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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2章 亜人連合国騒乱編
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グラス団長

 

  手汗で木刀が滑り落ちないようにグリップ部分の握り手をしっかりと掴んで構える。


  目の前の相手からはそれ程の凄みを感じる。


「いつでも良いぞ、坊主!

お前の強さじっくりと堪能させてくれ!!」


  肩をほぐしながらグラス団長がそう答える。その右手には木刀が握られている。

 特訓をしていた兵士諸君が周りで試合の行方を固唾を飲んでいる。


「わくわくするのう。ネスクがどの様に戦うか特と見物するのじゃ!

 わっく、わっく♪わっく、わっく♪」


  おい、何でミレドがそこで楽しそうにしているんだよ!!こうなった元凶さんが!!


 ミレドが目を輝かせて試合を心踊らせて楽しみにしている。

  ネスクがグラスと戦うことになったのはミレドのこんな一言が原因である。


『良いではないか。せっかくじゃから、年期の太刀筋という物を味わってみれば良いのじゃ。』




「ミレドの奴、後で覚えてろよ、

たっく‥‥。」

  ぼやきながら、グラスへと集中を高める。


「へぇー、坊主、お前。

見たことのない構えをするんだな。」


  居合いの姿勢に入り、集中する。


「これが俺の構えの一つだ。

驚き過ぎて腰を抜かすなよ、グラス団長。

あと、俺は坊主じゃなくて、ネスクだ。

ちゃんと名前で呼んで頂きたい。」


  体全体と木刀に再び魔力を込める。

  試合をする前に口にしたグレープと小休憩を挟んだお陰もあり、最高のコンディションで試合をやれる。


  魔力が全身に掛かると同時にそのまま踏み込む。グラスは動かない。


「はぁっ!!」


  そのまま抜刀。


 魔力を纏った今の居合いは歯の付いていない木刀でも魔物にダメージを与えられる威力となっている。


 当たれば、歴戦の者でも無事とはいかない。しかし、


「‥‥‥おう、中々の物だな。こいつは驚いたよ。

並みのアイツらじゃあ相手にならんな、こりゃ。」


「!」


  抜刀した木刀をいつの間に構えたのか右手の木刀で受け止めていた。


「はぁっ!!」

  追撃で二擊、三擊と連擊を繰り出す。

 それがことごとく弾かれる。


「あら、よおっ!」


  そして、押し返される。後ろにステップを踏んで下がる。

  目に魔力を集中させてグラスの魔力を見る。


(どういうことだ?)


  彼の振った木刀には一切魔力が流れていない。


 その上、先程押し返された力は魔力を纏っている自分より遥かに強かった。

なのに、魔力が一切使われていない。


「こないのか?なら、こっちから行ってやる!!」


 警戒していると、グラス団長が動く。

 ガッチリとした体格の割には素早い動きで迫る。


(くっ、速い。)


「おら!!」

  なんとかガードをする。


 ガンッ!!!


  鉄がぶつかったような木とは思えない程の音が鳴る。


(‥‥‥お、重い!)

  一撃で腕が悲鳴を上げる。


「俺の見立て通り、俺の一撃を止めるか!!

 なら、これならどうだ!!」

  連擊が繰り出される。

 一撃一撃が常人とは思えない程の重さである。


(ぐっ、まずい)

  ガードが間に合わない。

 その上、連擊の嵐がスピードを増していく。


「おら!!」

「ごっ!!」


  ガードをしたが間に合わず、

腹に一撃を諸にくらい、吹き飛ばされる。

  木にぶつかりそうになる直前、痛みを我慢して足で木を蹴る。


  魔力補助のお陰もあり、吹き飛んできた方向へと瞬時に飛ぶ。


「がら空きだ!!」

  空中で避けようのない攻撃が自分へと振るわれる。

「【霞み】」


  グラスの太刀筋がネスクを捉える。


「!」


  しかし、斬られたネスクの体が霧となって消える。


「こっちだ。」

  背後に回り、背中に木刀を振ると、ふいを付かれたせいでグラス団長の体が吹き飛ぶ。


「ぐっ。」

 

  ガッチリとした体格で、

 体重もあったため、それ程遠くに飛ばされなかったが、膝を着いている。ようやく、一撃まともに入ることが出来た。


「「「「おおおおおっ!!!」」」」

  周りで歓声がわき上がる。


「あの団長と互角!!」

「あの人間、スゲー!!!」

「人間ってこんなに強かったか?」

「私、惚れちゃいそうだわよ、あの子。」


「‥‥‥‥‥‥。」

  最後のは聞かなかったことにしよう。

  兵士の人達が盛り上がり、口々に感想を言う。


「まさか、俺に一撃入れるとは、俺の想像以上だ。坊主、‥‥‥‥いや、ネスク。」

  崩した体勢を戻しながら、グラス団長が喋りかけて来る。

  表情には嫌悪でも、敵意でもなく、称賛の意が込められていた。


「‥‥‥そりゃ、どうも。‥‥‥‥‥で、まだ続けるのか?」

  木刀を構え直し、聞く。

「‥‥‥‥‥いや、今日はここまでにしよう。時間も遅い、それに楽しみは置いておくに越した事は無い。お前との試合は楽しくなって来たからな。」


  グラス団長は木刀を下ろす。

 釣られるように構え直した木刀を下ろす。


「ネスク様~!!ミレド様~!!夕飯の準備出来ましたよ~!!!」

  遠くでクーシェの呼ぶ声がする。

 集中していたため気付かなかったが、どうやらそんな時間のようである。

「今日はこれまでじゃ!!!!良い物を見せて貰ったんじゃ!!おぬしらも精進するように!!それじゃ、解散じゃ!!」


  ミレドの締めで終了した。

 グラス団長は兵士の人達を引き連れて戻っていった。今日は朝から魔力と体力の使い過ぎでもう、ヘトヘトだ。


「それじゃ、帰るかのう!!にしても、あの動きは良かったぞ、ネスク!!」


「そりゃ、どうも。帰ったら、飯食って寝る。もう、疲れた。」


  興奮が収まり切らないミレドの言葉を聞きながら、家路に着く。木刀はアイテムポーチにしまいこんである。


「ほれ、飯が待っておるぞ!!急ぐのじゃ!!」

  ミレドに手を引かれながら、宿泊している家へ急ぐ。

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