盾の少女と龍の君、そして焔の獣 その2
前話が途中で公開になってしまったので、
今話でその続きを書きました。
「げほっ、げほっ、げほっ!」
砂を口から吐き出して体を起こす。口の中が砂利でざらざらして水で口を注ぎたい。
二つの強力な魔力による攻撃(魔物の攻撃は人が使う魔法とは異なる力)がぶつかった事でぶつかった衝撃波で周辺を吹き飛ばした。
ぶつかり合った中心地は、大きな痕跡だけが残っていた。生い茂っていた草木全てが焼けた跡、そして地面ごと抉った凹みだけがその場に残る。
「‥‥そうです!グラス!!兵士の皆さん!!」
呼び掛けても誰も返事しない。
どうやら、散り散りに吹き飛ばされたようだ。
ある程度相殺はさせた筈だから、無事………だと思いたい。
自分の向かい、およそ一〇〇メートル程離れた先にある倒れた木がゴトリと、動く。思わず音のした方を見る。もしかしたら、グラス達かもしれないからだ。
しかし、淡い期待も驚愕へと変わる。
あの筒のような武器を背に備え付けた魔物が這い出てくる。そして、再び武器を構え直して照準を合わせて魔力を溜めている。
確か叔父様から"結界崩し"と呼ばれていた魔物。あの衝撃から逃れたこの魔物、かなり硬い皮膚を備えているようだ。
「『螺旋状の盾』」
まだふらつく足取りで立ち上がって右手を翳す。光った後に、手元に錫杖の神器『螺旋状の盾』が手に戻って来る。
構え直そうと、錫杖を持ち上げるも上手く力が入らず、神器を杖代わりにして持たれ掛かってしまう。
「痛うっ!」
耳鳴りと共にズキリと頭が痛む。魔力切れが近いようだ。何とか立て直して痛む頭を抑えながら魔物を見据える。
頬を掠めて魔力のエネルギーが飛んで背後の倒れた倒木を吹き飛ばす。頬から赤い血が流れる。
もう一発撃ち込む為に、魔力を充填。
そして、完了させて撃ち出す直前である。
「『遮り』!!」
魔法を発動させる時間も無かったため、魔力を載せて言霊による発動をさせる。
コンと杖を叩くと同時に目の前に蔓がうねうねと湧いて出て網状に編んで壁となる。
壁となった直後、高熱な熱エネルギーを発しながら壁を突き破った。
「キャアア!!」
風圧で吹き飛ばされた。
地面を滑り後方に仰向けで倒れた。
背中が痛い。そして、肺の空気が全て吐き出され呼吸が出来ない。
「‥‥‥‥はあ!はあ、はあ、はあ。」
痛む体を起こすと、
もう一撃放とうと魔力を溜めている。
不味い、このままではもう魔力が‥‥‥‥。
「っ、わたくしは、こんな所で‥‥!!」
ぼろぼろの体を起こした。そして、身構える。
もう、わたくしは諦めない。
最後の最後まで、戦って皆を守り抜く。
わたくしはヒサカキ様が選んだ主。
神器は人々を守るため女神様が与えた器。
誰かを守りたい。
その強い想いこそが神器を起動させる引き金。
筒から魔力が漏れ出る。
ギュアアアッ!!
魔物が雄叫びを上げた後、砲撃が放たれた。
先程より、高熱を放ちながら魔力の塊の砲弾がポーアに迫る。
『炎よ、私の意のままに。その力を曲げて砕かせよ!!』
魔力の砲弾が炎に押し流されて垂直に曲がり、空へと打ち上げられて火花を上げて砕け散る。
目の前に、炎の尾がゆらゆらと揺らめく。
「ポーア様!!無事ですか?」
聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返るソレは、狼のような姿をとっているが間違いない。クーシェ様の声である。
「クーシェ、様?その姿は一体‥‥。」
確かに魔力も声もクーシェの物。だが、姿が大きく異なるためわからなかった。更に、狼の胸元には白く輝く光が埋め込まれている。その魔力は恐らく、ミレド様の物。
「【白炎】」
白い炎が体を包む。
何事かと、思わず身構えるも直ぐに身構えた体を解く。
傷が徐々に癒して行く。
頬にあった掠り傷が直る。そして、力が戻って来る。
「ミレド様の力の一部です!
