顕現、再び
人工的に作られたスケルトン、亡霊をなぎ倒しながら例の黒服の男の気配を探る。しかし、他の無数の敵魔力に阻まれ探れない。
そして、降っていた雨も立ち込めていた木々の間に立ち込めていた水気も、いつの間にか止んでしまった。さっきの雄叫び声といい、『クロ』とか呼ばれていた背の小柄な(例の男と同じような服を着た)男が何かしたのだろうか。
「はあっ!」
右上に再び聖の魔力を込めた衝撃波を右手の籠手から出す。獣の爪跡のように三又に分かたれた鋭い衝撃波が見えない魔力の刃にぶつかった後に消滅する。
離れた所で一際大きな光が漏れ出す。恐らく、ネスクの扱う<雷>の光だろう。離れていてもここまで光が届くのだからネスクも本気か、手こずっているのだろう。
「ペーレ様とネモ様をネスク様の援護に向かわせて正解ですね!」
ミレド直伝の"踵落とし"を足に魔力を纏わせて背後から迫っていたスケルトンに食らわせる。
地面にクレーターを作り、スケルトンの全ての骨が粉々に砕け散って綺麗サッパリに跡形も無くなった。スケルトン相手だったためまだ良いが、人に使えば、子どもには見せられない光景になるだろう。
自分で教えておいて何だが、クーシェが使うと、人を一瞬で粉々に叩き潰す術に変貌していた。
(‥‥‥‥一体何処で教え間違えたのかのう。)
『相手を一撃で無効化するように』
とは言った気がするが、
―――まさか、こうなるとは予想だにしていなかった。
「ハア‥‥。」
ため息混じりに再びやって来る見えない攻撃を光の衝撃波で相殺する。
「【水の刃】!!」
金属でも易々と切ってしまう程鋭く高圧な水の刃がクーシェの右手から放たれスケルトンを二分する。
大樹の幹をも切り裂き、切られた大樹が残っていたスケルトンを下敷きにする。周りの木も巻き込んで横倒しになり、水気の代わりに次は砂煙が辺りを包み込む。
「【浄化の輝き】」
砂煙に紛れ襲ってくる亡霊を駆逐する。
「クーシェ!!ヤツの動き、分かるかのう?」
「‥‥‥‥‥‥」
クーシェならば何か掴んでいるかもしれない。
だが、返事が無い。
「クーシェ?」
振り返るとボーッと突っ立ったまま、クーシェが構えた手を止めて直立不動。まるで魂が抜けた体のようだ。
「クーシェ!!!!」
クーシェを取り囲むようにスケルトンが彼女に向かって襲い掛かる。
「くッ!!クーシェ!!どうした!?」
自分にも襲い掛かって来るスケルトンを叩き潰して進むが、次から次へと襲い掛かって来てクーシェの元まで辿り着けない。
そうこうしている間にもクーシェへと、スケルトンが肉付きの無い骨だけの腕を伸ばそうとする。
「邪魔じゃ!!退け!!」
群がって来るスケルトン、上空からは亡霊が行く手を阻む。スケルトンを足蹴にして、両手の籠手で亡霊を塵となるまで切り刻む。
「ッ!!クーシェ~~~ッ!!」
ミレドの悲痛な声にもならない声が木霊する。
空中で見たのは、クーシェがいた位置に大量のスケルトンが群がる光景だった。
◇◆◇◆◇◆
あ、れっ?
体が動かない。
ついさっきまで普通に動かせたのに、意識は確かにあるが、まるで体が石のように重く動かせない。声も出せない。
ドクンッ!
心臓が一回、大きく跳ねると、
――徐々に心臓の動悸がドクンドクンと脈打つ速さが速くなっていく。
ミレド様の叫び、駆け寄ろうとする姿が目に写る。手に力を入れようとするが動かせない。
駄目だ。このままでは何も出来ずにやられてしまう。まだ何も出来ていないのに。
心の中で願う。
動け、動け、動け、動け、動け!!
視界一杯に骨で埋め尽くされる。心の中の叫びと一緒に心臓の鼓動が更に増していく。
心臓の高鳴りと共に体が熱い。まるで風使いの男の人と戦った時のように。だが、以前とは違い耳元で何か囁かれてような小さい声のような音が聞こえた。
ソ ノ 血 ニ 選 バ レ シ 者 ヨ
理解出来ない為一部しか理解出来ない。だが、声と共に何かが断片的に流れ込んで来る。
これは、誰の記憶だろうか。
分からない。分からないが1つだけ分かる事がある。それは‥‥‥‥
―――――敵は滅さなければ行けない、という事。
◇◆◇◆◇◆
爆風と共に空中に置いていた体が吹き飛ばされて後ろの大樹の1つにぶつかり下へと落ちる。
「か、はっ!!」
背後からの痛みと共に肺の中の酸素が全て外に出てしまう。無防備な状態からの一撃で受け身を取ることも出来なかった。
「ゲホッ、ゲホッ!!一体何が?」
吐血した後、状況を確認する。こういう時、自身の異能の力をありがたく思える。
先程まで自分がいた所に大きなクレーターが出来上がり回りにいたスケルトンが全て吹き飛ばされていた。
「あれ、は、‥‥クーシェか?」
クレーターの中心地、その先に彼女がいる。だが、その姿は炎を纏う三本の尾を持つ狼のような姿となっている。
あまりの変わりように理解が追い付かない。