神器姉妹とミレド
「二人とも‥‥!無事か!!」
魔物との戦闘跡を横に二人へと駆け足で合流する。遠目ではあるが、二人の様子から無事な事は伺えるが。
この一晩中。ずっと戦っていたため疲労は溜まっているはずだ。
魔物との戦いが数多。
そして巨大な魔物との一戦。激動の一夜となった。
転生してからは、"早寝、早起き、修行漬け"と、規則正しい日々を送っていたため、
一晩ぶっ通しで、というのはこれが初めてだ。
体の感じからしてまだ動けるが、それでも、流石に仮眠は必要である。少しでも睡眠を取らないと脳の反応が鈍り"いざ"と言う時に困る。
「うむ、何とも‥‥!」
「はい!わたくしも、無事です‥‥。」
二人の元気な返事を聞き、肩の荷が少し楽になった気がする。見渡した限りでは魔物の類も全て消滅している。直ぐここを抜ければ、脱出する事も可能と聞いているため、これで非常時の退路は確保出来た。
「ん?そういえば、‥‥敵だった奴らはどうした?」
遠くであったがミレドがこんがりと雷で焼いたのは確認したが突如、魔物が出現したためにその兵達の生存をそれ以降、確認はしていない。
「うむ、それならば心配無用じゃ!別次元に閉じ込めておるからのう。‥‥‥‥全員無事じゃ!」
ミレドが自分の小さな胸を張ってドヤ顔をする。口に出したら怒られそうだからいわなが...。
「‥‥‥‥こっちの兵も、無事。広場に退けたようです。」
ポーアが目を瞑り、指で軽くこめかみを押さえる。ポーアが言っていた"同調"と呼ばれるモノだろう。植物を通して遠くを見たり聞いたりすると以前言っていたな。
「何はともあれ全員無事で良かった‥‥。」
ミレドも無事、ポーアも無事、クーシェの方は‥‥少し気になるが、全員が無事だった事に今は素直に嬉しい。
「ひとまず戻るのじゃ……。休息するにしてもここは場所が悪いからのう。」
ゴツゴツしているが平らな地面でそこまで足場は悪くなかった場所は魔物との戦闘の爪痕でその面影は無い。
「あっ!それでしたら、広場に一度、戻りましょう。少し時間が掛かりますが、そこでなら、休息も出来る筈です。」
ポーアが居れば此処へ来る時に確認した魔法陣を使って一瞬で戻る事が出来る。来た道を引き返そうとする。
ポーアの衣が点滅する。そして、光の玉となって宙へと舞い服が元に戻り、髪や目も元の色へと戻る。
「‥‥‥‥どうやら、『臨界』じゃのう。初めてにしては持った物じゃよ。ポーアは、その神器と"相性"が良いようじゃのう。」
ポーアの首からいつの間にか、ヒサカから預かった首飾りが掛けられている。
「これが‥‥‥‥『神器』ですか?
あの、おとぎ話の‥‥‥‥ですか?」
「うむ、この目に狂いは無い!間違いなく、『神器』じゃ!!それは、ネスクから貰ったのじゃろう?」
ミレドがその首飾りを見た後に、ポーアに聞くと、ポーアがこくりと頷く。
「そうか、ネスク。おぬしは、何故、コレを持っておったのじゃ?来る時には持っておらんかったじゃろ?」
当然、その質問になる。
‥‥‥‥‥けど、素直に話して受け入れてくれるのだろうか。自分の夢の中での話だ。
普通であれば、信じられない。
『起きたら持っていました。』なんて
―――普通は、あり得ない。
「話しても良いが、‥‥‥‥信じてくれるか?」
今のこの気持ちをミレドに確認する。
「うむ!!妾は信じる。
おぬしの師匠であり、理解者でも有ると自負しておるかのう!!話してくれるか?」
「‥‥‥‥‥分かった。でも、移動しながらにしよう。ポーアの体調の方も心配だから。」
ポーアを見る。顔色が少し、『青い』というか―――『白い』。恐らく神器を使った事で、体にその負荷がきている。
自分と違い代償が無いのは良かったが、それでも体調面は気になる。
「そうじゃのう。歩きながらにしよう。ポーアも聞いておくべきじゃしのう。」
