情報共有は綿密に
「【乾燥した風】」
乾いた暖かい風が濡れた服の合間を駆け抜けて乾かしていく。びしょ濡れのため乾かす時間はそれなりに必要だろう
だが、そこは魔力を送り込む量をうまく調整すると、恐らく時間も短縮する乾くだろう。
「‥‥‥‥ダメじゃな。完全に伸びておる。」
『へへ~♪ゴメンね~!
魔法なんて~久しぶりだ~か~ら~、ついっ☆』
『ペーレも~♪ゴメンめぇ~☆』
二人が空中で羽を広げて頭をコツンと軽く叩いて舌を出す。ミレドは男の容態を確認する。当の男は…………というと、縛られたまま気絶して伸びている。
これでは情報を聞こうにも聞けない。
「どうします?殴って起こしますか?」
クーシェが濡れて萎れた尻尾を絞っていた手を止めて拳を握って殴る動作をする。
「それはやめた方がよろしいかと、
クーシェ様‥‥。そのまま、永眠でもされれば、それこそもったいのうございます。」
(黒服の)男の事でなんだか物騒な会話が飛び交う。ポーアがスカートをたくし上げて水分を吸った服を絞り出す。
スカートに隠れていた華奢な生足が顕になり自然と目線をずらす。
(‥‥‥男の前でそういうのはやめて!)
初めて会った時のミレドといい、この世界の女性は人前で肌を曝す事への躊躇いがあまり無いように思える。というか、今のこの状況、とてもヤバい。濡れて水分を含んだポーアとクーシェ。
ぴったりと服が体に張り付いていつも以上に色気?みたいな物を感じる
「ネスク。‥‥‥‥ネスク、聞いておるのか?」
「‥‥‥え?」
振り返ると、男の容態を確認していたミレドがいた。それも顔が近い。
キレイな顔、白い肌が水分を含み、金色の瞳が自分を写す。いつもより妖艶に見える。
別に俺はお子様の体に興奮する特殊な性癖は無い。体は14の体でも、中身は17だ。俺はロリコンで無い!
のだが、この状況は堪らなくヤバい事だけは分かる。
「‥‥‥‥今失礼な事を考えておったように思えるが、まあ、良い。ネスク。
おぬし、書庫であやつの記憶情報を引き出せ!」
ミレドが男を指指してながらそう言う。一瞬だけ背筋が寒くなった。そして、人使いが荒い。
この状況が改善されるのであれば、それに従う他無い。
「分かった分かった!だからそんな顔を近づけて来るな。」
さあ、始めよう。とっとと、始めよう。
「なんじゃ、おぬしは‥‥‥‥。」
ミレドがまだぶつぶつ言っているが気にしないでおこう。
「【ソフリア・クレ】」
手の中に透明な物体の感触がある。
呼び声で透明な鍵『ソフリア・クレ』が顕れる。
「―――発動‥‥‥‥!」
時計回りに手首を捻る。
光りが発せられると共に頭の中に何か流れてくる。
『<発動>を確認。思考の指示・・・完了。
情報の取得を開始・・・・完了。
情報を転送します。』
ピピッという音ともにウィンドが表示される。
ウィンドウには、男の記憶から得た情報が正確に表示されている。
「‥‥‥‥終わった、ぞ?」
「おぬしッ!前より早いではないか!?」
あれっ?
こんなに早かっただろうか。
起動させてから情報を引き出すまでに要する時間が以前より比べ物にならなくなっている。
これもリンクが高まったからか、それとも『解放の扉<エルピス>』の影響だろうか。
発動させた俺も驚きだ。
「 『第一禁扉』のせい、だろう。多分‥‥‥」
実際、それしか思い当たる節が無い。
「何っ!?おぬし、もう扉の使用が出来るのか!?」
「えっ?ミレド知っているのか?」
「知っているも何も、おぬしが以前使っておった【ー理ー魔法】がその『扉』の魔法の一つじゃ。」
「そうなのか!?」
ソフィアからはそんな事一言も聞いていない。
というか脳
「あ、あのー、ネスク様?ミレド様?
一体、何の話をされていらっしゃるのですか?」
「わたくし達、完全に蚊帳の外ですね…。」
『『そうだ~、そうだ~!』』
「あれっ?俺の魔法、言ってなかったっけ?」
「むっ?ネスクのコレ(禁書庫)、言っておらんかったかのう?」
二人が小首を傾げる。
いつの間にか、もう服は乾いているようでクーシェとポーアを直視する事が出来る。
「「聞いて無いです(よ)!!」」
『『無~い!』』
二人と精霊二人の声が反響する。
***
「はえ~、ネスク様。そのようなお力を持っていのですね!!」
「伝承では存じておりましたが、まさかあの、『守護者』でしたなんて‥‥‥‥。」
クーシェはキラキラと目を輝かせている。
ポーアも興味あるようだが、驚きの方が強いようだ。
「‥‥‥‥」
二人に気圧され気味。ちょっと怖い。
前世でも女性とは全然接点が無かった。一緒にいた恵は、どちらかというと女性というより、妹という感じが強かった。
そして震えが止まらない。何故だろう。
「お、落ち着け。二人ともネスクが怯えておるぞ……。」
ガクガク ブルブル
「あ、申し訳ありません。ネスク様。」
「ネスク様、すみません。つい、興奮してしまって……。」
「だ、大丈夫。少し時間をくれれば。
絶対‥‥‥‥多分?」
「ネスク!!おーい、帰ってこーい!!」
遠い目をしていると、ミレドの叫ぶ声がする。
そしてバシバシと背中を叩かれる。
おおっと、いかんいかん。
その声で現実へと引き戻される。
震えも収まった事だしささっと、今回の元凶を片付けよう。男から得た情報に目を通す。
簡単にまとめるとこうだ。
一、 本拠地は北の森『フォルン』から徐々に詰めて行き、最終的には町から2km以上離れた位置に設置。
二、拠点の存在を特殊な結界を施し存在の隠蔽
三、『魔力塊の樹液』と呼ばれる物の奪取
といった所か。
「ふむ、この『魔力塊の樹液』の在処が気掛かりだ。これを何に使うかは記されていないからな。」
プレートの内容に幾ら目を走らせてもその辺の情報は無い。いざとなれば『禁書庫』に潜って情報を引き抜くが今はまだいい。
また急に倒れて心配を懸けるのも悪いからな。
「あ、それでしたら、わたくしが‥‥‥‥。
‥‥‥‥あれ?」
ポーアが懐を探るが途中で硬直する。
「どうしたのですか?‥‥‥‥ポーア?」
「‥‥‥‥ごめんなさい。確かに『神木様の根』を持っていたのですが無いのです。」
ポーアが顔を青くする。
「ふむ、やられたのう。あの男に。」
「‥‥‥‥‥‥ああ、あっさりと引いたからおかしいとは俺も思ったがもうあの時点で奪われていたのか‥‥‥‥!」
ミレドが非常通路の部屋でボコッた男。恐らくあの男がポーアとの戦闘の最中に奪ったと考えた方が妥当だろう。