その岩を放った魔物も縦に分断された。
「す、凄い‥‥。」
「あやつ、死ぬ前より強くなっておる‥‥。」
『おおお!』『ネス、強い~!』
両側から魔物が両手に食らい付こうと歯を剥き出しにして走ってきた。
(‥‥ん?両手に何か違和感が‥‥。)
両手の違和感を感じ考え込んだ事が災いして反応が遅れ魔物の歯が両手に食らい付く。
筈だった。本当なら‥‥。
両方の魔物の首が飛んだ。
体にべっとり魔物の血が付いた。だけど、今はそれどころではない。目を凝らして両手を見る。
「‥‥あぁ、成る程。今回の代償はコレ?」
異形の形となった両手がある。人の肌をした腕ではなく、白い鱗に身を包んだ三本の鉤爪を持った腕。
どうやら、俺は人間を止めてしまったみたいだ。
ジューと音を立てて両手から煙が出る。
鱗に包まれた腕が次の瞬間、元の腕に戻った。
はい!ネスク、遂に人間を止めました!!
今回の代償は自身の体。
体が獣に変化してしまうようになってしまいました。獣になる呪いみたいな感じですね。
戦闘力は桁違いに上がりました。
蘇生した体でも代償は必ず払われる。それが世の理。踏み倒す事は出来ません♪