Qui relicto−残された者−
タイトルを視点を変えて英語にして見ました。
時系列的にミレドがネスクを消し去った直後に当たります。二人が死闘を繰り広げる間に二人の魔法でいろいろと地上ではその余波が来ていました。
ミレドが下へ弾いたネスクの黒雷が降り注いだり、ミレドの放った咆哮<ブレス>が降ってきたりとそれはもう、災害にも匹敵する荒れ具合。
クーシェやポーアは自身の魔法を使い防いでいましたが、一般人にしてみれば、災害以外の何物でもないですね。(苦笑)
長文ですいません。では、本編スタート!
「あ‥‥‥‥ああ‥‥ネスク、様‥‥。」
言葉にならない声がポーアの口から漏れ出た。
一際大きな光がミレド様の口から放たれたのを最後に。雷獣となったネスク様が消失した。
その瞬間悟る。
ネスク様が死んだことを‥‥。
◇◆◇◆◇◆
二人の死闘で雲が裂けて隠れていた満月が姿を表した。ストンとポーアが地面に座り込む。地面に付いた手の甲にポタポタと涙が落ちる。
大事な人をまた、亡くした。
『アオ――ッン!!!』
悲しみを帯びた遠吠えをクーシェが森中に響く。同時に、三本の炎の尻尾が大きく膨れ上がり火力が増す。
時間とはいつも残酷だ。
心が温かくなる日常をいとも簡単に奪い去って行く…。
今は胸の辺りが引き裂けるように痛い。
……………そして、寒い。
夏だというのに真冬の雪の中にいるように感じる。
「うううっ‥‥。」
右手に掴んでいた錫杖の形になっていた神器<盾>が宝石の形のペンダントへと戻った。
宝石の中の緑色が淀んだ緑へと変わる。
森ざわざわと風が吹いたかのようにざわめき森中が騒ぐ。まるで今のポーアの心の中が具現化したかのように。
ざわざわ、ざわざわ
青葉が理由もなく枝から千切れ離れた後、ポーアの周りをくるくると回る。ポーアの緑の髪がふわっと持ち上がって行く。
「暴走?です、か。
‥‥‥‥ダメです!!ポーア様!
気をしっかり持って下さい!!ポーア様!!」
膨れ上がった三本の尻尾で暴走しかけるポーアを止めに入ろうとするが、何処からか伸びて来た蔓植物に阻まれる。
「ぐっ、ポーア様!ポーア様!!」
クーシェの叫びにポーアは無反応。感情のメーターが完全にマイナス方面へと振り切っている。
今のポーアには、獣となったネスク同様何を言っても聞こえない。
ポーアの感情に比例して膨張した魔力がポーアの中で渦のようになっている。小さな出来事をきっかけに今にも爆発を起こしかねない危険な状態だ。
「ああ、ああああ!」
わたくしのせいだ。
わたくしがネスク様を内輪揉めに捲き込んだから。わたくしのせいだ。わたくしの。わたくしの。わたくしの。わたくしの。わたくしの。わたくし。わたくしの‥‥‥‥。
わ た く し の せ い だ 。
カチッという音の後、ポーアを中心に魔力の波が溢れ出す。このままではポーアの心も体も魔力の爆発と共に粉々に砕け散ってしまう。
爆発まであと一歩。という時、
『落ち着いて、ご主人‥‥。』
ヒサカキの声がポーアの頭に響く。
そして、地面から光輝く蔓のように細長い物体がポーアに絡み付く。渦巻いていた魔力の渦がその謎物体に魔力を吸い上げられ収まっていく。
『‥‥落ち着いたらあの"場所"に来て下さい。待っていますから。
‥‥まだ、諦めないで下さい。ネスは生きている、と思います。
たぶん?
