激戦 前半
再び魔力の光が吸収される。
それに伴い、ごっそりと殲滅魔法、
【ヘリアンテス】に魔力を吸い取られる。
ポーア自身も顔から血の気が引くのが分かる。魔力欠乏症に陥る一歩手前。
―――太古の時代、まだ魔王が生きていた頃に、
この魔法【ヘリアンテス】は生まれた。
空気中の魔力と自身に流れる魔力を一つに圧縮し、高密度の光を向日葵の花びらの中心から打ち出す魔法だ。
圧縮された魔力の塊が高熱の光となって全てを灰へと変える。伝説によれば、この魔法で迫り来る魔王軍を一瞬で滅ぼしたとされている。
しかし、その代償として、魔力の殆どを吸い取られる。魔力が少ない者であれば、一発撃つだけで死に至るとされている。
当然、二発目を撃とうものなら、命に関わる。
故にその使用はドルイドの秘術の中でも特に、制限されている。
「う、くっ‥‥‥‥!」
ポーアは、その制限を破り、無理を通して二発目を撃とうとしている。―――当然、体にも負担が掛かり、全身に痛みが走る。両腕から斬り付けられたような傷が開き出血する。
「諦めてなる、ものですか!!」
クラクラする頭と両腕の傷の痛みを我慢してひたすら魔力を流せるだけ流し続ける。
魔法の維持と打ち出す弾の魔力で体内に残された魔力が尽きそうだ。
うううううううがっ!!!
兵士達の攻撃網を抜けたワイトが数体、おぼつかない足取りではあるが、小走り気味に迫り来る。先程の攻撃で先に排除する対象がわたくしに切り替わったようだ。
まだ射出まで時間が掛かる。
一発目と違い、二発目は充分な魔力供給が自身からあまり出来ないため空気中の魔力を大量に必要とする。自身の魔力と違い空気中の魔力を扱うことは勝手が違う。そのため時間が掛かる。
うがっ!!!
ワイトが飛び上がり襲い掛かって来る。
(っ!!ここまで来て‥‥‥‥)
首筋に喰らい付こうと腐りかけの口を大きく開き歯を剥き出しにする。いきなり大きく開いた影響で口周りの皮膚が裂ける。重力に任せて空中に飛び上がったワイトの体が頭上から落ちてくる。
ワイトを向かえ撃てる程の余力は欠片も残っていない。【ヘリアンテス】をここで中断すれば次に撃つことなど不可能に等しい。
目前まで迫り来るワイトに何も出来ない。
うわがっ!!!!
涎を垂らしたその裂けた口で襲い掛かって来る。
「炎よ、魔を滅し燃え上がらせよ、
【炎の矢】」
炎の矢がワイトの横から貫く。矢が刺さった勢いで迫っていたワイトの体が横に飛び、その体を地面に叩きつける。そして、炎がワイトの体を燃やして行く。
「姫様!!守りは私達がします故、姫様は秘術に専念してください!!」
振り返ると、先程戦えない人達の避難を命令した数人の兵士が駆け寄って来る姿が目に入った。その中には女性兵士も混ざっている。
「貴方達‥‥‥。一緒に避難を命じた筈ですが、」
剣を抜き、残りのワイトへと斬りかかっていく。
「姫様、どうかお許し下さい!!しかし、国の一大事の時、自分達だけ安全な場所で兵士を勤める為に兵士になった訳ではありません。こんな時だからこそ兵士の本懐を全うしたいのでございます。」
女性の兵士がそう答える。その言葉には彼女の信念という物が感じ取れる。
他の駆けつけた者達も物怖じせず、
勇敢にワイトの対象をしている。
そんな彼女達を罰することなどどうして出来ようか。
「‥‥‥‥分かりました。では、貴方達に命じます。わたくしが無防備なこの状況下でわたくしを守りなさい!
しかし、その命を無駄にする事など無きように。必ず生きて勤めを果たしなさい!!」
彼女達の意志を汲み命じる。
生きてこそ意味がある。
死を覚悟で命じたわたくしがそう言える立場に無いことなど重々承知であるが、多くの者が生き残って欲しいと思える。
これは一種の願望なのかもしれない。
傲慢なのかもしれないが、それでも願う。
彼等、彼女等の健闘を。
「はっ。慎んでお受け致します!」
威勢の良い女性の声が返って来て、そのまま駆けて行く。剣を引き抜きその勢いでワイトへと突撃していく。
「はあああああ!!!」
うううううううがっ!!!
ワイトの腕によるぶん回しを華奢なその足で華麗に避けてその腕を剣で切り落とす。
そして、そのまま剣でその首を斬り落とす。
背後から三体が同時にその女性兵士へと襲いかかる。
「炎よ、剣に纏いて敵を斬り裂け
【爆炎斬】」
彼女の持っている剣から炎が顕現する。そして、振り向き様に剣を振る。
振った傍から空気が爆発して、三体のワイトを爆炎で吹き飛ばす。
消し炭となったワイトは骨も残らずに消え去った。
「す、凄い‥‥‥。」
魔法の威力、そして、剣の腕前もさることながら、何より驚きを隠せないのは魔力属性である。
ドルイド族は基本的に木属性、つまり"植物に関連する魔法"しか使えない。稀に水属性を持っている者はいるが、元々の適正が木属性に偏っているため、それ程の威力は無く、あくまで木属性の補助という感じである。
その筈なのだが、目の前の女性兵士は火属性。―――木属性とは相性の悪い筈の属性を使った。ドルイド族では有り得ない筈の魔力属性である。
ヘルメットで顔ははっきりと見えないが、彼女の周りに揺蕩っている植物からして、ドルイドであることは間違いない筈である。
「姫様、後どのくらい猶予が必要なのでしょうか?」
彼女の事であれこれ考えていると、質問がくる。
「‥‥‥あっ、そ、そうですね。」
(いけません、いけません。今は目の前の事に集中しなければ‥‥‥。)
頭を切り替えて考える。残り少ない魔力ではあるが、既に自身の魔力からの充填は完了している。残りは、空気中の魔力吸収に時間を取られている。それらを踏まえて残り時間を考える。
そして結果が出るとその事実に下に俯いてしまう。
「‥‥‥‥あと、三十弱程でしょうか。」
三○分。一刻を争う程状況が悪化している中で三○分は長い。
「‥‥‥‥。」
ポーアは、自分の力なさと申し訳なさで一杯になる。自然と握る拳に力が入る。
「‥‥‥‥そうですか。」
女性兵士は剣を鞘に戻しながら、ちらりとポーアを見る。
「心配なさらずに魔法発動に専念してください。私も死なないように立ち回りながらそれまで時間を稼ぎます。」
そう言い残して一番激しい攻防が繰り広げられている前線へと走っていく。
その言葉に少し救われたような感じがした。
「‥‥‥‥ありがとうございます。」
その言葉に感謝しながら何としても魔法を発動させるために全神経を集中させる。
2発目の殲滅魔法の発射に向けて着々と進めて行くポーア。そして、炎を使う謎のドルイドの女性兵士。
二人の活躍に今後、ご期待下さい。