焔の刃
クーシェはローブが取れ、素顔があらわになり、思わず目を見開く。
「‥‥‥人、族」
人族とは思えない程、巧みな攻撃手段だったため、その事実にクーシェは、驚きが隠せない。
「この顔を見られたからには、絶対に!!
ソナタは必ず殺める。生きては返さぬ!!!」
クーシェは、殺気が込められた視線に思わず、たじろいでしまう。
背筋がゾクッと寒気が走る。
しかし、ここで立ち止まる訳にはいかない。気をしっかりと持ち、構え直す。
殺気と共に先程から部屋の空気の向きが変わったように感じる。空気が男へと流れていく。
流れが強くなり、男を中心に竜巻となって舞う。足の力を抜くと吹き飛ばされそうだ。
しばらくすると、
竜巻が収まり、男の周りを渦巻いていた風が収束する。
そして、砂煙の中で男が動く。
「!!!」
何かが動く気配を感じ上へジャンプする。
風の刃が通り過ぎ絡まっている木の根をさっくりと切り裂く。
威力も速度も上がっている。
「もう油断などせぬ。このまま終わらせてくれよう。」
上から声と共に衝撃が降り注ぐ。
咄嗟にガードをしたため、それほどのダメージは食らっていないが、地面へと落ちる速度が上がる。
身を包んでいる炎にイメージ。
炎が全身を包んでボール状になり、落下した際の衝撃を緩和させる。声のした空中を見るも、―――そこには誰もいない。
「どこに、いったのですか?」
クーシェは、キョロキョロ見回していると、背後に気配を感じ身を屈める。
頭があった所に、風を薄く鋭く込めた手刀が横切る。横切った後には、
壁にその跡がくっきりと出来上がる。
掌に炎を集中させて、心臓付近へ爪を立てて叩き込む。
炎の鉤爪へと昇華し、男の体を貫く。
―――火柱が上がり、消し炭と変わり消え失せる。
確かに手応えも残っている。しかし、
「これを使った我を、一人だけ潰しても意味はない。―――さあ、思う存分踊れ!
我は幾らでもいるのだからな。そして、疲れ果てたその時、ソナタの最後だ!」
「っ!!」
男の言った通り、確かに一人。
その感触も本物だ。しかし、部屋全体に同じ背格好の男が大量にいる。
まるで、同じ人物が増えたかのようにそこらじゅうにいる。
「【風の分身】。我を生み出し、あらゆる戦力差をひっくり返す技。ソナタに勝ち目なぞ無い。」
無数の人物が一斉に攻撃体勢で襲い掛かる。
このままでは、相手を倒し終わる前に串刺しにされ、一瞬で終わる。
「魔力はイメージ。イメージが明確な程、発動出来る魔法の出力は上がるのです。」
遅い来る敵を前に、心臓に手を当て、集中力を高めて発動する。
「全魔力解放です。私の魔力を食らって燃え上がりなさい!!」
迫り来る敵の動きがゆっくり動いているかのように感じる。
まるでスローモーションの世界にいるかのように男達の動きがわかる。
そこにいない何かへと声をかけ、全身に流れる魔力を魔法に全て変換していく。
赤い炎が青い炎へと変化し、クーシェの体に纏う。再び四つん這いとなり駆ける。
風の刃の嵐が襲う中を狼のような足へと変化した青い炎で駆ける。
そして、敵に近づくと青い炎の鉤爪で一閃、青い炎で次々に敵が焼かれていく。
背後からの攻撃は、炎を纏った二本の青い焔の尻尾が薙ぎ払う。
「な、何故だ。何故、ソナタのような小さな体にそのような力が出せる!?」
男に動揺が走る。己が炎に包まれ悲鳴を上げている光景はまるで地獄であろう。
まだまだ数のいる男達の攻撃がことごとく弾かれ確実に一人ずつ減っている。
「こんな所で倒れてなどいられません!!!
貴方は此処で倒します!!
それが今、私に出来る最大限の事なのですから!!」
青い火炎の球を三本の尾で作り、拡散する。
球に触れた分身体が青い炎に包まれて消滅する。この攻撃で一気に敵の数が減る。
「くっ、もう良い!もっとだ!!ソナタにムダな時間を割くくらいならばいっそ、本気で潰してやろうぞ!!!」
男がそういうと再び男の分身体が生まれでる。
しかし、クーシェにはその分身体からの攻撃は一切当たらない。
「何故だ!!何故、我の攻撃が入らない!?」
男の動揺と焦りが分身体にも現れ始めた。
先程から音がしなかった男の動きに音が耳に届くようになっている。
「‥‥‥貴方はこの魔法で無数の自分自身を生み出す代わりに、音を消し去る風の魔法の効果が失ってしまっております。
音があれば、幾らでも対処など可能です!!」
男を次々薙ぎ倒しながら答える。今の状態で、後どれくらい持つのかわからない。これで終わらさなければならない。
「認めぬ。我は認めぬ!
ソナタなんぞに、獣人の娘風情に!!我が破れるなどあってたまるものか!!!!」
男の一人の手に風が渦巻き、集中する。
「我、万物万象あらゆる物を破壊せん、我の言の葉において破壊の風よ、全てを無に帰せ」
分身の一人を炎で薙ぎ、消し炭にした所で詠唱が完了する。
そして『全てを破壊する風』が吹く。頭の中で警鐘が鳴り、背筋が凍る。
あれを諸に食らえば、骨も残らない。
「【暴虐の風巻】」
一定の方向性など無い乱方向に旋回する巨大な竜巻が男の手から放たれる。
無数の風の刃が地面を抉りながら轟音共に、秒速2メートルで突き進んでくる。
避けようにも突き進むに連れ、巨大な風の嵐となって迫り、暴風で避け切れない。
「避けられないのでしたら、突き進むまで、です!!」
更に魔力を魔法へと変換させる。
青い炎の火力が増し全身を覆う。尾の炎の球が体を覆う炎に吸収され、『蒼炎の狼』へと姿が変わり、迫る暴風の嵐へと、
真正面から突っ込み嵐の中へと消える。
「フハハハッ!!愚かなり!!我の魔法を易々と切れ抜けられると思っているのか?
否!!否否否否否否否、否だ!
そのまま塵芥とかし、消え失せろ!!!」
風の嵐の勢いが増す。
今にも、全身に纏っている炎が、風の勢いに負け吹き飛ばされそうだ。
「くっ、うっぐ!!」
全身に無数のかすり傷ができる。そこから血が溢れ出す。痛みで気が遠くなるのを堪えて一歩、一歩と前進していく。
「負け、ないの、です!!」
鋭い蒼炎の爪で風の刃の嵐の中を踏み込む。
一気に数メートルの距離を縮める。
「はあああああ!!!」
炎の火力が更に増し、全身の傷口から流れる血が燃え上がり一気に炎で癒える。
―――全神経を集中させる。
迫り来る風の刃を紙一重で避ける。
そして、魔法の根元を捉える。
根元を攻撃する事でこの魔法は止まる筈だ。
「【焔の刃】!!!」
蒼炎がクーシェの心の中の炎が如く変化する。炎が刃となり、この魔法の根元を真っ二つに切り裂く。