あ、それから、ご主人の大切な人を心配させちゃ、めっ!です。』
初めてあった時のように、温かく優しい声。
最後に叱られたが、そこでプツンと切れた。
光の謎物体も吸い上げた後、いつの間に消え去っている。
「ネスク、様が生きている?」
ヒサカキのお陰でマイナスへと振り切ったメーターが元に戻って言われた事を言い返す。
頭の中ではまだ混乱している。
確かにミレド様が雷獣となったネスク様を消し飛ばした光景をついさっき見た。
あれば幻?いえ、あれは現実です。光の眩しさも空から黒雷が降ってきた際の衝撃も本物でした。なら、一体どういうことなのでしょうか。
「‥‥ア‥‥ま、‥‥ーア、さま!
―――― ポーア様!! 」
頭が揺さぶられて思考の世界へと旅立っていた頭が元の現実へと戻って来た。
炎の獣へとなっていたクーシェが人の姿になって、目の前で肩を両手で掴んでいた。
「クーシェ様、わたくし‥‥わたくし!」
ざわざわと樹が揺らめいていた音が止み、静寂な夜が訪れた。
「良かったです!ポーア様までいなくなってしまったら、私もどうかなってしまいそうでした!!」
「クーシェ様‥‥‥‥?」
クーシェに勢いよく、抱き付かれその勢いで後ろへと倒れた。
草が生い茂っているため背中は痛くはない。けど、ぽっかりと穴が空いたように心が痛い。
ああ、そうだ。
大切な人は、‥‥‥‥まだいる。
クーシェ様に、ミレド様。そして、兄様、グラス、それにドルイドの皆。
わたくしは一人じゃない!
だけど、大切な人がもう一人。
あの方が居なくてはわたくしの、
この胸の痛みは癒えない。
「‥‥‥‥ごめんなさい、クーシェ様。
そして‥‥‥‥ありがとうございます。」
抱き付かれたクーシェを抱き返しそこで目を瞑る。
「‥‥‥‥落ち着いたようですね、持ち主。ネスが魔力の暴走を起こして、現状、初めての共感者でしたので、その影響を諸に受けていないか、様子を見ていて良かったです。」
「‥‥先程は暴走を止めていただきありがとうございました、神木様。」
再び精神世界、真っ白な世界へと、目を開けると変わっていた。そして、声のした背後に向くと、声の主が立っている。
ウェーブの掛かった長髪にちょこんと一本だけ立ち上がり、自分と同じ若葉色の瞳が印象的な少女。
前回と変わらない状況下で二つだけ変わった事がある。神木様、ヒサカキ様の服装が変化した。
白い服装のドレスのような服装から神器を発動させた時の服装に似た長めのロングスカートの紫色に変化していた。そして、ヒサカキの背後からあの金色の植物が生えている。
羽衣蔓のような金色の植物は、彼女に付き従い空中に揺蕩う。
ヒサカキが首を横に振る。
「私はあれくらいしか、できません。ネスを助ける事も姉様を救う事も出来ません。
‥‥‥‥今からネスを救い出せる可能の話をします。持ち主いえ、もう『主』ですね。
ネスを助け出せるのは、主だけです!」
「わたくしだけ?
ミレド様やクーシェ様ではなく‥‥?」
「はい。主だけです。
他の方より精神の繋がりが一番強いのは現状主、貴方一人だけです。
‥‥どうかネスを。
ソフィア姉様を、‥‥助けて下さい」
ヒサカキが静かに告げる。泣き出しそうな瞳を我慢して、ヒサカキの瞳はポーアに希望の光を懐かせる。彼女の言葉を聞き、彼女の目を見て、ポーアは覚悟を決めた。
何が何でも救い出してみると。
禁忌とされる魔法を惜しげも無くクロを足止めしてくれたネスクのように。
あの足止めがなければ此処までたどり着く事は出来なかった。何処かでクロの襲撃にあい、それでおしまい。
救世主であるネスク様を救い出す。
その一点のみ。
「‥‥必ず救い出します。ネスク様も、ソフィアお姉様?(知らないけど、)も‥‥。
ネスク様が居てこそ真のハッピーエンドです!
わたくし、こう見えてお伽噺話のバッドエンドは大嫌いです!」
さて、次回はポーアの精神世界でネスクの生死に関する重大な話です。
また、神器とソフィアの秘密も多少含まれています。