強い意志
「‥‥‥‥‥」
現状を聞き言葉が出ない。
どうやら、ここで助けが来るのを待っていたのでは無く、立ち往生していたようだ。
外は敵に囲まれており、扉を開けた瞬間に魔法を受けて射殺されてしまうようだ。
既に怪我人と死者を出している。殆どが先導していた兵士である。
何とか扉を塞ぎ、立て籠ったものの破られるのも時間の問題のようだ。
外の繋がりがある貴族も何人かいるが、混乱のあまり錯乱して話を聞ける状況ではないようだ。
「‥‥‥‥引き返すしかありませんね」
外に出ればどうにでもなると思っていたが、それを絶たれた今、引き返すしかない。
街に戻れば街に残っている兄様やネスク様の助けを受けられる。怪我人もミレド様とクーシェ様がいればなんとか治せる。
ここは撤退をするしかない。
「あの、お話の途中失礼します、姫様。」
兵士の一人が手を上げて意見を言ってくる。
まだ年端もいかない少女の兵士である。
「どうかされましたか?」
小首を傾げながらその兵士の話に耳を傾ける。
「こちらにいる方々の体力は既に限界に達しております。退くにしても、こちらへ到達する時に要した以上の時間が掛かります。その間、敵が待ってくれるとは思えません。でしたら、こちらで迎え撃つ方が賢明ではと思います。」
「‥‥‥‥確かにそうですね。」
周りを見渡す。皆、表情が沈んでいる。
元気な子供も限界のせいか大人しい。
「では、兵士の方と私とでこの場にて食い止めます!その間に貴方と住民の方々は引いて下さい。」
その若い兵士と残っている兵士が驚愕のあまり見開き固まる。
「だ、ダメです!!姫様!!貴方様にもしもの事があればこの国はどうするのですか!!?」
最初に硬直が溶けたのは手を上げた女性の兵士であった。
「いえ、貴女方だけでは持ちません。私がいれば何とか持ち堪える事が出来るでしょう。ならば、此処で私が粘らなければ、街にいる皆様も危険です。」
「ですが‥‥‥」
まだその兵士は何かいいたそうであるが、私の意志は硬い。クーシェ様がその身を危険に晒してまで作って下さった道を此処で潰える訳にないかない。それに手が無くも無いのである。
「そうと決まれば、準備を‥‥‥」
と言い掛けた時、
ドガーーンッ!!!!!
何かが破壊される音が聞こえる。
「マズイですね。兵士の方々の一部は避難誘導を!!魔法を使う方は私の手伝いをお願いします!!!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
私の手伝いと避難誘導とに別れる。
入口に小走りで近付き、両手地に付ける。
「【大樹の壁】」
地面から無数の木が伸びて来て出口の扉へと通じる通路を塞ぐ。まだ一部とはいえ、ミレド様に無詠唱のやり方を教わっていて良かったとこの時、実感する。
「っ!!!来ます!!!皆様!!強化をお願いします!!!」
塞ぐ時は何もなかった筈なのに衝撃が走り、樹木の壁を壊そうとする音が轟く。
「「「「了解です!!!樹木よ、我は求める。その身で塞ぎ全てを祓え!!」」」」
ニョキニョキと詠唱と共に伸びてくる。
「「「【蔓の壁】」」」
蔓が大樹に絡み付き壁の補強をする。
その間も衝撃が壁に当たる。
ドーンッ!!!ドーンッ!!
「皆様の避難終わりました!!これより私も引き返します!!!」
振り返ると、女性の兵士がいた。
「そうですか。では貴方にこれを渡しておきます。」
ポケットから真っ赤に染まった布を渡す。
「これは?」
女性の兵士が聞いてくる。
「それは私の血が染み込んだ布です。こちらに来る途中に魔法陣を構築して、もしもの際は街の広場に付くようにしております。
それを使いなさい!!後の事は貴方に任せます。‥‥‥‥よろしくお願いします!!!」
そう言うと、壁に再び集中する。兵士の方は一礼して、来た道を翻して大急ぎで戻る。
バーンッ!!!!
そして壁が突破される音がする。
「ふう、‥‥‥たくっ、スゲエ硬いなこの壁、一体どこの誰がこんな物作りやがったんだ?
ああっ!?」
その声を聞いた瞬間に寒気が走る。
手の震えが止まらない。
「貴方は相変わらずですね、クロ。まあ、貴方の強さなら出来無くも無いでしょうが、もっと慎重になるべきです。」
煙の中から黒いローブを羽織り、顔が見えない男達が入ってくる。
男達からは殺気を着込んだように濃密な死の香りを漂わせていた。