激戦 中
昨日更新出来ませんでしたので今日更新します。
兵士とワイトがぶつかり合う。魔法で編まれた肉食植物がワイトを丸呑みにしたり、手足を縛り上げて身動きを取れなくした後に体を引き裂いて戦闘不能にする。
ワイトは動ける体なら動けなくなるまで動き続ける。所謂ゾンビに近い。
頭を潰すか体を肩から脇に掛けて袈裟斬りにすれば倒すことが可能。
兵士も傷を負っているがそれでも引けを取らずに斬りかかる。その命が尽きるまでゾンビの如く食い下がる。
どちらが魔物なのか分からなくなる。
それをワイトキングの背後にゆらりと立ち、黒服の男が眺める。そのワイトキングは命令されているかのように柱に魔力を流し続ける。そこからワイトが生まれ出て前線へとゆらりと歩いていく。
「‥‥‥‥クロの言う通り、大した奴はいないようだな。」
男がボソリと呟く。戦場で散っていく命に興味が無いようにフードの奥の冷徹なその瞳で戦いが終わるのを待つ。
前方で大きな爆発と共に数多のワイトが消し炭となって吹き飛ぶ。
「‥‥‥‥‥クックック。少しは楽しめそうだ。」
その爆発に愉快さを滲ませながら、軽やかな足取りでワイトキングの横を通り抜けて爆発の起こった方向へと歩いていく。
「お前達はそこで結界の強化でもしていろ。俺はちょいと遊んでくる。」
木で防いだ通路で結界を張っている部下達に指示を出して歩く。
まるで面白い玩具でも見つけたような不気味な笑顔を浮かべさせながら、その手にはいつの間にか血塗れの刃が握られていて、進んで行く。
前に飛び出してきたワイトの頭を切り落とし、兵士の喉をその小刀で引き裂く。
「クックック。」
不気味なその男は死神の如く嗤う。兵士達はその男を見て震え上がる。人ではないように見える程愉しそうに、愉快に味方の筈のワイトを葬る男に。
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戦況が好転している事を実感する。
こちらの倍の戦力差だが、先程自分を助けてくれた女性兵士さんの活躍により今は拮抗している。
戦場で起こっている爆発がその証だ。あの爆発は彼女による魔法だ。
火力のある火の魔法が空気を加熱し膨張した空気がカチッという音で一気に爆発を繰り返している。まるで火薬が爆発しているようだ。
「‥‥‥‥‥あと、一○分」
【ヘリアンテス】の花を見る。圧縮し集まった魔力が花の中心に貯まり、花びらがチカチカと点滅を繰り返している。
「残り二割、といった所でしょうか。」
今の状態だと持つ。兵士達はワイトの動きを魔法で生み出した植物で動きを止めてからワイトの首を斬り落とす。斬られたワイトは黒い塵となって消える。魔法と彼等の剣の連携でどうにかなっている。
不測の事態が起きなければ、このまま‥‥‥
「っ!!危ない!!!」
思わず声を張り上げる。
空気中に浮遊する魔力を使い、
無理矢理、魔法を行使する。
「彼の者の盾となりて顕現せよ【蕾の盾】」
五枚の花が女性兵士の周りに顕現する。そして、彼女を包み込む。
彼女は何事かと少し焦っていたようにも見えたが、背に腹は変えられない程の刹那の刻だった。
彼女を包み込むと同時に黒い影が一閃、
「‥‥‥‥ん?妙な魔法に防がれたか。」
その声に聞き覚えがあった。兵士の亡骸に変な玉を埋め込んだ男だ。顔はフードで隠れて見えないがその男の服の印象と声は覚えていた為分かる。
その男の攻撃で【蕾の盾】が空気が抜ける音と共に萎む。
萎むと盾の中から女性兵士が横に一振りをする。男は後ろへ下がり避ける。
「汝、我が力を用いて彼の者を捕えん。【茨の枷】」
再び空中の魔力を使い、魔法で援護をする。茨の蔓が男の足を捕らえる。
そこを女性兵士が斬りかかる。
「‥‥‥くだらん」
男が自分の得物を逆手に持ち変える。
握り変えると同時に悪寒がポーアの体に走った。凄い圧を感じて体が萎縮する。
男は逆手にした両手の左手側を自身の前に構える姿と同時に何かが頬を掠り、血が頬を伝う。
女性兵士も下ろし掛けた剣を引き、後ろへ仰け反る。
仰け反ると、後ろにいたワイトの体が首と胴体に分断される。
「なっ!?」
男が両手の小刀で振り下ろす姿を見ていない。だが、剣でスッパリとワイトが切り裂かれたような切り裂け方をした。
目の前で起こった事が夢か幻なのかと自身を疑ってしまう。
しかし、これは現実だ。辺りに漂う血生臭い匂いと頬の痛みがそうだ。
「面倒な奴から先に片付けることしよう。」
「っ!?」
殺気をぶつけられ体が動かない。
マズイ!!
早くこの場から避けなければ、
速く!速く!!速く!!!
男と距離は離れているが、それでも自分の中で警鐘が鳴る。その場からもっと離れろと。
「消え去れ‥‥。」
男がこちらへ向き、左手を構える。
見えない何かがこちらに近付いて来ることは分かる。
男と自分との間にいる者全てが二分去れていくからだ。ワイトも兵士も植物も全て。
体の警鐘が大きくなる。
「ぐっ。」
すくんだ体を動かすために唇を噛む。
噛んだ箇所から血が出る。その痛みで硬直が解けたようで何とか下へしゃがむ事が成功。
本当に紙一重であった。
しゃがむと同時に見えない何かがしゃがむ前に体が立っていた所を通りすぎる。あのまま硬直が解けずにいれば、おそらく腹から下と上に真っ二つにされていただろう。
「はあ、‥‥はあ、‥‥‥はあ」
咄嗟に動けたものの恐怖で息が荒ぐ。
そして、顔を上げると恐怖の光景が広がっていた。血塗れ真っ二つに両断された兵士達の亡骸とワイトが消滅して黒い塵が舞っていた。
「寸でに避けられたか。ならば、もう一度するだけだ。次は無い。」
男が構えた左手を下ろして右手を構えようとする。それは恐怖しかない。
もう一度アレを避けることなど不可能だ。恐怖で足の震えが止まらない。
「させません。」
女性兵士が男の背後から斬りかかる。男は右に回転するように避ける。そして、彼女に何かを投擲する。
彼女は投擲させる何かを剣で弾き落とす。
「炎よ、剣に纏いて敵を斬り裂け
【爆炎斬】」
再びあの魔法を発動させる。発動した魔法は彼女の剣に炎を纏わせてその剣を振る。
男は再び左手を前に構える。
振られた剣の爆炎と男の見えない何かが空中でぶつかり両方が消滅する。
「姫様には、指一本たりとも近づけさせません。」
「やれる物なら、やってみるが良い。」
女兵士の剣撃と男の攻撃がぶつかり大地を揺らす。
両者共に引けを取らない。その動きには無駄が一切無い。見惚れてしまう程の攻防である。
目で追ち切れない連撃の嵐が戦場で繰り広げられる。