ソフィアの追憶−レコレクション−
今回はソフィアの過去についてです。
――――私には生まれてからの記憶が無い。
初めの記憶は薄暗い牢屋の中。
窓から射し込む光が印象的な牢屋が私の見た最初の記憶。周りには誰もいない。
両手には分厚く重たい手枷が填められていた。
魔力を阻害する魔法が掛けられていて、魔法を発動させようにも上手く魔力をコントロール出来なかった事を今も覚えている。
着ている物はボロい布切れが一枚だけ。
「******!」
聞き慣れない言葉と一緒にガチャリという音がした後、
鉄格子に取り付けられた扉から慌ただしい足跡で複数入ってきた。
振り向くと同時に強い力で押さえ付けられた。
地面に叩きつけられて痛い。
何が起こったのか分からずにいたが、強制的に頭を向けられたお陰で状況が理解出来た。
二人の兵士に組伏せられ、残りの二人が一人の男の背後に控えた形で立っていた。
見下ろす男の冷たく鋭い視線が自分に向けられた。侮蔑する視線、まるで汚物をみるかのような視線に戦慄を覚えた。
「*****」
?
言語が理解出来ず、首を傾げていると控えていた兵士の一人が殴られた。
‥‥‥‥痛い
殴られた所が痛い。
「*****!!」
朦朧とする意識の中で分からない言語で怒鳴り散らす男に恐怖を感じた。
「こふっ!!」
脇腹を蹴られる。
そして、髪を引っ張られた。
「*****」
何かを喋る男。
理解出来ないまま、蹴られ、殴られ、引っ張られる。
「ふぅ‥‥‥‥ふぅ‥‥ふぅ」
口で浅く呼吸をする。
体中が痛い。
暴力を加えられ続けてどれくらい経っただろう。二時間、三時間‥‥いやそれ以上だろうか…。
「*****!!」
痺れを切らしたのか冷たい視線を浴びせて来た男が腰に帯刀していた剣を引き抜く。
剣の刃が自分の首筋へと向けられる。
「っ!」
少し切られた首筋から血がポタポタと流れ落ちた。
ドクンッ
恐怖で心臓の鼓動が早まった。
荒くなっていく呼吸、だが頭の中は冷静だった。
このままでは、目の前の男に殺される。
殺される
殺される、殺される‥‥‥‥殺される。
ガチリ!
恐怖という感情を覚えた私の中で何かが歯車のように噛み合った。その瞬間、私の中にあらゆる情報が入ってきた。
言語、魔法、現象、世界、理、歴史
そして、禁忌‥‥。
様々な情報を全て処理する事は昔の私では不可能でした。それらの情報を私は、『本』という形にして封じ込めました。
封じ込めた情報を私の(記憶領域の)中で整理して本棚にしまいました。
そして、生存する可能性が最も高い可能性を考え、それに必要な情報をその『本』の中から引き抜き実行。
私の血に触れた剣が錆びて朽ち果てる。
それに驚いた(冷たい視線を送って来た)兵士が後ろに控えていた兵士の剣を引き抜いて首を刈り取ろうと振るう。
横からの剣撃の軌道を私は、縦方向へと切り変えた。
その瞬間、剣は私、ではなく。取り押さえていた男の一人の腕に振られた。
「ぎゃあああっ!お、俺の腕がっ!!」
腕と本人が分かたれて男が悲鳴を上げる。
手枷に血が飛び散った。
『腐朽』
その血を利用して両手の手枷を酸化させ、
錆びた手枷を引きちぎる。
『氷結停止』
再び魔法言語を口にすると、私の周りにいた兵士(私の髪を掴んでいた兵士、押さえ付けていた兵士、腕を斬られた兵士)が皆、凍り付き動かなくなった。
「ひ、ひい!ば、化け物!!」
言語を吸収したお陰か、男達の言葉が理解できた。控えていた男の一人が逃げ出した。
「悪魔が!貴様のような悪魔はこの私が!!」
『時間停止』
カチャリ
私の言葉で静寂が訪れた。
目の前の兵士の動きが完全に停止、更に窓から覗く雲までもが全て停止してしまった。その言葉の通り、時間という時間が全て停止したのだ。
ヒタッ、ヒタッ
氷のせいで裸足の足裏が冷たい。
引きちぎった手枷の一部を停止した兵士の両手に付ける。
『遡行』
時間を巻き戻すように手枷が元の錆び一つ無い新品同様の手枷に巻き戻った。
『消滅』
窓が取り付けられた壁が一瞬で消え去った。
そして、そのまま外の世界へと飛び出る。
外は、どうやら町になっているようだ。
灯りが灯る家の屋根を踏み台にピョンピョンと軽やかに暗闇が広がる空を飛ぶ。
****
人影の無い誰もいない丘の上へと降り立つ。
町が一望出来るその場所。
吸収した情報の中で人間が住む町並みと酷似している。
「‥‥私は、だあれ?」
その問に答える者はいない。
吸収した情報に自身の情報は存在しなかった。
――そして、記憶も無い。
私は誰で、何の為にあんな場所にいたのか分からない。
あの時の恐怖が沸き上がって来る。
ほんの少し。あとほんの少し力を加えられていれば大動脈を切られ大量出血で死んでいた。
体の震えが止まらない。
自身の首筋をもう一度触れる。
血は渇いていてもう止まっていた。
時間停止の効力も既に失われている。
早くこの場所を去らなければいけないけど、足に思うように力が入らない。
「‥‥おや、こんな夜更けに女の子が一人とは感心出来ないね……。」
びくっとして振り返る。もう追っ手が追い付いて来たのかと思い身構えた。
「そう身構えないでくれ。別に取って食おうて訳では無い。」
飄々と喋るローブを着た人物がそう告げる。
体躯はスラッとした体格がローブに隠れているが分かる。男、というよりかは線が細くどちらかといえば女性よりである。
「ああ、このままでは話しづらいね…。」
被ったフードを脱ぐ。
白い髪に後ろで一つに結わえた髪が印象に残る。銀色に輝く瞳がフードの奥から顔を出した。――――やはり、女性であった。
「君、だね。例の子は……!
私は、ジル。"女神・セレネ様"に頼まれて君を探しに来た者だ。まあ、こんな身なりで怪しい事は重々承知だが、これだけは確たる事実だ。
‥‥‥‥君の味方だ。」
これが初めての出会い。
虫がさざめき合う丘の上で私は将来、持ち主となる人物と出会った。
はい!
ソフィアの過去についてでした。
そして、初めて初代様登場!!
見た目は紳士的ですが、将来化け物のように強くなる人物との
出会いの話でもありました。