蘇生魔法
何時もより遅い時間になりましたが、公開します。
「ポーア様大丈夫ですか?」
「はい。一人で歩くより、とても楽です。ありがとうございます。」
『どういたしまして~』
『ペーレは石を壊してるだけでしょう~!』
賑やかな会話で皆に補助されながら歩く。ミレドまでもうすぐそこである。当の目的ミレドは、相変わらず見上げた姿勢で動かない。
近づいて分かった事がある。
ミレドの側に刺さっていた物、それは‥‥
ネスクの武器、『刀』である。
「‥‥おぬしらか。無事で何よりじゃ。」
振り返らず気配のみでミレドが言い当てた。
「ミレド様もご無事で何よりです‥‥。」
「うむ、じゃが‥‥。」
動かなかったミレドがネスクの刀へと、顔を向ける。刀の刃が月の光でキラリと光る。
「‥‥殺した。殺してしまった‥‥。
もう失った物は元には戻らぬ。それは世の理じゃ。」
「‥‥‥‥ミレド様。」
『『ミレミレ。』』
ミレドの瞳は闇のように黒く染まっていた。
心配するクーシェ、ネモ、ペーレ。皆の言葉は今のミレド様には恐らく届かないだろう。だけど、わたくしなら。
「‥‥ミレド様。ミレド様はネスク様のために命を掛けられる覚悟はございますか?」
「‥‥‥‥どういう意味じゃ?ポーアよ。」
ミレドが訝しむように、ポーアを見つめる。
「っ!」
もの凄い威圧。絶望したミレドの威圧は何者も発言を許さないような重圧だ。その重圧がポーアに降り注ぐ。
額から冷たい汗が流れ、手足が震える。体がこの場にいたくないと悲鳴を上げる。
「ポーア様、大丈夫です‥‥。」
クーシェの声と一緒に自分を握る手に力が加わる。クーシェを見ると、クーシェが見つめていた。一人でミレドの威圧を受けて入れば間違いなく堪えられなかった。
だけど‥‥
大きく息を吸ってから吐く。
呼吸を整える。
「元に戻る道が一つだけございます。ですが、とても険しい道。一歩間違えれば自身も道から外れ転げ落ちるような道です。ミレド様、もう一度問います。ネスク様を救い出す為に命を張れますか?」
「‥‥‥‥無駄な事じゃ。どうせ、また壊れる。壊してしまう。人とは簡単に壊れてしまうものじゃ。
一度目は、ヘヴラに壊された。二度目は、自身の手で壊してしまった。あれほど以前の二の舞にならぬように慎重にしておった。じゃが‥‥!」
その瞬間、ネスクの刀にヒビが入る。ヒビが広がっていき、刀が粉々に砕けてしまった。
「‥‥ほら、この通り。いとも容易く砕けおった。妾もヘヴラとなんら変わらぬ。」
ネスクを自身の手で殺めた後悔。落胆、悲嘆などが混じり合っている。その念がミレドの心に蓋をしようとしている。このままではミレドの心は闇に沈み二度と出てくることは無くなってしまう。
「しっかりして下さい!!ミレド様!」
バッチン!!
クーシェが怒鳴った後、頬を叩く音が辺りに響いた。
自分の右手を見る。握っていた右手がその場で固まっていた。
体がビクッと後からはね上がった。
いつも穏やかなクーシェの怒鳴る声。先ほどまで手を握ってくれていた筈がいつの間にミレドの傍らへと移動して平手打ちをしたのだ。
ミレドの左頬が腫れて赤くなっていた。
「確かにネスク様はミレド様が殺しました。その事実は変わる事は無いでしょう。しかし、アレはネスク様であってネスク様ではないモノ。それは魔力を見た時から分かっていました。」
それを聞き驚く。
クーシェは薄々気づいていたのだ。
「‥‥ネスク様の精神<アニマ>は『禁書庫内』にあるそうです。これはヒサカキ様、ひー様からの情報です。‥‥ここまでいえば分かりますよね。」
「‥‥そうか、ポーア。おぬし、ヒサカキと話したのか‥‥。」
「はい、ひー様と正式な"契約"をしました。わたくしが暴走しかけたのを止めてくださり、その上ネスク様を元に戻す方法も授けて下さりました。‥‥ミレド様、選択して下さい。
このまま後悔の中にずっと囚われ続けるか、ネスク様を救い出し、皆で帰るか。」
「‥‥‥‥。」
ミレドが沈黙する。だけど、確信できる。
ミレドの瞳に僅かな光が戻って来たからだ。
「‥‥‥‥ポーア、クーシェ、約束してくれ。‥‥もうこんな思いは懲り懲り、じゃ。後悔も、懺悔も‥‥。
じゃから、何があっても必ず生き残る‥‥と。
自身を犠牲にする考えはしないでくれ。
‥‥‥‥良いか?」
「「‥‥‥‥はい。」」
『私達は~?』
『ネモも~?』
「‥‥おぬしらもじゃ。」
『『うんっ!』』
これで欠片が全部集まった。
「『螺旋状の盾』、ミレド様。ネスク様の体をお願いします。」
右手で首に掛けられた神器<盾>を展開させる。再び錫杖へと姿を変えた神器で地面を叩く。
コンッ!
木の軽い音と共に脳内に刻まれた魔法陣が展開する。輝く魔方陣、ぎっしりと魔法式が刻まれた中、二ヶ所だけ空白の部分が存在する。
『我、願う。我が願いの元に。
全て塵から物へ。姿を変えて顕現せよ。』
ミレドが初めて呪文を唱える。魔法陣の中心に光が集まる。それと同時に欠けた二ヶ所の内、一つに文字が刻まれた。
目を瞑り、神器に想いを呼び掛ける。
(ネスク様‥‥。ネスク様‥‥ネスク様!!)
その容姿を思い浮かべて願う。
神器から魔力の糸を飛ばすような感覚。暗闇の中を突き進んでネスクを探す。
その時、暗闇の中。何かに触れたような感覚があった。
「これは‥‥‥‥鍵?」
背後の風景を写し出すように透明な鍵、その中から感じるネスクの魔力を‥‥。
「そりゃあっ!!!」
ポーアが流した魔力の糸をピンと張って釣竿を釣り上げるように引っ張り上げる。
地面から淡く光る球体が頭上に現れる。その中に先ほどの鍵が浮かんでいる。
その瞬間、残っていた空白の箇所が埋まった。
闇堕ちしそうだったミレド。
闇堕ちしたミレドはヘヴラと同格の強さへと変わりますが、破壊の衝動に刈られるようになってしまう所でした。
クーシェのビンタが効いたようです(笑)
ビンタが世界の危機を救う!