死者の王
更新が遅れていますがまだまだ続きます。
震えが収まらない。
なんとか、正常を保っているが、少しでも気を抜けば、意識が飛びそうになる。
額から冷たい汗が流れるのが止まらない。
「‥‥‥はあ、少しは強い奴がいるかと、期待していたのだがな。わざわざ引き受けた俺が馬鹿だった。こんな雑兵どもだけならテメェらだけで十分だろ。」
黒服にフードで顔を隠したその人物が落胆のため息を溢す。
その言葉は冷たくまるで刃物のように鋭い。
「これも仕事だ、クロ。引き受けた事には感謝するが、引き受けたからには最後までしなければならないぞ。」
「チッ!!!」
黒服の声からして男?が木の壁(通路)を破壊した背の小さめな黒服の片割れを制する。
背の小さい方も舌打ちをしながらも入ってくる。フードの奥で睨み付けながら殺気が増す。その殺気で息が詰まりそうだ。
「!!!」
黒服の二人組の後方から侵入してくる敵兵を目の当たりにして血の気が引いていく。
今残っているこちらの残り兵士の約五倍。正面からやり合えば、確実にその数で押し潰される。
「始末はテメェらだけでやれ。
俺はやる事があるからな。邪魔するというなら、……わかるだろ?」
「‥‥‥‥‥」
そう言うと、黒服の片方が背を向けて下がっていく。
「ま、待ちやがれ!!!」
兵士の一人が飛び出す。
そして、下がって行く男へ斬りかかろうと腰の剣を引き抜き突進していく。
「止めなさい!!!」
飛び出した兵士を止めようとするが、もう遅い。兵士は黒服に斬りかかる一歩手前まで来ている。周りの敵兵は見ているだけで微動だにしない。
「敵に背後を見せるとはいい度胸だな、
チビ!!
何者か知らないが、叩き斬ってやる!!!!」
背中を向けたその人物の魔力の揺らぎを感じる。魔法を発動する合図だ。普通の人ならば、揺らぎは大きいが黒服の揺らぎは誤差程度にしか感じ取れない。
「【ーーー】」
何が起きたのかわからなかった。
しかし、目の前で起きている光景だけが残酷な事実としてそこにあった。
斬りかかった筈の兵士の剣が消えていた。
士の数メートル後方でカランという音がした後、地面を滑るように剣が転がる。
剣にはしっかりと握り締められた腕と共に。
空気が凍てついたかのように、冷たく感じ呼吸しづらい。ゆっくりと、飛び出した兵士へと視線を戻す。そこには、先程まで両手が合った筈の兵士が何をされたのか分からずにいた。
そして、止まっていた時間が進み始めるかのように鋭い何かで切り落とされたような傷口から血が噴水のように噴き出す。
「ぎゃあああああ!!!!お、俺の腕‥‥。俺の腕が!!!!あああああ!!!!」
兵士が痛みでのたうち回る。何を発動させたのか見えなかった。小声で何かを呟いたのは分かったが、遠すぎて聞き取れない。
しかし、こんな短時間で魔法を発動させるということは、それだけの実力を備えているということだけは理解できる。
(一体何が、起きたのですか‥‥‥‥‥。)
恐怖で足がすくむ。
目の前には絶望が広がっている。
―――攻撃も、魔法も、力も、全てが格上。
逃げる事も防ぐ事も敵わない。
目の前が暗闇の状況で、兵士の斬られた痛みにのたうつ声だけが声を反響する。
その声で我に返る。
(助けなければ‥‥‥。)
恐怖を抑え込み助け出す為に踏み出す。
しかし、
「‥‥‥‥‥‥うるせえ。」
その声と共に何かが転がる兵士に投げられると、痙攣した後、事切れ動かなくなる。
その兵士の喉に鋭い何かで引き裂いた切り傷ができおり、そこから血が溢れる。
「なっ‥‥‥」
‥‥‥死んだ。また一人死んでしまった。
引き裂かれた喉から流れ出た血が血溜まりとなって地面に流れる。
「雑魚は雑魚らしく、黙ってやられてろ。
それが雑魚の最大限の配慮と言うものだ。」
黒服の無慈悲で冷徹な声が兵士の亡骸と成り果てたソレに掛けられる。その言葉に怒りを覚えるが、今飛び出しても、先に飛び出した兵士の二の舞だ。
右手を左手で押さえつけながら怒りを抑え込む。
「‥‥‥‥さっさと片付けろ。」
もう一人にそう言い残し、止まっていた足が来た道を引き返していく。
その姿が暗い入口の闇の中に吸い込まれて消える。
「相変わらず隙もない。‥‥‥‥では、殲滅と行こうか……。」
残ったもう一人が懐から玉のような何かを取り出す。
「ここで戦力を投入して削られる事は避けたいからな。お前達は下がって結界でも張っていろ。」
そして、指示を出すと、一歩後ろに引き下がり線を引いたかのように一定の間隔を取りそこで結界を張るための呪文を唱え結界魔法を発動する。
透明な壁が男の背後全体を部屋の壁から壁へと覆う。
「敵兵達よ、忠告だ。いますぐ降伏しろ。
さもなくばこの国、諸ともその命も奪う。」
黒服がそう告げる。雰囲気からして冗談ではない、本気だ。
しかし、ここで退く訳にはいかない。
「‥‥‥残念ですが、
その忠告には従いません。
私達はこの国のため、民が幸せにあるために戦っているのです。
あなた方に降伏したとして、その先に待つのは『民の幸福』などではありません。
私利私欲にまみれた凶行のみ。
そのような輩に屈する訳に参りません!!!」
震える唇で勇気を奮い立たせてそう答える。振り向くと、此処に残っている兵士全員が決意の目を持って臨戦態勢に入っている。
「‥‥‥‥そうか。では、その民とやらと共に朽ち果てろ。」
黒服の男はそう言うと、兵士の亡骸の中心、心臓付近にその球を近づける。
球は吸い込まれ消える。そして、死体がむっくりと起き上がる。そして、
ううううううっ
肉が腐食し、体が巨大化していく。
切り落とされた両腕がいつの間にか体にくっついている。
「‥‥‥‥ほう。中々の物が出来上がった物だ。まさか、只のドルイドの死体から『死者の王・ワイトキング』が生まれるとは」
その言葉に驚く。人を魔物化させたのだから。
玉を埋め込まれたソレは変身を終えたのか、巨大化が納まる。
うううーーーっ!!
腐りかけた肉から凄い腐臭を漂わせる。そして、うなり声で叫ぶとその周りに光の柱を作り、そこから人間サイズの死体、ワイトを出現させる。
「さあ、狩りを始めろ。そして、全てを喰らい尽くせ!!!!」
何体いるのか分からないワイトがゆったりと迫って来る。