武技
一日空きましたが更新します。
「ぷは~!!食ったのじゃ、食ったのじゃ!!
もう食べられないのじゃ!!」
ミレドが自分の腹を擦りながら
――満足そうな表情を浮かべている。
「‥‥‥‥‥相変わらずよく食うな。
一体その体のどこにこんな量の食べ物が入るんだよ。」
天井付近まで積み上げられた皿を見上げる。
どの皿にも、山盛りと言っていい程の料理が盛られていたのだが、
今は皿の残骸しか残っていない。
「おぬしは、もっと食うべきじゃ。
育ち盛りなのじゃから、たーんと食うのじゃ。たーんと!!」
「いや、見てるだけで腹も膨れるから。
それに、余り空いて無いしな。」
俺の前には数枚の皿のみがキレイに食べて重ねられている。
「‥‥‥お口に合いませんでしたか?」
横に座るクーシェが悲しそうな表情を浮かべて聞いてくる。ふさふさの赤毛の尻尾が萎れている。
「違うよ、クー。今日の料理もいつも通り美味しかったよ。今日は体を動かし過ぎたせいで、単純に食い気より疲労が勝っているだけだから。この三日間ずっと動き回っていて疲労も限界にきているからな。」
「そうでしたか。体調はよろしいのですか?
何処か具合が悪いとか....。」
「体調に問題はないよ。けど、腹が膨れたせいで眠いから、もう休むよ。それじゃ、お休み。」
そう言うと席を立ち、自分の部屋へと向かうために階段に足を掛ける。
「お休みなさい。」
「しっかり休息をとるんじゃぞ!!」
二人の挨拶を最後に二階へ消える。
*****
<ミレド>
「それでは私は後片づけをしますね。」
ネスクが二階へと上がると、クーシェが皿を下げていく。流し台にある水道のひねりをひねって水を出す。手際良く皿を洗い干していく。
「クーシェよ、妾も手伝うぞ。」
自分の前に積まれた皿を片手に載せて、流し台へと運んで行く。
「ミレド様はくつろいでいらしてください。」
「良い、良い。これぐらいはさせてくれぬか?今日はクーシェにもたくさん動いて貰ったからのう。これぐらいは手伝わんとな。」
片手に載せた皿を渡して、皿を取りに戻り、
その皿を流し台へ運んでクーシェに渡していく。
「ミレド様、ドルイドの皆様方が食料不足で苦しんでいる中で私達だけ、このような料理を食べていて良かったのですか?」
「これぐらいの事は良いじゃろう。殆んどの事を妾達でやっておるのじゃからな。」
二日間、ずっとドルイド族の立て直しの為に励んでいるのだからこれぐらいは多目に見て欲しい。
魔物の駆除に始まり、クーシェとネスクに頼んだ怪我人の治療、朝の彼等の特訓による軍備強化。更に今日一日は、クーシェに頼んで獣を狩って貰っていた食料調達に水の確保などこの三日間ずっと三人であたっていたのだ。
「夕方のネスク様とグラス団長様の試合、拝見しおりました。とても素晴らしかったです。」
「そうじゃな。あの戦いは凄かったのう。昔に比べるとアヤツの動きに無駄が無くなってきておるのう。妾が負ける日も近いのかのう。」
そう考えると少し寂しくなってきてしまう。いつの日か、自分を必要としなくなってしまうのではないと。
「はい!!あの最後の突撃は見事でした。
飛ばされた勢いを利用して、一気に団長様との間合いを詰めて、そこからの直球に思えたかと思えば、後ろに回り込んでそこからの一撃!!あの時のネスク様はとてもカッコ良く見えました!!」
洗っている手を止めて此方に顔を近づけてくる。
「お、おう。そうじゃな。」
余りの気迫に思わず後ろに退いてしまう。
最近のクーシェはネスクの事を語り出すと、止まらない。尻尾がブンブンと振られてまるで床掃除をするかのような勢いである。
本当にネスクの事を好きなんだなあと、思える。
「‥‥‥ところで、ミレド様?」
「ん?なんじゃ?」
「団長様は何故、魔力の籠ったネスク様の一撃を平然と受け止めていらしたのですか?
ネスク様が手を抜いていたとも思えませんし、かといってネスク様の攻撃が全然通用しないという訳でもありませんでしたよね?何故なんですか?」
止まっていた手を動かしながら質問している。
喋るか、手を動かすかどちらかにすればいいのに。
「それは場数の違いという事もあるじゃろうが、―――恐らくヤツの『武技』じゃろうな。」
「『武技』、ですか?」
「そう、"武技"じゃ。武技とは、その道を極めた者が発動させることが出来る剣術の一種じゃな。
まあ、簡単にいうと必殺の型という物じゃ。」
「そうなんですか。ミレド様も使えるのですか?」
「使えるといえば使えるが、妾は使わん。
”武技”は魔力を通さんで現象を起こす事が可能じゃが、その代償として、
型の動作をせぬと出来ぬようになってしまうからのう。少しの違和感ですぐに使えんようになってしまうのじゃ!!
クーシェももし、”武技”を使うのなら変な癖は付けぬようにのう。」
「分かりました。肝に命じます。ちなみに団長の"武技"はどういった物だったのでしょうか?」
少し考える。あの時のネスクの攻撃を防いだ際の団長の構え、その前の動作、そして、ネスクの剣筋。
「‥‥‥‥なるほどのう。アヤツの武技は恐らくじゃが‥‥‥‥。」
「それは、わたくしがお話致します。」
その声と共に出入りの為の扉がバタンと開く。
開かれた扉からいつもの少女が入ってくる。
いつものポーアだ。