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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2章 亜人連合国騒乱編
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守りたい存在

三日ぶりの更新になります。

前より書けるペースが落ちていると実感していますが、書ける時には書いて行きます。


  木の合間を抜けて強力な電流が地面に走る。


「ぐっ。」


  頭上から振り下ろされたネスクの刀を受け止めた瞬間、地面に亀裂が入り、電気でクロの体が痺れた。

  苦痛な声を漏らしたがしっかりと受け切ったクロの剣から紫色の炎が溢れ出して、ネスクの雷を削ぐ。ネスクが後方へ退くと、クロが自身を影と一体化にして潜り込みネスクの背後から現れる。

  踵の裏側を蹴り飛ばしそのままネスクの首元に剣を突き刺そうと業火を纏った炎で突く。


「なっ!?」


  確実に()れる筈の突き。―――であったにも関わらず、突いた先にネスクの姿はない。


「【深淵へと誘う霧(アビス・ミスト)】」


  突如、濃霧が辺りを覆う。


  濃霧に混じった殺気を感じ取り紫炎を纏った剣を振るう。しかし、ネスクの残像を引き裂いただけで手応えが無い。その上、魔力を()()するこの霧の影響で先程より、炎の威力が弱い。


「【落雷(ボルト・ダウン)】」


  バチッと雷に打たれた衝撃が体を支配する。体が痺れて上手く動けない。


「【加速(ブースト)】、【身体強化(ストレンジ)】」


  目で追えない剣撃が痺れて動けないクロに襲い掛かる。致命傷は、上手く避けているが速く鋭い攻撃で小さな傷が増えていく。


「なめるなっ!【心臓を穿つ槍(スピア・イスキオス)】」


  仮面の奥の瞳が赤く光った後、攻撃を加えていたネスクの体に鎖に繋がった杭が突き刺さる。

 そして、連続して心臓に向かって同じような杭があらゆる方向から迫る。

  雷を纏った刀で鎖を引き裂いていくが、数で押される。



『致命傷を確認。<第一禁扉>、第五六六、【過去投影】を再度起動。』


  禁書庫からのアナウンスの後、刺さっていた杭が雷で塵となるまで焼かれる。そして、淡く光ると、心臓が何もなかったように、再びその動きを再開させる。


全てを元通りに反映させた後光が収束した。


「‥‥‥‥【朧月・瞬雷】」


  【絶ノ雷獣ヴェロンティ・ティリオ・アポシア】で作り出された電磁フィールドに、【朧月・瞬雷】の電流が流れて生み出された杭を全て塵へと帰す。


「化け物がっ!!なら、その魔力ごと、全て!!

使い切るで付き合ってやる!!」


  クロの周りの影が膨張。そして、そこから先程と同じ鎖に繋がれた杭が生成される。その数は先程の倍。倍の数となった杭が一斉に襲い掛かる。


『【絶ノ雷獣ヴェロンティ・ティリオ・アポシア】の雷の充填(チャージ)完了。

…………これより第二段階に入ります。』


  影で作り出された杭によってネスクの姿が覆い尽くされた。


 

  バチッ!!





  雷が走った後、眩しい光が放射される。


「うっ!!何だ。」


  あまりの眩しさに髑髏の仮面で覆われている筈の眼を遮る。

  光が収まった後、水気を含んだ空気が満ちる。心なしか、湯気にも似た水蒸気が空気に乗って流れる。


「‥‥‥‥おいおい。冗談じゃねぇ!!」


  バチバチと空中に火花を散らす目の前の存在に戦慄する。先程まで人間の姿をしていた人物の姿がそこにはない。代わりに別の姿へと変化していた。


  牡鹿のような立派な角に四足の足。さらに白い雷を纏い、黒い瞳がジッとこっちを見る。姿こそ人ではないが間違いない。さっきから戦っているあの男だ。


「人が獣になるとか、聞いたことねえぞ!!」


  クロは叫んでいるが、直感する。

――――あれは戦ってはいけない。

  美しい白い毛皮をしている聖獣のような目の前の存在は、見た目とは裏腹にあり得ない魔力をしている。自身の直感を疑っている訳では無い。だが、あれは駄目だ。


「【心臓を穿つ槍(スピア・イスキオス)】」

 

