盾の少女と龍の君、そして焔の獣 その1
「なっ、わ、儂が作った『ヒュドラ』が‥‥!!」
顔が青くなり今にも倒れそうな顔をしたナザラがフラフラする。
それを背後から支える兵士。彼等もまた、あり得ないとでもいうかのように間抜けな顔をしている。
消滅したヒュドラの体から出て来た禍々しく淀んだ結晶体"神木様の根"のみが空中に浮かぶ。これを浄化するのは、ヒサカキ様に選ばれた主、すなわち『巫女』であるわたくしの役目。
神器『螺旋状の盾』の錫杖でコンコンと地面を叩く。地面に浄化魔法【нЖρξЖтй・λσπБВ(プラタヌス・オリエンス)】の魔法陣が目で見える程はっきりと光り輝く。そこへ一回錫を鳴らす。
魔法陣がガラスのように粉々に砕けて割れた。
魔法陣の破片が光の粒子となって飛び散る中、魔力を錫杖に込める。
吸い上げた錫杖に付いた宝玉が再び淡く光る。
神木様から教えていただいた魔法陣、そして、魔法陣から生み出されるドルイドの秘術をイメージして解き放つ。
『нВйλЫΦΟΛщнже.йΞπёЫΞЖ‥‥。
ЮΨЮеΦЗЖМФЙЪЫзвЯН.ЯЙ.ΨΞне∬λЮнтФ。
(我等は神樹たる根源から生まれ出る。
種から芽へ、芽から木へ‥‥。
我等は元は同じ根源。森羅万象、全ての事柄において源へと還る。)』
呪文を唱えると更に光が増す。
ポーアを中心に光が空気中にある光の粒子に反射して輝き、美しい光景を生み出す。
「お前ら!!押せ!!姫様が作って下さった流れだ!!!このまま、制圧するぞ!!!」
「「「「おおおおっ!!!」」」
『ファランス』、グラスの指揮の元、
槍のような突撃特化の陣形を取って敵兵を蹴散らして突破する。
対する敵兵は『ヒュドラ』が消滅した事が影響してか、動きが鈍く陣形を整えられない間にファランスで防御を突破していく。
魔法のシールドで何とか持ち直そうと試みるも、グラスの底の見えない馬鹿力で粉々にぶち抜かれる。
「き、貴様ら!!何をもたついておるだニ!!さっさと立つだニ、このノロマどもが!!!」
青ざめた顔が赤くなる。表情の変化に堪えないナザラが兵へ怒鳴るが、怒鳴ったくらいでこの戦況は変わらない。
悪化した戦況にナザラがうねる。
「ぐぐぐっ、こうなれば‥‥‥‥!!!
亀のような貴様ら諸ともだニ!!!」
ナザラが叫ぶ。
「ФюВнЫЙЫ∬тΣΨπΞВёйВ(我らの源は神木たるヒサカキ。彼の者の元へと還りて戻れ)
【∝ξФЙ・ЁЖσΞюрБ(ゲルベル・メリス)】」
ポーアの『羽衣蔦』が黒く淀んだ神木の根に巻き付く。
純白の白い花を咲かせた『羽衣蔦』から緑色に光る粒子が飛ぶ。そして、錫杖を掲げる。
掲げた錫杖と呼応するように眩しく光る魔方陣。
その光が収まった後、光っていた魔方陣が消えていた。
そして、伸びて巻き付いた『羽衣蔦』が取れた時、元の琥珀色の『神木様の根』へと姿を変えていた。
どうやら、成功したようだ。
ヒサカキ様は、あらゆる物を浄化させる力を持つとされている。毒のような人体を蝕むような類いの物は消し去ることが出来ないが、
『呪い』や『穢れ』といった類いは可能。
神器<盾>を通して、淀んだ『神木様の根』の魔力をヒサカキ様へと送り戻し、穢れた魔力ごと新たな魔力と差し替えたという事だ。
空中から降りて来た『神木様の根』を受け取りながら、頭がクラっと、一瞬だけ暗転した。
魔力を使い過ぎたようだ。
「っ!?盾、『展開』!!!」
咄嗟に『羽衣蔦』を展開する。
衝撃と共に高熱の砲弾が襲い掛かる。
肌を焼くヒリヒリした感覚。
そして、皮膚が裂けて血が出る。
「ぐっ!!」
痛みを堪えて魔法を維持する。
盾による『羽衣蔦』のシールドが高熱によって砕け散った。何とか防ぐ事は出来たが、流石にニ発目を防ぎ切る余裕は今の自分には無い。
地面を焦がした先にソレがいる。
背に大きな筒を取り付けられた魔物。筒の先から煙を上げて此方に向いている。
「グヒヒヒ、これで終わりだニ!!
そんなにたかが平民のためというだニなら、民諸とも焼けてしまえ!!!
‥‥‥‥やれ、『結界崩し』だニ!」
ナザラの命令でその魔物の筒の中に高魔力のエネルギーがチャージされる。再び、あの砲弾を撃つつもりだ。
一発目の魔力より、高エネルギーのニ発目の軌道線上には、グラス、兵士の皆、そして、味方である筈の敵兵が含まれている。
「させません!!!」
出血した傷口を『羽衣蔦』で咲いている花の花粉を使うことで止血してから地面にコンと叩く。
「【ёЫЙЁЯξ・∬ΨЖЁЗσΠ(ヘリアンテス・デュオソング)】!!!」
大きな背の巨大な向日葵の花が地面から生まれる。向日葵の花が二本。
咲いたと同時に魔力の充填を始めて集め終わる。
魔物の筒から砲弾を解き放つ。
「【砲火】」
ポーアの声と共に向日葵から二つの光線が放たれる。螺旋に描き二つの光線が一つに混ざる。
一つとなった向日葵の花による光線が魔物の光線とぶつかる。