朝だ!飯だ!全員、集合!
更新しま~す♪
書きたい事が多すぎたため、いつもより少し長めの話となっています。
「隣失礼します。」
『しつれい~♪』『れい~♪』
クーシェが隣にぺたりと座る。ふわふわと浮いていた精霊、ネモとぺーレがクーシェの頭の上にちょこんと座る。それぞれの羽が縮小して小さな羽になって、肩甲骨と背骨の間ぐらいに納まる。
「クーシェも食え!!全治したとはいえ、あれだけの重傷じゃったからのう。
治ったとはいえ、再生に伴う体の疲労や魔力の回復には、『食って、休んで、寝る』に限る!
ほれほれ!食え食え!」
「では、頂きます‥‥‥‥!」
両手を合わせた後に大量に盛られた串肉へと手を伸ばし、その中の一本を取りぱくりと食べる。
「はぐっ、はぐっ、はぐっ‥‥‥‥ゴクン。
美味しいですね。」
クーシェもその美味しさに驚く。そして、ぱくぱくと食べ始める。それに釣られてミレドも食べる。俺も、もう一本。
『旨味~♪、うま~♪』
『馬~?』
「はぐっ、はぐっ、馬ではないですよ‥‥。
『美味しい』です♪」
精霊二人もクーシェが小さく分けているが、それでも両手で持つほどの串肉の一摘まみをぱくぱくと美味しく食べる。というか、いつの間にこんなに仲良くなったのであろうか。
「もぐっ、もぐっ、ごくん。
‥‥‥‥‥それにしても、クーシェ。
よく妾達を見つけられたのう。こーんな、人だらけの中で。」
周りは住民達で溢れ返っている。座るスペースや歩くスペースはあるものの、人だらけで人探しは困難。
「はぐっ、はぐっ、見つける事は、とても簡単でした‥‥。
ミレド様とネスク様、目立ってますから。」
『そうそう~♪』
『めだか~、めだか~♪』
頭の中で小さなメダカが泳ぎ回る姿が頭の上を過る。
「「???」」
ミレドと顔を見合わせ首を傾げる。
ミレドにも思いあたる事は内容だ。
どういう意味なのだろうか。普通に戻ってきて、普通に座り、普通に朝飯(串肉)を食べているだけなのだから。俺にも目立った行動をした覚えはいない。
「ふう、やっと、追いつきました‥‥‥‥。」
クーシェの言葉を考えていると、人を避けながら、ポーアがやって来た。大勢に囲まれ、ドッと疲れた様子。
体調的には大丈夫なのだろうか。
あんなに人に囲まれていては休まる物も休まらないと思う。
ポーアは、一息付くと、クーシェを見て驚く。
「ク、クーシェ様!?」
驚きの余り、上擦った声となる。
「はひ!ポーア様!
ポーア様もぶひでなりよひでふ!!」
口の中一杯に肉を詰め込んで、クーシェが喋る。お行儀は良くない筈、なのだが、クーシェもミレドと同じようにがっつき、食べるのに夢中である。
「無事で良かったです!!手の傷は!?
あの時、ざっくりとナイフが貫通して、血が、
血が!!といいますか、そちらの二人は、精、霊、ですか!?」
「ゴックン、落ち着いて下さい。この二人は精霊さんです。お名前はペーレちゃんとネモちゃんと言います。」
『ネモだよ~。』『ペーレ~』
精霊二人が体より、大きな串肉をモキュモキュと頬張りながら、手をそれぞれ上げる。
他の精霊もこの二人と同じ大きさなのだろうか。だとすると、とても小さな種族だな。
「わ、わたくしは、『ポーア』と申します。
上級精霊さん、ですよね?」
『うん~、そうだよ~。』
『ゾウ~、ゾウ~♪』
ペーレの言葉で長い鼻を高らかに上げて、どこかでパオーンと返事をしそうである。
「わっ、わたくし、上級精霊様を初めて見ました。これからよろしくお願いいたします!」
『よろしく~ね、ポーアちゃん♪』
『ポーちゃ~ん♪』
精霊二人のユル~い紹介を終えた後に、クーシェが話の続きをする。
「左手の事でしたらこの通り、何とも無いです!!ほら!!」
ポーアに左手を差し出す。
ポーアは、差し出された左手をあちこち触れながら、傷が無いかを確認する。
「本当‥‥‥‥です。嘘、‥‥‥‥傷が全く、無いです。」
ポーアが驚きでクーシェの左手を凝視する。
ポーアの口にした言葉で食べていた串肉を食べるのをやめる。
ナイフが‥‥‥‥腕を、‥‥貫、通?
アイツ、許さん。
あの時、もっと痛め付けてやれば良かった。
いや、今からでも遅くはないか。
後でたっぷりと、‥‥‥‥ククク。
ネスクから黒いオーラが出ていることは、当の本人は知る由もないが、
ミレドの「おぬし、この後、アヤツを虐めるのはよすのじゃぞ‥‥‥‥。」
と釘を刺された事で内から外に戻る。
「うんっ、それでですね。毒のせいであまり覚えていないのですが、体が急に熱くなって、気付いた時には、この通り、治っていました。」
ネスクの黒いオーラで固まっていた場をクーシェが咳払いをして戻して言葉を繋げる。
急に体が熱くなって傷が治る‥‥‥‥?
クーシェの何かしらの能力か?それとも、
クーシェの、『灼熱の狼』としての能力なのか?
