侵攻開始
「ポーア様、首から下げていらっしゃるそのペンダントはどうされたのですか?」
ハーブティーを味わっていると、クーシェが問い掛ける。
ポーアの胸の辺りでエメラルド色の石がはめられたペンダントが気になったようだ。
「ネスク様から頂いた物です。何でも私に必要な物だそうです。」
ネスクは後日。ヒサカキから貰った石をペンダントに加工してポーアに渡したのである。
「‥‥‥キレイな石ですね。ポーアに必要なモノとは一体どういう意味なのでしょうか?」
「さあ、私にもその意味がよく分かりません。ネスク様も理由までは知らないそうですから。」
カップを小皿の上に置いて、胸元の石を手に取り見る。
「‥‥‥‥‥。」
ミレドが何か考えながら、その石を凝視する。すると、突然エメラルド色のその石が光を発する。
「ひゃ!!何?」
「ふぇ~!!」
「!!」
三者が突然の事に驚く。
『逃げて』
光の中で声が聞こえた。
「今、何か聞こえました?」
「はい、私も聞こえました。」
「‥‥‥‥この声、やはりそうか!」
二人は声が聞こえて驚き、ミレドは納得した。
ドンッ!!
地面が揺れて、外で大きな爆発音した。
揺れの勢いでカップがテーブルから落ちて割れる。
「何ですか、一体!?」
ポーアがその音に驚いている。
静かに広範囲探知を発動する。
頭の中のマップに赤い点が自分達を囲むように表示される。
そして、その赤い円が此方へ迫ってきている。
「まずい事になっておるのう。結界が消えておる。」
二人が唖然とする。
*****
暗い空間で誰かが囁くような声がする。
(‥‥‥ああ、またこの夢か。)
しばらくは見ていなかったその夢を久しぶりに見る。
「‥‥‥て」
何かを伝えようとしているのだろうが、うまく聞き取れない。
「お前は誰だ!どうして俺の夢に出てくる?
一体何を伝えたいんだ!!」
「‥‥‥‥‥‥‥。」
暗闇に人影のようなシルエットが浮かぶ。
しかし、そのシルエットの顔を拝むことは叶わない。次ははっきりとした声で聞こえる。
「忘れないで、私はあなたの味方。
いつか、刻が来れば分かる。」
その声で違和感を感じる。以前の夢より、毛色が違うと本能が囁く。
ドンッ!!
その音が響き飛び起きる。
キョロキョロと見回す。借家している部屋だ。
寝る前と変わった様子も何処かが壊れた様子もなく、部屋は無事のようだ。
体を起こして設置されている窓から外を見る。
外が明るく、遠くの方で赤い何かが蠢いている。
「【探知】」
【探知】で魔力反応を確認する。今まで散々戦ってきた魔物だ。しかし、
「どういうことだ?‥‥‥‥‥なんで、動きが統率されているんだ?」
通常は魔物は統率された動きをとることはない。群れとして、統率出来るリーダーがいればする事が可能であるが、魔力の反応からして、別々の種類の魔物が統率された動きで迫っている。
ということは、
「人的に操られている可能性があるな。」
遠くで魔物の雄叫び声がする。
バタバタと一階から駆け上がってくる音がする。そして、扉が開け放たれてクーシェが入ってくる。
「ネスク様!!」
「クーか、準備をして表に集合だ。まずい事になっているようだ。出るぞ!!」
「!!、分かりました。では、のちほど!」
扉を閉めて更に上の階に登っていった。
「さてと、」
部屋の隅に立て掛けてある愛刀を腰に差して準備をしていく。
小型のナイフを取り、アイテムポーチを懐にしまいこんで部屋を出る。
表に出ると先に準備を済ませていたミレドとクーシェがいた。
「ネスク様‥‥‥。」
ポーアも来ていたようだ。とても不安そうな表情をしている。胸元にはあげたペンダントが光を放っている。
(前に見た時はあんなに光っていなかったと思うんだが。‥‥‥今は置いておこう。)
頭のスイッチを切り替えて今の状況の打破へと足を踏み出す。
****
「グヒヒヒ、グヒャヒャヒャヒャ!!まさか、これほどあっさりとあの結界を突破するだ二か。あの厄介極まる結界が紙を破るかのようにあっさりと!!愉快!愉快!
さあ、貴様ら!!宴の時間だ!!さっさと奴を此処に連れて来るだ二!!」
「「「おおお!!!!」」」
停止していた列が陣形を取り、結界があった筈の箇所を通過して踏み込んでいく。
赤い瞳の獣が進む軍団を無視して中へと入っていく。
「まさか、魔物どもを手下にしているとは奴らも思わないだ二ヨ。ヒャヒャヒャヒャ!!
ガヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
ナザラの狂喜にも似た笑い声が響く。
侵攻開始です。
全方位を敵に囲まれて結界も消滅、この危機的状況をどう切り抜けるかは次回です。