「はい!しっかりと聞いておきます!!」
返事を聞き入口へと歩く。しかし、ポーアの足取りは少しおぼつかない。
「ポーア。‥‥‥‥乗ってくれ」
そう言ってポーアの前で前屈みになる。
「えっ!?いえ、しかし‥‥‥」
ポーアが戸惑う。まあ、無理からぬ事だ。混乱もするだろう。しかし、このまま一人で歩かせるのは後々のためにも心配であるため、背負って行く事にする。
「いいからっ!ほら、乗れ!!」
躊躇いながらもポーアが乗る。そのままポーアを担ぎ上げ腰を浮かす。そして、ポーアを背負ったまま先を歩いていたミレドに追い付く。
背中に柔らかいモノが当たっているが、そんな下心は今は無し。
「うう~!ネスク様、
こちらを見ないで下さいね~!」
背中でポーアが顔をうずくめて小さな声で言う。自制心を貫き、無表情。
「‥‥‥‥‥若いのう~。」
ミレドが二人に聞こえないように呟く。
ポーアはネスクの背中で顔を真っ赤にして、ネスク自身は自制しているようだが、目があちこち泳いでいる。
二人の初々しい様子を観察しながら、ミレドは内心でニヤニヤする。
****
「‥‥‥なるほどのう、夢の中でのう。」
ジメジメと湿った一本道をゆったりとした足取りでミレドに全部を説明する。治療の後に見た夢の中でヒサカに会った事、そこで話した大まかな会話と最後に頼まれた首飾りの事を。
「ああ、それで夢から覚めたらいつの間にか手の平にその『石』があったんだ。その石に、少し加工を加えて首飾りにして、ポーアに渡したんだ。」
「『鍵』と同調しておるおぬしじゃから呼び出せたという事じゃろう。ヒサ自身も―――『主』と定める者を既に選定しておったのじゃ。しかし、渡すにしてもその手段がなかった。じゃから、自分に代わり渡して貰ったということじゃな。」
「そういうことか……。
ん?‥‥‥‥ヒサ?」
謎の単語が飛び交って思わず聞き返す。
「ヒサカキの事じゃ。妾は、昔からそう呼ぶ。
妹の一人なのじゃから、愛称で呼んでも不思議じゃなかろう?」
「‥‥‥‥‥‥妹?」
思わず脳が停止する。
「む?言ってなかったかのう‥‥‥‥?
妾とヒサ、あとダル‥‥。いや、今はソフィじゃったな‥‥。その二人は妾の妹じゃ!」
「えーーー!!あっ、でも当たり前か!」
神器は創造主、女神セレネが生み出した者。
―――と前に聞いた。ミレドも女神セレネから生み出された存在、ということはミレド自身が言っていた。
生まれた過程は違えども同じ女神様から生み出されたという事は義理の姉妹になるという事か。
「では、ミレド様には他にも妹がいらっしゃるという事ですね!」
背負っているポーアが喋る。しばらく顔を疼くめて、何も話さなかった。
―――恥ずかしがっていたが、どうやら気持ちは落ち着いたようだ。
というより、この話に興味津々といった所か。
ポーアが食い付き気味に動くのでバランスを崩しそうになる。
「そうじゃのう‥‥。会えておらぬからのう。まだ、何とも言えぬがおる筈じゃ。」
どことなく、歯切れの悪い言い回しである。
「‥‥‥‥何で………皆。一緒にいないんだ?」
ヒサカの悲しい表情が脳裏を過る。別に一人でいる必要は無い筈。生きているのだから当然、一緒にいても良いのでは?
しかし、ソフィアもヒサカもだが。
どちらも『一人ぼっち』、つまり離れた状態でいる。
何か理由でもあるのだろうか。
「ネスクよ。おぬしは、"神器が何故生まれたのか"知っておるかのう?」
「生まれた、理由?」
真剣な表情、だが、どこか悲しそうなミレドの表情にゴクリと唾を呑み込む。ポーアも同じだ。
「神器は、その種族に付き一人じゃ。それは、神器が『その種族を守るための力』じゃからだ。」
今日はここまでにします。
気になる終わり方をしていますが、次回はその続きからです。