  影の杭をその獣へ放つ。だが、


  甲高い音の後、杭は弾かれて纏っている雷に焼かれて一瞬で塵になる。

  獣になったネスクが前足をコンと鳴らす。

 電流が地面を割り、クロへと放たれる。


「【炎影刃スキリア・ティルス・フロルガ】」


  ゆらゆらと揺らめく炎を剣にまとめて横へと薙ぐ。炎の段となって、地面を割って攻撃してくる雷とぶつかる。


  しかし、


  雷のあまりの強さに炎が呑み込まれて消滅する。


「‥‥‥‥。はっ。」


  驚きを隠せず絶句する。

 迫る雷で我を取り戻して、頭上の樹に、咄嗟で鎖を作り出して空中へと逃れる。飛んだ後のその場は雷で粉々に崩れ去った。


「【影縛りシャドウ・オブ・チェーン】」


  鎖がネスクに絡み付く。そして、魔力を吸い取りながら、動きを縛り上げる。


「くくくっ。このまま全て絞り尽くしてくれる!!」


  ネスクに向かってクロが手を翳す。すると、影の鎖が絞っていく。それと同時に吸い上げる魔力の量が増す。


  ネスクが足を折り曲げる。


「学習しない奴だな。お前はよくやった。だが、これで終わりだ。誠意を持ってくれてやる。【怨嗟の炎(ニシカキア・ヘル)】」


  纏っていた紫の炎が変化する。黒くどろどろとした炎が鎖を伝い、獣の姿となったネスクを覆い隠す。


  黒い炎に呑まれた瞬間、炎が爆発を起こす。


「なっ!」

 

  鎖に繋がれて魔力を抑えているという状況下で、ネスク、もとい獣に変化が表れる。

 炎が打ち消され、代わりに白かった雷が黒へと変貌する。そして、鎖を全て引きちぎる。


  黒い獣へとなりつつあるネスクの、その瞳には全てを憎悪する思いが詰まっている。

 




  熱い。


  虚ろな思考の中で叫びたい程に熱くて苦しい。

 頭の中に人の声のようなドス黒い念が入って来る。


 恨み事、妬み事、怒り、悲しみ、など。


  その言葉を聞くと、その想いが

 心の中に染み入って来る。


  前世の、クラスメートから言われた嫌な言葉が思い出される。


 お前は、いらない存在だ。


 お前なんか、死んでしまえ。


 お前に生きている価値はねえ。


  悲しみと同時に、怒りがわき上がる。

 怒りは、―――『力』だ。

 ヘヴラの時も、今思うと、怒りの()で勝った。

 だから、今回も……。


『確かに"怒りが力になる"という説もございます。しかし、‥‥‥‥貴方様には必要ありません。』


―――誰かの声がする。


 誰の声だろう。聞き覚えがある。だけど、思い出せない。


『‥‥‥‥思い出して下さい。貴方様が強くあろうとする理由は?』


  俺が強くあろうとした理由?

 何だっけ。


  自分を守れる力?


 いや、それだけじゃない。


 そう、『家族』を守れる力だ。


  ミレド、クーシェ、ポーア。

 それから、会って数時間だけど、

 ネモと、ペーレ。


  彼女らを守るために力を。


『禁扉』の扉を叩いたのだ………。

 

 *****


「アアアアアアッ!!」


  耳を塞ぎたくなる程の高音で獣となったネスクが叫ぶ。人間の声とは思えないその音の後に角が輝き出す。高圧の電流が空気を揺らす。



 黒光りする雷がクロへと解き放たれる。


「ぐっ。」


  何とか紫炎の剣で耐え凌ぐ。二つに分断された雷が左右に拡散する。拡散した雷は周囲の樹へと飛び散り、樹を黒い粒子に変えた。


  背中に流れる冷たい汗が止まらない。


  黒い雷の柱が無作為に、角から発せられた後に、あらゆる生命を黒い粒子に変える。


「‥‥‥‥暴走だ、な。」


  手を付けられない獣が雷を解き放ち雷を撒いて暴れ回る。緊張感が少し緩和され安堵を覚える。

  あんな化け物の魔法を全部受けていればやられていたのはこっちだった。


「そろそろ、潮時だ。」


  あのナザラとかいう男に付けていた"影"が今しがた帰って来た。

  あの男、呆気なく捕まったらしい。

 もう少し粘ってもらい利用するつもりであったが、この程度で終わるような輩なら大した事は始めから出来なかったようだ。


「期待しただけ無駄だったか。」


  誰も聞いていない独り言が思わず口から飛び出た。発現させた剣を魔力に戻して離脱する為の目眩ましの魔法を発動させる。


「【陽炎の残影カタフニア・ファンタズム】」


  自身の影が浮かび上がる。そして、紫炎が具現化し、自分と瓜二つの姿をした姿に成り変わる。


「もう合う事もなかろう。冥土の土産に"とっておき"をくれてやる。………じゃあな!!」


  姿を成した紫炎の炎が黒い獣となったネスクへ向かって走り出す。それと同時にクロが影と一体化になって消え去った。


  迫る殺意に反応して、ネスクの攻撃が一時的に殺意を放つ敵に向かって集中する。無作為に放たれていた黒い雷が角で溜まっていく。

  バチバチという火花を散らしながら黒い球体のような形に密集した雷を一気に解き放つ。


  ネスクが放った黒雷で焼かれる。


  黒雷が呑み込んだ前方から上空に一つの影が飛び上がった。その影が放射するネスクの背に股がってしっかりと定着した。


  体内の紫炎が周りの空気中の魔力を吸い上げて膨張して巨大化していく。


  そして、


 紫炎がネスクを呑み込んで燃え上がった。

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