大好きになっちゃった。
今回は主に会話メインです。
上手く書けているかわかりませんが、楽しく読んで頂ければ幸いです。
「ありがとうございます、主。
では、まずネスの現状からですね。」
「あ、すみません、神木様。その前に先程から気になっていたのですが、その……『主』というの、……何とかならないでしょうか?
気軽に"ポーア"とお呼び下さい。
神木様から主と呼ばれるのは、抵抗があります……。」
まだ『主』と呼ばれるほど自分は強くない。そんな自分が神木様から主と呼ばれるのは精神が磨り減りそう。
出来れば、それ以外の呼ばれ方が良い。
「いえ、私のスタンス的には立場はしっかりきっちりとしたいのです!
もしそうお望みなのでしたら、『主』も、その"神木様"、というのやめてください。」
うーん、それは難しい。
わたくし達ドルイド族にとって、神木様は崇める存在であり、畏敬を示すべき御方である。
そんな神木様を軽々しく呼ぶのは‥‥とてつもなく不敬。でも、神木様ご自身がそう今までに言われていることだし‥‥。
「私は、気軽に『ヒサカキ』と呼ばれたいです。今まで親しくなった人は多くありません。
‥‥なので、ぜひ『ヒサカキ』と呼んで下さい!」
ヒサカキのはにかんだ微笑みが決め手になる。くよくよと悩みヒサカキの威光で縮こまっていたポーアの心を動かす。
ヒサカキのその顔は、―――昔の自分と重なったからだ。
子供の頃、ポーア自身も同世代の子供と遊びたくても遊べなかった。貴族の繋がりで寄ってくる者はいたが、気軽に名前で呼び合える程親密になる者はいなかった。
「‥‥分かりました。まだ、少し抵抗がございますので、せめて『ひー様』と呼ばせて下さい。
ですので、わたくしの事は、『ポーア』と‥‥。」
「うん!マス‥‥、じゃなかった!『ポーちゃん』!
これからも宜しくね!」
「ぽ、ぽーちゃん!?」
「そう!ポーアちゃんだからポーちゃん!
えへへ、こうやって名前を呼び合える人がいるのって素敵。‥‥改めてよろしく、ポーちゃん」
「‥‥はい!よろしくお願いします、ひー様!」
名を呼び合ったポーアとヒサカキが手を握り合う。そして、ヒサカキが嬉しそうにポーアに向かってダイブして抱き付く。ポーアも今までにされた事の無い激しいスキンシップに戸惑いながらも嫌がる仕草は無い。
逆に心地良さそうに自然と口元が緩む。
二人の繋がりが、より強く、より固く結ばれた。
****
「それじゃ!ネスについてだね。ぽーちゃん」
「はい、その前に確認なのですが、ネスク様はミレド様の攻撃で消滅しました、よね?‥‥塵も残らない程粉々に、わたくし達の目の前で。あの状態で生きているとは到底思えないのですが‥‥。」
「うん、確かに肉体その物はポーちゃん達の目の前で消滅したよ。」
(やはりアレは幻覚でも、幻でも、何でも無かったのですね……。)
「でも、精神は、たぶん何だけど……、
まだこの世界に残っていると思う。」
現実であった事に考え込んでいたポーアの後頭部に打撃が落ちたかのような衝撃を走る。
肉体は、『消滅』。だけど、精神が『残存』?
どういう事なのだろう?
打ち解けた二人が真っ白な地面に腰を落ち着けて本題に入った。右腕に体重を預けたヒサカキが話した内容にポーアが首を傾げる。
「‥‥精神、ですか?」
ヒサカキの顔を見上げる形で見る。(口調が友人に話すような口調になった)ヒサカキがポーアの疑問を意図したように話し出す。
「ポーちゃんは、『蘇生魔法』って知ってる?」
「は、はい。文献で読んだ位ですが、
‥‥確か、死んだ人間を蘇させる秘術。伝説上、お伽噺話に存在する魔法。現在の魔法には存在せず、実現不可能とされる魔法、ですよね?」
「うん、よく覚えているね。良い子良い子!
勤勉な子は私、大好き!」
ヒサカキがポーアの頭を優しく撫でる。今まで一人ぼっちだった事も加味して、どうも、ヒサカキはスキンシップを取りたいようだ。
ネスク様に頭を撫でられるクーシェ様の気持ちが何か分かった気がする。親しくなった人に頭を撫でられるのは、何と言いますか‥‥。心の奥底が暖かくなるといいますか‥‥。
頭を撫でられる事に満更でも無いポーアは、そのまま続ける。(頭を撫でられるのは、子供の時以来で、少し恥ずかしい為、うつむき気味。)
「あ、あの‥‥、その話と、ネスク様と何か関係があるのでしょうか?」
「うーんとね。何から話そうかな‥‥。
‥‥そうだね、まず、人間の間では確かに『蘇生魔法』は不可能とされてるの‥‥だけど、私『神器』とでは少し違うというかな‥‥。」
ポーアは謎めいたヒサカキの言い回しにますます首を傾げる。既に頭の中は混沌と化している。
「えー、え?、どういう事ですか?ひー様」
!!!
