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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2章 亜人連合国騒乱編
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無人の拠点の罠

<ポーア>


  遠くで起きた爆発音がこちらまで鳴り響く。その余波として―――地面が揺れた。

  心の中で皆の心配がじんわりと拡がり不安で仕方がない。


「‥‥‥‥いけません。」


  引き返したくなる思いを振り払い、再び走り出す。先行したグラス団長の部隊に追い付く為に急ぐ。わたくしの身を案じてグラス団長やその部下の者達が敵情視察も兼ねてそうしたのだ。


  『神器<盾>』を展開している為。

―――自分の身は自分で守れる。



 グルルルアッ!!


  藪から蛇、ではなく、藪から魔物が飛び出して来て喉を喰い千切ろうと歯を剥き出して襲いかかる。


   意志を持って念じる。


(‥‥‥‥『縛れ』)


  木々に巻き付いた分厚い蔦植物が魔物の両手両足を絡め取り、空中で縛り上げる。


  魔物は、もがくが空中で縛り上げたため、打つ手なしのようだ。陸に引き上げられた魚のように暴れているが意味がない。


 そして、再度、


(‥‥‥‥『()()』。)


  次は、殺意を込めて念じる。地面が盛り上がり土の中から細長い大量の牙を持った植物がその魔物を丸呑みにした後、再び地面へと潜っていった。


 虫花<ワーム・フラワー>

  花でありながら、地中深くで生息するドルイドの森で危険な植物。自身の細胞で作り出した花を地上に咲かせ、その傍を通りかかった生物を地中から襲い丸呑みにする。


  北の森には数多くの肉食植物が生息する。虫花(ワーム・フラワー)もその一つ。自然の作り出した脅威の砦であり、最優な砦。彼らは人を拒み、また、出ていく者は出させない。神木様の力によってポーアは今、非常に植物との調和性が高い。自然の猛威が彼女に味方をする。


  地面から飛び出た虫花(ワーム・フラワー)は近くにいる筈のわたくしには見向きもせずに地面に潜り込んでいった。


  再び、辺りに静けさが立ち込める。

 他の魔物の気配も感じられない。どうやら、あの一体だけだったようだ。


「姫様!!!」


  がっちりとした体躯には似合わない騎士の鎧を身に付けたグラス団長が額に汗を滲ませながら、戻って来た。


「グラス団長……、わたくしはこの通り無事です。先を急ぎましょう……。」


  服に付いた砂埃を払いのけて再び歩き出す。


「姫様をお一人にしてしまい申し訳ありませんでした。部下を数名は残しておくべきでした……。」


「わたくしの身は自分で守れます。それより、叔父様は見つかりましたか?」


「いえ、‥‥‥‥まだ。

 しかし、敵の本拠点は既に掌握しております。といっても、藻抜けの殻ですが……。」


「‥‥‥‥案内して下さい、グラス。」


  きりっとした瞳でグラスを見つめる。

  『お嬢様モード』に入ったため、団長は呼び捨てにする。自国とはいえ、どこに目があるかわからないため、立場上的に自然とこういう風になる。もちろん、フリーな時はもっと砕けた喋りにはなる。

  グラスが右手を軽く握って左腕に置き、お辞儀をする。そして、左回りに回り走り出す。その後ろを付いていく。




  グラスの言う通り、既に敵の拠点には、誰もいない。駐屯している筈の敵兵達は影も形も無い。焚き火をした形跡から先程までは此処にいたのは確かだ。

まだ、焚き火跡に熱が篭っている。


「‥‥‥‥荷物を持って退いた形跡も見当たりません。」


  グラスの言う通り、魔道具や備蓄してある剣などの武器も立て掛けたまま残されている。退いたにしては疑問点が多く残る。


「グラス団長‥‥‥‥、こちらへ。」


  この状況を考察していると、一人の兵士がグラス団長を呼びにやって来た。グラスは、アイコンタクトを一回した後、その兵士の後ろを付いて行く。二人の後を追うように付いていく。


「‥‥‥‥これはっ!!」


  付いて行くと、とあるテントの一つに辿り着いた。

 そして、入口から中を覗き込んだグラスが中の光景を見た瞬間に顔を歪めて怒りに似た声を上げる。


  一体中には何が?


  大柄なグラス団長の背で見えない為、

 そーっと顔を覗かせようとするも、グラスに手で制止させられる。


「姫様は見ない方が良い‥‥。」


  歪んだグラスの顔に悲壮感が滲み出た表情をしている。それを見て自分も覚悟を決める。


「‥‥覚悟しています。中を拝見させて下さい。」

  グラスの瞳を逸らさずまっすぐに答える。


 しばらく、見つめ合った後、


 グラスが髪の毛を右手で掻き毟る。







――――折れた。





  中は乱雑としていた。獣を閉じ込めるような鉄格子が填められたケージが幾つも置かれている。

  無意識の内に手が口元を押さえていた。

  ケージの中には、手足に枷を填められ、痛わしい傷がぼろぼろの服から見られる女性達。その様子で想像したくないが、容易に想像が付いてしまう。

  女性達の虚ろな瞳が微かにこちらへ動く。


(‥‥‥‥『粉砕』!!!)


