約束−プロミス−
昨日に引き続き投稿します。
二日連続での投稿はとても久し振りです!
それから、
小説の一部を併合させていただきました。
旧)132部、133部→ 132部
旧)160部、161部、162部→160部、161部
話はそのまま繋げています!
「私の昔語りは如何でしたか?」
いつの間にか用意したカップを持ち上げて一口。そして、カップを皿の上へと置く。
「‥‥‥‥」
絶句、更に驚きが隠せない。
―――ソフィも記憶喪失だった。
その事もさることながら話に出てきた男共の行いに怒りが込み上げて来る。表に出てきそうな怒りを抑える為、俺も一口。口の中へと注ぎ込む。
ハーブの香りが口の中に広がり心が落ち着く。沸点が下がっていく感覚。
「‥‥ありがとう。話しづらい事、聞いた。」
「いえ、既に過去の事ですので‥‥。
正直な所、私はあの時の事があって‥‥良かったと今では思っています。」
再び、ソフィがカップを手に取り口に含む。
何処か懐かしいような表情が見受けられる。
「当時は、辛く痛いと思いました。‥‥ですが、
あの時の事があったからこそ、この力が目覚めたという事は感謝しかありません。」
ソフィの能力は『全智』。
それは所有者である自分でも分かる。
あらゆる事柄を理解しその情報を元に行使する。それは、誰でもない。ソフィだけに与えられた力。
――――ソフィの能力。
「ミレドが言った通り、か‥‥。」
『全智』故に、その苦労は計り知れない。
初めてミレドが会った時に言った通り。
誰もが欲しがるその力は頼れる存在であり、危険も付きまとう。
「幻滅、しましたか?」
首を横に振り否定する。
「‥‥いや、ソフィの過去が知れて良かった。
こんな"頼れる最高の相棒"を残してくれたんだ。女神様には感謝しかない。」
「‥‥‥‥そうですか。」
もう一度、持ったカップに口を付ける。
そのソフィの口元は少し、いつもより上に釣り上がっているように見えた。
「‥‥大朏様。一つ忠告しておきます。」
カップを置き、ソフィが改まったように急に見つめる。それを受けて丸まっていた背筋がピンと伸びる。
「‥‥『扉』についてか?」
「はい‥‥。『解放の扉<エルピス>』についてです。今後の使用はお控え下さい。」
「‥‥理由を聞いても?」
何となく理由は分かる。
アレを使った今だから分かる。
「私も大朏様なら、と思いましたが‥‥。やはり、アレは人には過ぎたるモノ。
危険すぎます。ですので‥‥」
「分かった。アレは使わない。」
「‥‥やけに素直ですね。正直、頑なに拒否されると思いました。」
「‥‥俺。そこまで信用されてなかったの?」
「これまでの事。振り替えって下さい。」
ソフィに無理をやって書庫を使わせた事。
書庫内の魔力を使って無理矢利戦闘した数々。
危険な魔法行使の為に、ソフィにそのナビゲーションをして貰った事。
あれ?
俺、ソフィに無理させてばっかのような‥‥。
「ご自身のなさっていた事、全て思い出したようですね。あの『扉』を何度も使えば、大朏様の体が幾つあっても足りません。」
「‥‥はい、猛省します。」
心を読んで汲み取ったソフィが反省している事を確認してうんうん頷く。
「‥‥今後、使わないで下さいね。約束ですよ。」
そう言いソフィが小指を出して来る。
……ああ、成る程。
自分も小指を出してソフィの小指と絡める。
子供が約束する時にするアレだ。
「ゆ~び、き~り、げ~んま~ん♪
嘘ついた~ら、そのし~た(舌)、
ひきち~ぎる♪ゆびきった!」
ゾワゾワゾワと背筋を撫でられるような寒気が走った。
(こわいこわい、こわい!!)
まるで契約したような『ユビキリ』で合った。
約束を破れば、本当にするのではなかろうか。
「‥‥っと、そろそろですね。
では大朏様、約束、しましたからね!」
意識が遠のくような感覚が襲い掛かって来る。それと同時に強烈な睡魔が訪れる。
抵抗する事も出来ず、そのまま意識が何かに引っ張られるようにそこで途切れた。
***
「くっ!」
失われていく魔力のせいでポーアの顔色が白くなる。魔力がスポンジのように吸い上げられていく。
『蘇生魔法』。死んだ者を甦らせる魔法。伝説的立ち位置のこの魔法に掛かる魔力の量は伊達じゃないようだ。
「ポーア様手伝います!!」
魔方陣から離れていたクーシェがポーアの持つ『|螺旋状の盾《スクートゥム・スピランセス≫』に手を掛ける。
「くぅっ!」
クーシェの魔力が注がれて魔方陣の光が増す。
空には透明な鍵(精神体)が浮かび淡く光る。
地面にはミレドが作り出した光(肉体)が魔方陣の中央で輝く。
「ぐ、この!!」
ミレドが光(肉体)に与える魔力を増やす。
『みんな、頑張れ~!!』
『ガンバ~!!』
精霊二人の応援を受けて踏ん張る。後、少しなのだから‥‥。
条件は既に揃ってある。
『我 願う
常世の古より出でし者 汝に与えるは汝の心
天より舞い降りし者 汝に与えるはゴボッ!!』
「ポーア様!!」
「‥‥だ、大丈夫、です。続けます。」
口の中いっぱいに鉄の味が広がる。
吐血した血が地面に零れ落ちた。
魔力枯渇を起こした体が自分の中で自傷行為を起こしたのだ。だけど、ここで止める訳にはいかない。
『汝に与えるは汝の体
汝は人 人は汝 我 願う
我が願は 汝の‥‥』
意識が遠のく。
キーンと耳鳴りがする。クーシェの声が聞こえる。だけど、まるで水の中から聞いているように何処か遠くに聞こえる。
あ、れ
わたくし、何してたのだっけ?
何か、重大な事を、していたような‥‥
遠のく意識の中、自分のしていた事が思い出せない。だけど、胸の奥がきゅうと今も締め付けられている感覚がする。
『ポーア‥‥。頑張りなさい‥‥。』
幻聴が聞こえるようになったのだろうか。
全く聞き覚えのない女性のような声。だけど、何処か懐かしいような嬉しいような感覚がする。
『あなたの想いを成し遂げなさい。
ほら‥‥いきなさい‥‥!』
ふらっとしていた意識が明確になる。
そして、足に力を加える。倒れそうになった体を踏ん張って、沸き上がる力を魔法に込める。
『我が願は 汝の生!!』
最後まで唱えた精神体と肉の光が上と下から伸びていく。
二つの光の中間で交わる。
ぶつかり合った光が弾ける。
「うぬっ!!」「きゃあっ!!」「うっ!」
衝撃波でミレド、クーシェ、ポーアの体が魔方陣から外へと弾き飛ばされる。
『ぺーレ!私の出番だよ!!』
『うん!!』
飛ばされる三人とは別に、小さな二人がそれぞれの所へと急速に飛んでいく。
『【水泡】』
「【無風緩和】」
弾き飛ばされたミレドをぺーレが作り出した巨大な水泡がキャッチするように包み込んだ。
それとは逆方向へと吹き飛ばされた二人は風の衝撃が途中でスパッと切れた。そして、二人の周りにはネモの風が怪我しないようにゆっくりと支える。地面に降り立って地べたに座り込む。
球体だった光は形を変えていく。
球体から星のような形へ。
そして、そこからヒトの形を取り空から透明な鍵が中央で収まる。
それと同時に光が失われていく。