炎狼のクーシェ
昨日更新が間に合いませんでしたので、今日更新します。
「貴方が、兄様を‥‥‥。」
頭が冷え渡っていく。
しかし、体の方は沸騰するかのように熱い。
「‥‥‥ほう、アレはソナタの兄であったか。兄妹揃って我に殺められようとしているとはな。何とも数奇な巡り合わせよ。ククク、‥‥‥安心せよ、痛みも苦しみもなく逝かせてやろう。兄の所へと、なっ!!」
数mの距離を詰めてきてダガーが振り上げ、クーシェへと振られる。
迫る凶刃。毒のせいで、視界がふらつき揺れる。
一撃目をふらつく中で避ける。
しかし、二、三擊目が直ぐにやって来る。
先程とは逆の手に気付かないように、握られていたダガーと逆手に持ち変えたダガーが交差するように振られる。
「っ!!」
紙一重で避けるも、頬に切り傷が出来る。
そして振り上げた後、下から上へ突き上げるような形で直ぐに片方のダガーが迫る。
―――やられる。
何とかこの状況を打破しようとする。しかし、脳では分かっていても、体が鈍く、
――追い付かない。
(兄様‥‥‥‥。)
あの日見た最期の姿が脳裏を過る。
戦場へと赴く兄の背中。
このまま死んでしまえばこの人の言うとおり、兄の所へ行くであろうか。
でも、残された者はどうなるのだろうか………。
ミレド様、ネスク様は悲しむだろう。
血の繋がりは無いが、家族の死は自分の心を締め付けて放さない。それは、それだけは、
私自身が許せない
あんな思いを大切な二人にさせたくはない。
動け、動け、動け、動け!!!
走馬灯のように考えを巡らせていると、
体の熱がどんどん上昇していく。
ダガーが振り上げられる。
「何、だと!?」
しかし、黒装束の者が持っていたダガーは、クーシェに届くことはなかった。
下から心臓目掛けて繰り出されたダガーは、クーシェに刺さる手前で動きが止まり、そこから先には刺さらない。まるで、何か見えない物に阻まれているかのように動かない。
「っ!!」
黒装束の者はダガーを手放して退く。ダガーは、真っ赤になると共に燃えて跡形もなく消え去る。
「ソナタのその力、一体何だ!?」
男は驚きと得体の知れない何かへの恐怖が混ざり合う。音の発した声音から感じ取れる。
「‥‥‥‥。」
意識が朦朧とする。そして、体が火に炙られているように熱い。体温が四◯度はあるのだろうか。
もっと幼かった頃に、熱に冒され生死をさまよった時の感覚に似ている。
‥‥‥でも、今はこんなことで倒れてなどいられない。この人は此処で倒す。
でないと、私の次にポーア様が危ない。
自然と四つん這いの姿勢になる。
まるで、本能がそうあるべきだと告げている。
傷が消え去った両手と足で地面を蹴る。
「!!!、どこ行った!?」
目の前の人物が姿を見失ったせいかキョロキョロと探している。しかし、もう遅い。
「ここ、です。」
背後に回ったクーシェへと振り返りざまに残ったダガーで薙ぎ払ってくる。先程と違い体が軽い。
ダガーの攻撃をひらりと躱し、炎の尻尾で弾き飛ばす。
そして、溝落ちに拳を叩き込む。
「ぐ、はっ!!」
炎を纏った拳がめり込みと、回転しながら、スピードも衰えることなく吹っ飛び、壁に激突して砂煙を上げる。炎により火力が増した、その攻撃は、最初の攻撃の時より遥かに威力が上がっている。
壁に激突した後を見つめるクーシェの姿はさながら、炎を纏う狼のような姿へと様変わりしていた。
手応えは確かに合った。
魔力で緩和させるような時間も与えなかったので、確実にダメージは与えた筈だ。
自身の手を確認すると、メラメラと自分の回りを赤い炎が生き物のように纏わり付く。
無我夢中で気付かなかったが、魔力が沸き上がってくる。まるで、空気中の魔力を自身の魔力に変換しているかのようだ。
ヒュッとする音に耳が反応して、クーシェの体が無意識に動く。横に避けると元いた場所に鋭い風の刃が通り過ぎる。
「ハア、ハア、ハア‥‥‥‥‥‥油断した。
まさか、こんな土壇場でそのような力を見せるとは……。」
「‥‥‥まだ、倒れていなかったのですね。」
刃がやって来た方向を見ると、先程の男が立っていた。息切れに傷口からの出血でぼろぼろ。流石の男もダメージは効いているようだ。
顔を隠していたローブが取れている。
無造作に伸びた茶髪の男の人間が立っていた。先程の攻撃で額から血が出ている。
様変わりしたクーシェ。
これは後々の話にも繋がる変貌です。
通常のクーシェと違い、筋力・俊敏性・耐久が桁違いに上昇しています。