「ポーちゃん、もう一回!もう一回言って!!」
ヒサカキがポーアに詰め寄る。そして、真剣な表情で言う。
「ひ、ひー様?」
「ひゃー!可愛い!嬉しい!ひゃー!!」
自分の名前を呼ばれた事でテンションが上がるに上がったヒサカキの光の羽衣蔓から上空に、
ぱあーんっ!と何か打ち上げた。
すると、上がった何かが上空で弾けた。
空から花びらが舞う。
赤、黄、青と様々な花びらが上空がひらひらと舞い落ちる。ポーアは口をあんぐりと開けたまま、固まった。
「あ、ごめんね。ポーちゃん。つい、嬉しくって…。」
小さな声で「いけない」と言ったヒサカキが頬を軽く掻く。
「い、いえ、驚きました。まさか、ひー様がこのような芸が出来るとは思いませんでした。」
硬直から解放されたポーアが頭を下げようとするヒサカキを止める。だがヒサカキの芸のお陰で混沌になっていた頭の中が吹っ切れた。
「話を戻すね。ポーちゃん」
「は、はい。お願いします。」
「『蘇生魔法』に必要な物は大きく分けて二つ。
一つ、『肉体<コルプス>』。
二つ、『精神<メンス>』。
この二つがあれば可能なの。」
「‥‥『精神<コルプス>』?」
「人で言う所の、『魂<アニマ>』。
人の持つ魔力密集体で『器』ともいうのかな。
人間は、肉体、魔力、霊体で構築されているの。
つまり、『蘇生魔法』には肉体と、あと、魔力と霊体を兼ね備えている『精神<メンス>』があれば出来るの。」
「‥‥成る程、理解しました。」
簡潔にまとめてくれたお陰か頭が追い付いて理解出来た。
「ふふふっ、前にお姉様から聞いた面白い話なんだけど、人って命を落とすと‥‥、
肉体と精神が離れてしまうんだって。
あ、心配しないで、ネスは大丈夫な筈だよ!」
ポーアの青ざめた表情になったため慌ててヒサカキが慰める。
「‥‥ごめんね、今この話は不謹慎だったね。
だけど、ネスはまだ救い出せる。」
「あ、あの。その根拠は、どうしてなのですか?」
ヒサカキが大の字に寝っ転がり何処か懐かしいような表情をする。
「‥‥私達『神器』は、ソフィアお姉様と深い所で繋がっているだよ。それこそ、魂同士というのかな。
‥‥だから、分かるの。ネスは、暴走を始めた時に『精神<メンス>』その物をソフィアお姉様が禁書庫内に囲い込んだの。ネスが獣へと変わってしまわないように、ね。
『神器』は、『主』に力を与え、また、時には主を守るの。」
「では、ひー様も?」
「うん、私はぽーちゃんが大好きになっちゃった。ぽーちゃんが主で良かったと思う。」
今度は、向日葵のような優しく明るい笑顔。
この笑顔でわたくし自身救われたような気がする。
「私とお姉様は繋がっているから私を通して、ポーちゃんが禁書庫へ呼び掛ければネスの精神に繋がる筈だよ。」
「そうなんですか?」
「うん‥‥、神器を発動させる時みたいに強い意思を送り込むの、ポーちゃん以外の所へ。
あとは、前に送った"秘術"を使って‥‥、
ちょちょちょいっと、ね!」
ヒュドラ戦では使わなかった秘術が一つある。その魔法は未完成なのか魔方陣自体は分かる。
でも、条件が足りないせいで結局、使わなかった。
おそらくヒサカキが言っているのはこの魔法の事だろう。
「‥‥そろそろ戻るの?」
「はい‥‥、ネスク様を早く救い出したいですし。あ、でもネスク様の肉体はもう‥‥。」
「壊した本人にお願いしてみて!
ミレドは『蘇生魔法』まではいかないけど、肉体だけなら、治せる筈だよ。」
「何から何までありがとうございます。
また、いずれ改めて‥‥。」
「あ、近い内にネスがお姉様に合わせてくれる約束してあるからその時、一緒にどう?」
「わたくしなどでよろしければ‥‥。」
「ポーちゃんなどじゃないよ!ポーちゃんだから良いんだよ!‥‥それじゃね!」
チャンネルが切れるようにプツリとポーアの意識が白い世界から現実へと移行した。
呼び名の言い合い。ネスクとソフィアもありましたね。さすがは姉妹。
聞いていなくても、何処か似かようのですね。
それと、ソフィアが白兎をイメージするのであれば、ヒサカキは『子犬』!!
元気一杯!そして、人懐っこい。
久しぶりにシリアスな話ではなく、楽しげな話を描けて作者は満足!(あ、これでおしまいではないですよ(笑))
次回、『蘇生魔法(仮)』ですね。