解放されし『禁じられた扉』
意外な事にソフィアからの電波が届いた。
別に宇宙からの電波を受信する電波少年ではないのだが、最近は受信が前より増えた、気がする。
これもその精神リンク?とかいう奴が高まった影響なのだろうか。それとも、妖怪ではないが
ソフィア用の髪の毛アンテナでも付いているのかな。
『<禁扉>との調和率が規定の数値安定により使用可能となりましたので、簡単に説明させていただきます。今の状態で長々と説明を致しましてもきっと、オオヅキ様の頭が爆発するかと思いますので。』
さらっと毒舌をソフィアが吐いた。
おいっ、俺の頭は爆発なんてしないぞ!
人造人間じゃあるまいし、別に爆弾を埋め込まれてもいない!!
『オオヅキ様は聡明な頭の持ち主であると、私は認識おりますが、情報量があまりにも多いため、特に重要な部分のみをお教えします。』
ソフィアは業務事項のように俺の言葉を右から左へと流してつらつらと述べる。
(‥‥‥‥全部教えてくれ、頭の中で整理するから。)
全部知っておくに越したことはない。緊急を要する自体になった時に対応を知っておかなければ困る。
『‥‥‥‥よろしいのですか?
<禁扉>のマニュアルだけで辞書二冊分、使用方法、使用時の注意事項その他諸々、様々な事柄をまとめますと文庫本が五十冊分はございますが、
‥‥‥‥本当によろしいのですね?』
(‥‥‥‥すいませんでした。要点だけ簡潔にまとめてお願いします。)
徹夜による睡魔に襲われつつあった脳がそれを聞きびっくりして跳ね起きた。
確かにそんな量の情報を詰め込んだら頭が爆発してしまう。
『‥‥‥聡明なマスターで良かったです。では、まとめた情報をお送りしておきます。時間のある時にでも内容に目をお通し下さい。では、私はこれで‥‥‥‥。』
返事を聞いたソフィアはそこで交信を切る。
プツリという脳内音の後、テレビが切れたように何も聞こえなくなった。
「っ‥‥‥‥!」
それと同時に頭の中に何かが流れ込んで来て、頭がずきりと急に頭が痛む。
「どうしたのですか!?ネスク様!!」
「大丈夫ですか!??しっかりして下さい!!」
「ネスク、おぬし‥‥‥‥。
顔が真っ青じゃぞ!?」
皆の心配する声が薄れる視界の中で耳に入るがそれどころでは無い。
耳鳴りも始まり皆の声が、鐘の音を耳元でガンガン鳴らされているような音で掻き消される。
頭の中に今までに見たことのない魔方陣や文字、魔法式等が流れて来る。
これがソフィアの言っていたものだろうか。
‥‥‥‥いや、違う。
本能的に何か違う気がする。
ソフィアの言っていた情報という割には、要点だけを抜いたとしてあまりにも少ない。これは恐らくなのだが≪第一禁扉≫とかいうモノのそう、いわば『鍵』なのだろう。
「なん、だ?」
インプットし終わったのか急に何も出てこなくなり、代わりに朦朧とする視界の中で何か見える。
‥‥‥‥‥‥扉?
頑丈な鉄の鎖のような物でがんじがらめに縛られた両開きの石扉が夢か現かわからない視界の中で見える。
いかにも封鎖された扉という感じがする。
そして、扉の上部にはこちらの世界の文字で
≪一≫と石扉に刻まれている。構造があの洞窟、『守護者』の肩書きと『禁書庫の鍵』を授かった洞窟の入口に酷似している。この扉もやはり何かしらの言葉が必要なのであろうか‥‥。
そう考えていると、施錠された扉のいくつもある錠が一つずつ、カチャリという音と共に解かれて消える。
そして、全ての錠が外れて消え、がんじがらめに巻かれた鉄の鎖が弾け飛ぶ。
人の何倍もある石扉が重たい音を引きずりながら、解き放たれる。
「‥‥スク、ネスク!!」
扉が解き放たれると同時に誰かの声で現実へと意識が引き戻される。気付くと額にミレドの手が置かれていた。やんわりと額にミレドの魔力が注がれて来る。
そして、見下ろされる形のミレドと全員の心配した顔が見える。
「皆‥‥‥。俺は、倒れたのか?」
状況からしてそうだ。見下ろされる自分、瞳に涙を留めているポーアにクーシェ、そして傷の回復にミレドが使っている緑色の魔力を手の平から流し何か言いたげなミレド。
精霊二人は‥‥‥‥‥‥特に心配されていない。
元気に空中で二人して遊んでいる。元気一杯な事は良いが、少し心配はして欲しい。
「意識は、戻ったようじゃな。おぬし、顔を青くした後、急に倒れ込んだのじゃぞ。覚えておらぬか?」
首を横に振る。全く覚えていない。
俺の時間にして数分程の僅かな時間だ。住民に取り囲まれ心配したような表情を浮かべている。
「気を失ってどれくらいだ?」
「ほんの数半刻じゃ。これ、まだ横になっておれ‥‥!まだ顔が青い。血色が戻るまでそのまま横になっておれ‥‥‥‥!」
体を起こそうとすると、ミレドに再び横にされ止められる。数半刻ということは、一○分か二○分くらいということか。
「「ネスク様!!」」
「ふげっ!!」
ポーアとクーシェの二人に突然、腹付近に飛び掛かられ、カエルが踏まれたような声を上げる。
「これ!二人とも、一応病人じゃ‥‥!
また倒れられても面倒じゃから、扱いは慎重に、丁寧にせい!!」
ミレドがそう言うも、二人はわんわん泣いてそれどころではないようだ。服が二人の涙でびしょ濡れだ。
「それで、ネスク。
急に倒れたには、理由があるのじゃろう?怒らぬから、申してみよ‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥怒ってる?」
何故かわからないがミレドの背後に黒いオーラが見える。笑顔、ではある。笑顔では‥‥。
威圧感と黒い笑顔を浮かべるミレド。
この顔はいつも怒る時の顔だ。
「怒っておらぬよ、どうして怒る必要があるのじゃ‥‥?」
背筋に寒気が走り、体がびくびくと震える。
聖龍様はとてもお怒りのようだ。
「‥‥‥‥はあ、急に倒れられるこっちの身にもなれ!心臓に悪いわ!心臓に!!」
やっぱり怒っていた。ため息混じりにミレドが怒りをぶつける。ミレドの説教を聞きながら、周りを見る。住民の人達は騒然としている。まあ、そら、この状況だから仕方がないか。
わんわんと号泣するポーアとクーシェ。怒鳴り散らすミレド。空中で相変わらず、二人でじゃれているネモとペーレ。この状況はめちゃくちゃ目立っている。
そういえば、串肉を食べている時もチラチラとこちらを伺うような視線を感じた。クーシェが言っていた『目立つ』というのはそういうことか。
今思い起こすと、目立って当然といえば、当然だ。ただでさえ畏敬されているミレド、そのミレドが串肉を大量に食べていれば目立つのは至極当然である。
「おい!ネスク!聞いておるのか!!」
「ん?ああ、聞いてる。聞いてる。」
「お・ぬ・し~!!絶・対~!!聞いておらぬじゃろ!!!」
生返事を返すと、聞いていない事が直ぐにバレた。さすが、ミレド。
僅かな俺の変化に気付くとは流石である。
更にミレドの説教が続く。
『ペーレ~、おもしろ~いね~♪』
『ペーレ~も、そうおもう~♪』
混沌と化したその状況をネモとペーレは楽しそうに見る。