聞いただけでは分からない。
「ネスク様?どうかしました?」
考えていると、クーシェが覗き込んで来る。
おおっと、またしても内に入り込んでいたようだ。いかん、いかん、悪い癖だ。
「‥‥え、ああ、ちょっと気になって考えて込んでいた。それで、傷が治った事以外で何か変化とかはあったのか?」
食べ終わって串のみになった串肉を皿に戻して次の串肉を手に取る。
「それが‥‥‥‥ですね。実は傷が治った直後といいますか、治りながらといいますか。
どうなって、という事が不明なのですが、
その時、体の熱が『発火』しました。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥えっ。」
次は、頭がフリーズを起こす。
‥‥‥‥‥‥何それ、怖い。
人体発火とか起こり得るのか。魔法があるこの世界、そんなオカルトめいた事、日常茶飯事なのだろうか。
ポーアもそれを聞き、一緒に食べていた串肉を持ったまま、先程からの驚愕のあまりに頭が付いてていけず、体までもが完全に固まっている。それもカチカチに‥‥‥‥。
ミレドはもぐもぐと食べながら、いつも通りのミレドである。
精霊の二人は、クーシェの頭の上でじゃれあっている。その精霊二人のおかげか、フリーズを起こしていた頭が最初の衝撃を緩和される。
「こう、‥‥‥‥‥急に、体の中の熱が私の意志を具現化したといいますか。」
「‥‥‥‥なるほど、のう。聞いた限りでは分からぬが、『覚醒』が近いようじゃのう。」
黙って聞いていたミレドには、何か思いあるようだ。
「ミレド様、何か心当たりでも?」
「思いあたる事はある。‥‥じゃが、この話はまた後にしよう。飯時にする物騒な話になるからのう。後じゃ、あ・と。
これ、ポーア!いつまで固まっておる!」
そう言い、ポーアを揺さぶるミレド。それに便乗して、クーシェの頭の上にいたネモとぺーレも羽を羽ばたかせてポーアを突つきにいく。
三人につつかれた事で衝撃のあまり固まっていたポーアが復活する。
脇や横腹を三人にくすぐられて地面を転がる。
「ふふふっ、そうですね。
ご飯時にする話ではありませんでしたね。
‥‥‥‥さあ、ささっと食べてしましょう!」
口元を押さえて女の子らしく笑うクーシェ。
「や、やめて~!!」と叫んで笑い転がるポーア。ポーアをくすぐり、楽しそうにするミレド、ネモ、ペーレ。
左手でそっと自分の口をなぞると、いつの間にか俺自身も口を緩ませていた事に気付く。
血溜まりで血色を失い倒れ伏すクーシェ。そして、涙を濡らし気を失ったボロボロのポーア。
昨夜の光景がふと蘇り、緩んでいた口が元に戻る。あの時、少しでも遅れていれば‥‥‥‥。
それを考えると両手の震えが止まらない。ミレドとの早朝訓練で確かに力は以前よりも格段に付いたと思う。魔力のコントロールもヘヴラ戦以降欠かさずに行っている。だが、それでも足りない。今回は手が届いたから良かった物の、
もし、手が届かなければ?
見たくない光景が脳内に思い浮かぶ。
ボロボロで、地面に倒れたこの場の全員。クーシェ、ミレド、ポーア、そしてネモとぺーレ。
その誰もが傷だらけ、その上、傷口から流れ出る血が地面に広がる。それをまるで見てきたかのように、鮮明に生々しくそして残酷に。
自分の手には誰の物かわからないが、べったりと血が付いている。
呼吸が荒くなり、過呼吸になる。
『落ち着いて下さい。‥‥‥‥オオヅキ様。
それは夢です。現実ではありません。
なのでどうか、心を穏やかに‥‥‥‥。』
ソフィアの声でハッとして現実に戻る。皆、生きている。全身に傷もなく、笑い合う輪を作り、目の前でこうして生きている。この中には俺もいる。
『もっと自分の能力を使うべきだ。』
夢の中でもう一人の自分に言われた言葉を思い出す。
(俺に、‥‥‥‥その、『能力』とかいう物があるのならば‥‥‥‥。)
欲しい。
誰かを守る為の力が、欲しい‥‥。
ヘヴラのように暴虐を尽くす力でなく、誰かを守り、助け、大切な者を守れるだけの力が‥‥‥‥。
ピコンと頭に通知音のような音が響き、【書庫】の概念さんの無機質な機械の声が響く。
『プロセス【強い意志】を確認。
十分な書庫との精神リンクの確率が整いました。それに伴い、【解放の扉<エルピス>】の≪第一禁扉≫の解放が可能となりました。』
聞き慣れない言葉が飛び出した。
≪第一禁扉≫とは何だ?
というか、名前がとても厨二病っぽい。
あっ、でも、俺の今の年は14。前世でいう丁度、中一、二くらい。精神は17でもそういうお年頃なのだろうか。
『‥‥‥‥いえ、そうではありません。
オオヅキ様‥‥‥‥。』
再びソフィアの冷静な声が頭の中に響く。
シリアスな内容とホカホカする内容でした。
確かに、飯時に血とかスプラッタな物は見たくないですね‥‥(苦笑)。
精霊二人が加わった事で更に賑やかな朝御飯になりました。この二人のセリフはポワポワした感じでボケたような言葉なのでとても書きやすかったです♪
次回は最後に出てきた謎の単語の説明が少し入ります。