二頭蛇〈ツイン・ヘッド〉
書き終えたため、更新します。
「大事ありませんか?グラス。」
後方を見ると、姫様とトーバ、あとトーバに頼まれたのであろう二人がいた。どうやら姫様がいるテント付近まで飛ばされたようだ。
「はい、問題、ありません‥‥しかし――」
何が起きた?
理由も分からず吹き飛ばされた。
あの攻撃は間違いなく死に至らせる程の威力であった。モコモコした物から這い出て起き上がる。
未だに攻撃を受けた両手が痺れている。
その時、
吹き飛ばされた方で異変が起きる。木々が倒れる音、その後からテントが崩れる。
ブンッ!!
宙を切ったような音の後にはテ巻き起こる砂煙。そして、倒れたテント付近にいた兵士達、数名が吹き飛ばされる。
砂煙の中、それは現れる。
二つの首が別々に分かたれ、紫の鱗が怪しく光る。大蛇を思わせる強靭な尾が持ち上げ地面に下ろされる毎に地を揺らす。
「『二頭蛇』か?
‥‥‥‥にしてはでけぇな、おいっ。」
頭が二つあることから『二頭蛇』と呼ばれるこの蛇。通常サイズは人の腕ぐらいの大きさなのだが、目の前のこの蛇は優に5メートルを越えている。
「駄目ですっ!!皆様離れて下さい!!」
ポーアの声に振り返った直後大蛇の国から紫の液体が放出される。
「くっ!!」
剣を振りかぶり出遅れながらも、二つ頭の大蛇目掛けて大きく踏み込み、ジャンプ。
地面に巨大な刀身の愛刀を叩く。
地面が割れて土砂となって紫の液体を防ぐ。
だが、威力と速度を弱めただけで攻撃の進行は留まらない。
「『神器<盾>の名において、命じます。―――――――【護れ】』」
ポーアの体が淡い緑の光に包まれる。そして、前方に向かって右手を翳す。
土の中から芽が生える。目から葉が増え、枝を生やす。急速な成長を遂げて、周りの樹と大差ない二つの大樹となって蛇の攻撃を防ぐ。
「行きなさい、グラス!!」
「はいっ!!お任せをっ!!」
大剣を持ち上げて構える。ビリビリと体が痺れる。この場にいる部下の力の分が上乗せされていく。部下は総勢五十八名。
『倍加の型』は敵と定めた"人間"にのみ有効な型。魔物などの人間とは異なるモノに使用しても効果はない。
理由は分かっていないが、魔物などは人間と違い、魔力の流れが異なる事が原因なのではという話だ。
「はああっ!!」
五十八人分の力を受けて地面を蹴り上げる。勢い余って空中へと高くジャンプしてしまう。
今ここには"人間"として定められる敵はいない。ならば、どうするか。答えは‥‥‥‥
「味方を敵と思えば良いだけだ!!!」
自分の意志に従うように、型が応えてくれる。
魔力を足に込めてジェットのように足から放出する。勢いで水平を切り『二頭蛇』目掛けて自由落下していく。
『二頭蛇』が空中のこちらに気付いて再びの紫の液体を口から発射する。
「この距離なら‥‥‥‥!」
重力に堪えながら鎖に繋がれた愛刀を投げ付ける。発射された液体を二つに割りながら剣が蛇の頭を捉える。
遠心力に加え、重力加速が加わった事で蛇の強固な鱗を易々と引き裂く。
「うおりゃああああっ!!!」
更に足の裏に魔力を込めて噴出する。
地面に落下した後の事は考えず、今はひたすら全力を尽くす。剣に繋がれた鎖を引きピンと張る。
そして軌道修正を施しながら、剣の柄目掛けて落下する。
剣の刺さった頭とは別の頭が再び、グラス目掛けて液体を飛ばそうとする。
『彼の者を束縛し、我らの結束となりて、
その力を示せ。【束縛するは我らの力】』
発射しようとする口を外から刺が無数にある植物ががっちりと縛り上げる。
トーバと数名の兵士の魔法が蛇の口を縛り上げて口を開かせない。『二頭蛇』は噛む力こそ強いが、逆に口を開けようとする力が弱い。
「良いぞっ!!お前ら!!