ご気分はどうですか?ポーア。」
体を上げて体を軽く回してみる。
体が羽のように軽く今までの倦怠感や頭痛は何も無い。
「大丈夫のようです。というより、
調子が良過ぎるくらいです。」
「間に合って良かったです。さて。」
クーシェが此方へ向いていた顔を魔物に戻す。
あの魔力の塊を再度、充填し終わったか魔力が漏れ出る。
そして、高熱と共に撃ち込む。
クーシェの三本の尾が砲弾に向かって振るわれる。
「えっ?」
砲弾が三つに切り裂かれた。
そして、そのまま魔物の背負っている筒を粉々に壊した。
「後はお願いします!ミレド様!!」
クーシェが上空に向かって叫ぶ。
「うむ!クーシェ!!
よくやったのじゃ!!【鋭爪・戦槌】!!!」
魔物が上から潰されたかのようにぺちゃんこになり塵となって消え去った。
後には光り輝く大きな戦縋とそれを振るったミレド様がその姿を現す。その背には光り輝き透き通るように綺麗な翼膜が生えている。
「ポーアも無事のようじゃな!!」
ミレド様の笑顔で生きた心地が後からやって来る。安堵する気持ちで思わず体から力が抜ける。
「グラス団長達はどこですか?」
クーシェがキョロキョロと辺りを見回す。
「あやつらは‥‥‥‥、
仕事をしておるようじゃな‥‥。」
****
ぼろぼろになった衣装を諸ともせずに、血走った目付きでナザラは森の中を走っていた。
既に魔物全ての反応が消え去った事が分かっている。理由としては、作った魔物共に付けていた核となる魔石が知らない内に消え去っていた。
そして、先程、自分で作った魔物の最高傑作である"ヒュドラ"、更には"結界崩し"の反応も消え去った。こうなってはもう打つ手は無い。
撤退しかない。
「ゲフッ、ゲフ。あんな雑兵ども、儂が無事なら、また幾らでも集めれるだニ!!」
額に大粒の汗を掻いて息切れしながら足早に移動する。贅沢な食物ばかり食べた事による肥えた腹が揺れる。
「今度こそ、儂のこの手に!
グヒヒヒ、グヒヒヒヒヒヒ!!」
「おっと、そうは行きませんよ。ナザラ様!」
がさがさという音と共に茂みから声と一緒に姿を現す。
「ぐぬっ、グラス!!貴様、生きていたのか!!」
「ええ、生きてましたよ。流石に体には堪えましたがね。」
背負っていた大剣は引き摺りながら現れたグラス。その片腕から血が滴っている。
「さて、ナザラ様。いえ、ナザラ。貴方には度重なった罪の嫌疑が掛けられている。
『国家転覆』、『民への罵詈雑言』、更に『王族に対する不敬罪』。挙げれば数多で桐がねえ。
まあ、良い。要は罪人という事だ!」
「ぐぎぎぎっ、グラス!!貴様、儂を誰だと思っている!!分を弁えろ!!」
高圧的なその態度に呆れのため息を漏らす。
「もう、貴方はその様な言葉を使える立場では無くなっている。貴方は罪人。罪人はこの国では人権こそ認められているが、それでも庶民より下の格。貴族とは程遠い存在と成り果てた貴方にはこれで十分だ。」
グラスはそう言い、瞬時にナザラの腕を取って関節を決める。ナザラはその動きに着いていけず完全に関節を固められてしまう。
「痛たたた!!くそ、この放せ!!
放しやがれ!!儂に手をあげて只で済むと思うな!!その内儂の兵が来て‥‥‥‥!」
「ふん、さっきは役立たずとか言っていたくせにこういう時は他人任せ。いい加減諦めろ。
お前の兵も既に俺の部下が全員捕まえた!
無駄だ、諦めろ‥‥‥‥。」
グラスはそう言い暴れていたナザラの腕にかける力を強める。そのあまりの痛みにナザラは気を失ってしまう。