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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2章 亜人連合国騒乱編
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一時の休息

 

  進軍する軍勢の一番後方で陣取る形でナザラはいた。手元に置いてある奴隷にお仕置きという名の拷問じみた事をしながら、魔物の軍勢と兵士が故郷である筈の国が完全に崩れたという朗報を待つ。すると、そこに兵士の一人が急いだ様子で飛び込んで来る。何やら、慌てた様子で。


「ご、ご報告します!!」


「何ニャモか?儂が遊んでいる時に。敵は落ちたニャモか?なら、早く儂の前にアレを連れて来い。アレを!!」


  お仕置きを邪魔されたことに腹立たせながら、その兵士に命令を下す。しかし、兵士は青ざめた顔で答える。戦場で起きた事を。


「い、いえ、それが、に、二千の魔物の、軍が、いっ、一瞬で滅ぼされました。」


  その報告にナザラはすっとんきょうな声を上げる。


「な、なんだニと!?魔物どもの頭はどうしたニ!?頭は!?」


「そ、それが、全滅、致しました。」


  兵士が震えながらそう答える。

  ナザラの顔に余裕が消えて怒りの表情へと変わって行く。


「キ、貴様ら!!今まで何をしていただニ!!こんな弱っている国だニに、何を手をこまねいているだニ!!!!ささっと始末するだニ!!!」


「も、申し訳ありません、ナザラ様!!」


  ナザラがひれ伏している兵士の頭を踏んずける。


「報告するヒマがあるだニなら、アレをさっさと起動させるだニ。結界崩しをした『ギガイアント』をさっさと使うだニ!!!」


  そしてその兵士を蹴り飛ばす。

 床には先程まで飲んでいた最高級の酒が溢れて流れる。そして、ヨロヨロと立ち上がり、出ていった兵士は、何かを起動させる。

  駆動音と共に低い何かが叫ぶような音がする。そして、外で血が大量にテントにこびりつく。


 ****

<ネスク&ミレド>


  雷の雨が降り注ぐ。雷の雨に触れた魔物が塵へと返っていく。しかし、俺達には注がれない。

 魔方陣が雨を防いでいるからだ。

  周りでは魔物どもの断末魔が聞こえるが次第にその鳴き声も無くなり静かになる。

【雷雨】の雷の音だけが周りを駆け巡っている。


  展開している【探知】で周囲の魔力反応を確認する。真っ赤に染まっていた脳内マップに魔物の魔力反応が全て綺麗に無くなる。


「終わったようじゃな。アレだけの数を全てとは、よくやった。」


  ミレドが褒めて来る。普段は、あまり褒めないミレドに褒められると心の何処かが少しくすぐったい。


「どうも‥‥‥」


  無愛想かもしれないが今言える最大限の一言を返す。

  次第に【雷雨】の雷が止み、静かな夜へと様変わりする。嵐の前の静けさにも似た空気が頬を撫でる。

 

「ん?この反応‥‥‥‥」


  ミレドがぼそりと呟く。俺の【探知】にもその反応が引っ掛かる。魔物ではないが、大人数の魔力の群れがこちらに近付いて来る。

  腰の刀に手を添え臨戦態勢を整えておく。

 ミレドもいつでも反応出来るように体に魔力を巡らせている。

  暗い森の中に次第にかがり火の光が見えて来る。場所は前方、北からだ。

  耳に甲冑の擦れ合う音が届くように次第になる。刀に魔力を流す。が、その必要は無いようだ。聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「ミレド様!!!ネスク!!!無事か!!!!」


  暗闇の中から次第にその声の主が姿を現す。

 グラス団長だ。


「グラスか、おぬしも無事で何よりじゃ。こちらも苦戦はしたが、二人とも無事じゃ。」


  ミレドも臨戦態勢を解く。それに従い俺も添わせていた手を下ろす。


「ご無事で何よりです。こちらも怪我人は出たもののお二方のお陰か死者は出ていません。」


  魔物達は魔力の高い俺とミレドに向かって群がって来ていた。ということは、グラス団長の方へと襲撃する魔物も自然と此方に来るため死者は出なかったようだ。


「うむ、それは何よりじゃ。妾は死者までは甦らせる事は出来ぬが、生きておれば治す事は可能じゃ。後で怪我人を此方に呼んでくれ。良いかのう?」


  グラス団長へと判断を任せる。


「ありがとうございます、ミレド様。‥‥‥‥‥所で、お二方は、何故先程から手を握っておられるのでしょうか?」


「「ん?」」


  自然と右手へと視線が行く。指を絡ませ恋人繋ぎと呼ばれる握り方で繋いでいた。

  二人同時に手を放す。


「と、特に、い、意味は無いぞ。そ、それより、早う怪我人の元まで案内せい!!!」


「は、はっ!!!」


  グラス団長はミレドの鬼気としたその声に気圧されて素早い動きでミレドを案内する。

  俺もつい、目を反らしていて見えなかったが、少し顔を赤らめているように見えた。俺も先程から顔が熱い。風邪でも引いたのだろうか、それとも今頃になって反動が来ているのであろうか。


  ミレドが怪我人を見て回っている間に休息を取ることとなった。





  根っこの上に腰掛けて魔力回復に努めていると、足音が近付いて来る。


「お、おい!」


  声を掛けられて目を開けると、先程魔物から助けた兵士が立っていた。


「‥‥‥なんだ?」


  兵士へと聞き返すと、少し目を反らした後、何かを決意したように話し掛けて来る。


「そ、その、何というか、‥‥‥助けてくれて、その‥‥‥ありがとう。」


「‥‥‥‥」


  思わず何といったのか脳内で繰り返してしまう。


 今、何といった?


 ありがとう?


 俺に?……何で?


  自問自答していると、兵士が言葉を続ける。

「もし、あの時、お前が助けてくれなけば、俺はあの時、魔物に食われていた。人族とはいえ

 俺を助けてくれたのはお前だ。助けてくれた相手には礼儀だけは示したい。それだけだ。

 ‥‥‥では」


  そう言い残して立ち去っていった。


「‥‥‥何で、俺なんかに‥‥‥。」


「それだけの事をしたからじゃ、ネスク。素直に受け取っておけ。」


  背後から声が掛かる。


「ミレドか‥‥‥。もういいのか?」


「うむ、皆軽傷じゃったからのう。それもこれも、ネスク。おぬしのお陰じゃ。」


「俺の‥‥‥お蔭?」


  首を捻る。そんな事をした覚えなど全くもって無い。

「うむ、あのまま魔物討伐が長引いておれば、もっと怪我人も増えておったし、下手すれば、死者も出ておった筈じゃ。」


「‥‥‥‥」


「おぬしの迅速な判断のお蔭で助かった者もおる。じゃから、もっと自身を持て。そして、自覚を持て!!おぬしを認めつつある者もおることを、‥‥‥のう。」


「‥‥‥‥終わったのなら、次に行くぞ。ポーアやクーの方も気にかかるからな。」


  腰を上げ地面に下ろしていた刀を腰に刺して準備を整える。


「‥‥‥はあ、全く。素直じゃない奴じゃのう。まっ、そういうおぬしじゃからこそ、ネスクじゃ。」


  ミレドはそう言い、ネスクの後に続く。

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