書庫の中にて
ミレド達がネスクの蘇生をしている最中。
一方、ネスクは‥‥。
「‥‥‥‥ん?」
「どうかされましたか?大朏様。」
「‥‥‥‥呼ばれた、気がする。」
「そうですか‥‥。うまく事が運んでいるようですね。私の意図を汲み取るとは‥‥‥‥流石は、我が妹です。姉として誇らしい限りです。」
パラパラと捲って読んでいた本を閉じる。
無表情に近いスフィアの妹自慢?を聞き流しながら、辺りを見回す。特に変わった事はないが。
―――ここは書庫の中。現在、なぜか外に出ることが出来ない。
ソフィから話を聞く限り、俺は今、精神体と肉体に分裂してしまっているようだ。
俺、実はクロと戦ってから途中の記憶がない。恐らく、その時に分かれてしまったのだろう。
クロと戦ってからどのくらい経ったのだろうか。書庫内で長い時間を過ごした。
書庫内は、時間の流れが歪んでいる。
その為、外(書庫の外)の時間と中(書庫内)は常に一緒の時間が流れていない。時間が早くなったり、遅くなったりと様々だ。
もっと書庫と密接な繋がりとなれば、この時間操作をする事も可能なようだが、現状では難しいようだ。‥‥‥残念。
「時間に五年分くらいでしょうか‥‥。」
「えっ、そんなに?」
「はい、大朏様。外の時間にして、約五、六時間程。ですが、今日の状態は時間が早まっております。」
「へぇー、けどそれなりに有意義な時間だったよ‥‥。」
まるで精神と時の部屋みたいな現象に呆れ半分驚き半分である。本当に何時来ても、謎空間だ。もう、時差ボケどころの話ではない。
まあ、お陰さまで様々な知識を得る事が出来たため、良しとしよう。
机の上、下、横には大量の本が所狭しと重ねられている。その量は1日そこいらで読める量ではない。ネスクは書庫で目覚めてからずっと書庫内にある情報を頭の中に詰め込めるだけ読んだ。
いずれ、誰かが助けてくれることを信じて。
情報不足でまた敗北するような事はしたくなかったからもある。
「『ソフリア・クレ』」
鍵名を呼び掛けると手の中に透明な鍵が現れる。その鍵を右手に持ったまま、手を突き出して呪文を唱える。
「【クローズ】」
そして、時計回りに一回転する。だが、
・・・・・・・何も起きない。
「大朏様‥‥まだ、ですよ。」
「‥‥‥‥やっぱり?」
「はい、貴方様の体は既にこの世にありません。ミレド様が塵も残さず消し飛ばしましたから。
恐らく体の修復、それから『蘇生魔法』をされているのでしょう。
ですので、呼ばれるまで帰れません‥‥。」
「えー、早く帰って皆に会いたい。いっその事、
ランプでも作ってそこからブワッと帰るとか‥‥」
「‥‥言っておきますが、私は『ランプの精』ではありません。助言は出来ますが、欲しい物を何でも与えるという行いは出来ません。
なので、そのような期待するような視線は止めてくれませんか?」
あ、俺の世界の童話も知ってたんだ。
「‥‥なんか、ごめん。」
正直、ソフィなら何でも出来る気がした。
頭脳明晰、知識豊富、更に書庫内の全ての情報を把握している。
そうなると、此処から出る抜け道も何か知っているのではなかろうか。と思ったのだ。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
二人の間に沈黙が広がる。
正直な所、話しの話題が思い付かない。
「‥‥‥‥何か知りたい事はありますか?」
沈黙を破るようにソフィアが口を開く。これまで話して来た中でソフィアから話し掛ける事は稀である。
「‥‥‥‥そうだな‥‥。敢えて聞くなら‥‥、ソフィについて聞かせてくれるか?」
「‥‥‥‥私について、ですか?」
ソフィが珍しく目を見開いた。
そんなに驚く事だろうか‥‥。
「ああ‥‥、話したくなかったら別にいいぞ?
人誰しも教えたくない事もあるだろうから。」
「いえ、そういう訳ではないのですが‥‥、
‥‥私について知って面白いのですか?」
「‥‥別に面白いとか、面白くないとか、
そういう話でも無いだろう‥‥。
お前は、俺の相棒なんだから。
相棒についてもっと知りたいと思うのは当たり前だと思うぞ。
他人を知ろうとする。
―――それが『人間』何だから。」
ドヤッ!
「‥‥‥‥ぷっ。そ、そうですね。」
「な、何だよ!?急に‥‥!」
「‥‥い、いえ。‥‥急に、ぷっ、ネスク様が決め顔をするものですから、ぷっ、ダメ。久し振りにお腹の虫が‥‥、ぷぷぷっ!」
「おいっ!お前のお腹の虫はどうなってだよ!
あれか!笑いを餌にでもするのか!!
というか『笑い』って何だよっ!?
これでも真面目にだな‥‥!」
「ぷっ、ふふふふ。‥‥‥‥ふぅ、お腹の底から笑えたのは久し振りです。笑いを‥‥
『ご馳走様でした。』」
「どういたしまし、て?」
掌を合わせて合掌したソフィアに習って、思わずネスクも合掌をする。
「あまり話せる事もありませんが、呼ばれるまでお話致します。大朏様、退屈凌ぎにはなるでしょう‥‥。」
ソフィアが歩いて先程まで座っていた椅子に再び腰をおろす。俺も向かいに座るように椅子を引いて座る。
「‥‥さて、何からお話ししましょう‥‥。」
ソフィアは、机に肘を置き頬杖をしてから一息つく。天井のテラスから光が神々しく放つ。
その光に照らされたソフィアの真っ赤な瞳が一層きらきらと輝いた。
ソフィアとネスクの会話メインの話でした。
外ではネスクを生き返らせようと奔走している中、ネスクは(書庫の)中で優雅に読書。
‥‥‥‥一発、殴らせろ‥‥。
次回は、ソフィアの過去が一部明らかに。