  怒りのあまり、思わず強く念じてしまう。

  鉄格子がグニャリと折れ曲がった後に

 粉々の塵となる。


「‥‥‥‥凄い」


  檻の鉄格子を曲げた瞬間を見ていた兵士がその光景を見て、心声をぼそりとこぼす。だが、ポーアの耳にその声は届いていない。


「姫様、この場はお任せしても?」


  グラスの声で少し頭の温度が冷えて冷静な理性が表に顔を出す。その問いにこくりと頷くと足音が遠ざかって行く。中にいる人は全員女性。

  血が混ざったような空気が漂うテントの中に入る。


「【黄金の慈しみ(チモナンサス)】」


  中に入って自身の蔦がテント全体を覆うように伸ばす。そして、白い小さな花びらが枯れ、黄色の小さな花が咲く。太陽のような眩しい光が彼女達を照らす。光の粉が傷口に触れると、少しずつ少しずつ癒す。ミレド様のように癒しに特化していないため、治りは遅いが花の花粉によって治していくこの魔法。


  治しながら再度確認する。此処にいる全員、

 種族はバラバラ。

  獣人の子もいれば、同族の子、更には尖った耳が特徴的な()()()族の子もいる。

 自国民である筈の子が多数。叔父であるナザラを思い出すと怒りで我を忘れそうになる。


「‥‥‥‥おっと、いけませんでした。」


  危うく怒りのあまり魔力を暴発しそうになった所をギリギリでコントロールした。

  爆発的な魔力が魔法に変換されたせいなのか、彼女達の傷は殆ど塞がる。しかし、わたくしでは治す事が精一杯の為、今までに受けた傷跡までは治せない。


「‥‥‥‥」


  皆の傷跡を見て共通点に気がつく。

 細長く()()()()()で出来たような傷が多い。

‥‥‥‥例えるなら革鞭のような。

 他にも火傷の傷など挙げればキリがない。


―――だが、これだけははっきりした。

 これは、()()による傷だ。


 



 ****


「団長、見ていただきたい物があります。」


  ポーア様にテントを任せた後、手掛かりを求めて敵の拠点を隅々まで調べ上げて行く。すると、呼びに来た兵士とは別の兵士に呼び止められる。


「‥‥‥‥トーバか、どうした?」


  まだ幼さが残る青年、トーバ。若手の騎士であり、将来有望なこの青年が自分を呼び止めたという事は何かあるのだろう。


  トーバが屈んでいる傍までやって来た。そこは、凄惨な現場となっていた。

 

「これ、どう思いますか?」


  飛び散った血が地面にこびりつき、近くに張られたテントにベッタリと付いている。


「どう、とは?」


  確かにおかしな現場である血があちこちに付いている。しかしそれだけだ。

  あの、ナザラ様なのだ。癇癪を起こして殺したという事も考えられる。


「いえ、おかしいですよ。これは‥‥‥‥。」


「別に代わった所なんてねえだろ?」


「‥‥‥‥ないんですよ。死体が……。」


「別の兵士がでも片付けたんだろ?それか、魔物がでも食ったか……。」


「‥‥‥‥それは、無いと思いますよ。これを見てください。」


「‥‥‥‥これは」


  指差したその先には濡れた鎧だけが残っていた。赤黒く血が乾ききっている。さっくりと切り裂かれた鎧、錆びきった剣、ヘルメットなど、まるでそこに死体があった事を証明する物だけがその場に残っていた。だが、死体はない。


「どういう事だ?一体………」


「俺、何か嫌な感じがします。団長‥‥‥。」


  死体だけが消えたかのようにそこに残っている。嫌な雰囲気をプンプン漂わせた空気に辺りを見渡してしまう。


「‥‥全員、広場に集まれ!!トーバ、お前は姫様のテントに向かえ!合流後、すぐにこの場を離れる。いいな?

 あー、後何かあった時は先走るな……!

 絶対、誰か呼ぶんだぞ?」


「‥‥‥‥はい。」


  トーバは一言、返事して足早に現場を遠のいていく。


  トーバを見送った後、背後に殺気を感じてデカイ剣を引き抜かずに縦にして持つ。

  鉄を弾くような高い音の後それを確認する。


「‥‥矢?」


  地面には矢が突き刺さっていた。


(殺気!!)


  矢で振り向いた森の中の先にデカイ剣を引き抜いて構える。先とは比べ物にならない衝撃が盾にしていた剣に伝わり後ろへ吹き飛ぶ。

  立っていたテントを擦り付け後方に吹っ飛ばされる。


「くっ……」


  焚き火跡のあった広場まで吹き飛び、剣を地面に突き刺して止める。踏ん張った足が痺れる。


「【木綿(ワタノコ)】」


  背後にモコモコした物が現れて勢いを相殺した。

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