後で抱き締めてやる!!」
グラスが空中で大声で叫ぶ。
「団長!!舌噛んで死なないで下さいよっ!」
「‥‥ハグは遠慮させて頂きます!!」
「‥‥俺も!団長のハグとか要らないです!」
「どうせなら若い女の子が良いです!!」
グラスは青い顔をしながら、答える部下に呆れる。だが、思う。こんな部下を持てた事に感謝を。
「さっさと、‥‥くたばり、やがれ!!!」
蛇の頭の上で空中一回転して、足に力を込めて刺さった剣の柄を思いっきり蹴り込む。剣が頭を貫きながら、縦に分断させる。
蹴り込んだ勢いを利用して空中で数回回転して地面に着地する。四つん這いの姿勢で着地した事である程度は地面への力が弱くなりそれ程体にダメージは無い。
「【Й∫ΣЁ∬фΞΨ(バルサミナ)】」
残っていた縛られた頭が爆ぜる。
そして、跡形も無く吹き飛ばされ残された胴体が地面に沈む。
「危ねえな、姫様!!」
この魔法はドルイドの秘術【Й∫ΣЁ∬фΞΨ(バルサミナ)】。代々王家であるポーア様の血筋が受け継いで来た太古からの魔法。
その威力は凄まじく人が喰らえば跡形も無く吹き飛ぶ程である。
「大丈夫です。グラスなら‥‥!!」
地面に突き刺さった剣を引き抜きながら、振り返る。そこには屈託の無い良い笑顔を浮かべた姫様がいた。
(姫様よ。‥‥‥‥その自信は一体何処からくるんだよ‥‥。)
内心ツッコミを入れながら剣を確認する。
汚れた剣の血を拭き取り、刃零れをしていないか確認した後、背中に背負い込む。
****
「お前ら、無事か?」
魔法を使ったトーバ達の元へと行く。
そこには、青ざめながら地面に腰掛けるトーバ達がいた。
「‥‥‥‥ええ、何とか。」
青い顔でトーバが答える。元々、魔力量が少ない上に消耗の大きな【束縛するは我らの力】を使ったのだ。
無理もない。
「お前らは少し休憩だ。休憩しながら、テントも見張ってろ……。」
そう言い倒した『二頭蛇』の元に行こうとするが、足を止める。
「‥‥‥‥よくやった。」
トーバ達に労いの言葉をぼそりと口にした後、足早に去って行った。
後には、ポカーンとした青ざめた顔のトーバ達が残された。
*****
「どうですか?」
襲撃で傷を負った兵士の治療をして行く。
軽傷が数名、骨折などの重傷が二人。
‥‥‥‥亡くなった人が二人。
「ありがとうございます!!姫様!!」
「いえ、‥‥これくらい
‥‥大した事でもありません。」
二人の遺体が目線の先に安置されている。それを見て心が苦しくなる。
「おう、姫様。終わりましたか?」
背後へと視線を向けると、いつの間にかグラスが戻って来ていた。
「はい、終わりました。」
そう報告した物の目線を外して再び遺体を見てしまう。ポーアの目線の先でグラスも分かってしまう。
「あー、気にするなとは言いませんが、その気持ちは今はとっておいて下さい。ここは戦場です。何時、又、何が起きるか分かりませんから。」
「‥‥分かっています。今は成すべき為に行動しなければならない、と‥‥。
彼らの思いを"成就"させる事が一番の供養に繋がるという事も‥‥。」
ケガ人を他の兵士の者に任せて立ち上がる。
(彼らの思いはわたくしが持っていく。)
体に宿した神器がその思いに答えるように淡く光る。
その時、
魔力の反応に何かが引っ掛かる。
魔力のあった方角へと振り向く。
その方角は森のある方角。どんどん反応が近づいて来る。
「‥‥姫様。」
「‥‥‥‥わかっております。」
グラスが背後に指示のサインを送る。
陣形を取り、槍を構えた兵士が前方へ。
剣を構えた兵士がその後ろへと組み、いつでも剣を抜けるように臨戦態勢を取る。
更に後方に杖を携えた魔法担当の兵士が杖を持ち上げる。
「団長、来ます!!」
索敵部隊の一人の声と共に木々を薙ぎ倒して現れる。先程と同じ二頭蛇が。‥‥‥‥それも二体。
二体の頭が四つ。舌がチョロチョロと忙しなく動く。
二体の蛇が現れた後方。さらにもう一匹いる。だが、その一匹は他と異なる。
シャアアアッ!!!!!
後方の巨大な蛇が吠えた後に、二匹の『二頭蛇』がその蛇に丸呑みにされる。そして、近くに転がっていた先程倒したばかりの『二頭蛇』の胴体も喰らう。
「なっ!!」
その光景に思わず、声が出る。
五つの頭が九つに増える。
「『ヒュドラ』だ、とっ!?」
増えた蛇の頭が九つがこちらを見る。
ギラギラと輝く鱗が倒された大樹で隠されていた夕日を浴びて光る。そして、十八の眼が隙を窺うように怪しく光る。
「グヒヒヒッ!ようやく、だ二。これでやっと、完成だ二。グヒヒヒッ、グヒヒヒ。」
ヒュドラの元から男と数名の兵士が表れる。
おかしな笑いをして、でっぷりとした肥えた腹がその存在感を強調させる。
ヒュドラは、ワイトキング同様。その男には目もくれずに此方だけを見つめる。
「ナザラ、!!!」
「‥‥‥‥‥‥叔父様!!」
その人物こそ、今回の主犯であり、元凶。
その男が姿を現した。
「グヒヒヒッ、久しいだ二な。あの汚らわしい血が混ざった女の娘。儂の姪、ポーア!!」
団長の無双回でした。
流石は、団長。出て来た二頭蛇の内、一頭が一発でやられてしまいました。
そして、ポーア様。笑顔で蛇の頭を爆散とか、怖すぎて引いてしまうレベルに強い。