戦力強化と進行開始 前半
1日空きましたが更新します。
お昼を過ぎる頃だろうか。
木の木陰から兵士の人達の様子を見ている。
「あの人達、大丈夫か?」
目の前の惨状を見ながらポツリと呟く。
倒れ伏す兵士の人達、その中心には幼げな少女が一人、つまらなそうに立っている。
―――ミレドだ。
俺が手合わせをした早朝から、兵士の人達の地獄のような特訓?が始まった。
ミレドは一人ずつ手合わせをしながら、
休むことなく手合わせをしていた。
そして、この惨状だ。
一人、また一人と
ミレドと手合わせをして倒れていった。
全員、一撃を入れられて昏倒。
ミレドは無傷、というか、一方的なものであった。
「‥‥‥はあ、だらしないのう、おぬしら。
それでもこの国を守る兵士かのう?
まだ、始めたばかりの頃のネスクの方がもっておったぞ。」
ミレドの声が聞こえる。ため息をついている。
三ヶ月前だというのに、妙に懐かしい。
初めは彼女の動きに付いていけなかったが、それなりに動けた筈だ。一撃入れられて昏倒しそうになるのを何とか堪えて、容赦なく迫る二擊目を何とか避けていた。‥‥‥まあ、三擊目で落ちていたが。
ポツリ、ポツリと立ち上がろうとする者が現れる。そのまま、ミレドに再び木刀を振るう。
そして、昏倒する。
兵士の人達は先程からそれを幾度となく
繰り返している。
ミレドは欠伸をしながら、訓練を続けているが、兵士の人達はダウンしては何とか立ち上がり立ちむかい、そして倒れ伏す。
(仕方がない。少し手を貸すか。そうじゃないと彼らの身が持たないだろう。)
立ち上がり立て掛けた木刀を持って、ミレドへと近付いていく。
「ミレド、休憩しよう。
俺と違って彼らの身が持たない。休憩の後、俺が彼らの相手をするからミレドは動きを見ながら彼等にアドバイスを頼む。」
「ふあ~あ、良かろう。妾も少し寝る。その後にしよう。退屈でつまらぬかったのじゃ。」
大きな欠伸をしながら木陰に座り、スピスピと寝始める。
どんだけ眠かったんだよ。
真面目にしている彼等に対して不遜じゃないか。
(さて、ウォーミングアップしとくか。)
彼らが伸びている箇所を離れて素振りをする。
ブンッ! ブンッ!
素振りで木刀を振ると空気が音を立てる。
暫くすると、
背後に近づいてくる気配がする。
振り返らずとも分かる。以前に感じた魔力なのだから。
「‥‥‥何かようか。」
横目で後ろを見る。
初日に襲ってきた四人組の兵士である。
足が生まれたての小鹿のようにプルプルと震えている。先程の訓練に彼等も参加していることは遠くから眺めていて気づいていた。
「「「「‥‥‥‥」」」」
四人とも何も話さない。後ろでは伸びていた者が徐々に起き上がっている。
(俺が何か企んでいると思っているのか)
彼等の瞳から以前のような殺意は感じられないがそれでも信頼はされていないようだ。
「俺は何も企んでねえぞ。
今回の騒動が収まれば直ぐに出ていくつもりだ。俺はポーアの依頼を受けていきただけ、だからな。」
話しながら木刀を振る手を止めない。
「‥‥‥お前、ケガ人を治療したそうだな。」
恐らくリーダー格であろう以前俺に向かって植物の魔法をけしかけた男が喋る。
「まあ、そうだが俺は何もしていない。殆んどお前達の所の医者が毒の配合をしただけだ。俺は情報を渡しただけだ。」
「結果だけならそうだが、お前のお陰で死者が出さなかったのも事実だ。
――だが、俺達はまだお前を信頼していない。覚えておけ。もし、祖国であるこの国に危害を加えるようなら、我らがお前を潰す。いいな!」
言うだけ言って来た道をお供を連れて戻っていた。
(人間への嫌悪はそう簡単に晴れるものでもないか‥‥‥‥。ハア)
先の事を考えて思わずため息が出てしまう。
「さて、そろそろやるかのう!」
いつの間に起きたのかミレドが開始の号令をする。殆んどの兵士の人は起き上がっているが、先程のダメージのせいか顔色が良くない。
このまま続けて大丈夫なのだろうか。本当に。
「次からは妾の弟子、ネスクがそなたらの相手をする。存分に力を発揮せよ。」
一斉にミレドの方を向いていた兵士諸君の視線がこちらに向く。
(なんというか、そんなに見ないでくれ。緊張するから)
驚愕の疑念で視線を送る者が多数、その中にやはり嫌悪の視線も混ざっている。
「では、開始じゃ!!どこからでも良いぞ!!」
『おおおおお!!!』
合図と共に一斉に襲いかかってくる。
「おい、ちょ、ミレド!!話が違うぞ!!」
木刀で切りかかる兵士を避けながら訴える。
「別に一対一じゃなくても、おぬしなら良かろう。な~に、死にはしないじゃろ。」
鋭い剣筋が振られる。なんとか避けるも
あと一歩、避けるのが遅ければヤバかった。
「どこが死なないだよ!!本気で殺しに来てるだろが!!!」
ネスクの声が木霊する。
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「準備は出来ただ二か?」
贅肉の付いた腹を揺らしながら、兵士に状況を確認する。
「はっ、既にいつでも出撃出来るように整っております。」
「そうだ二か、そうだ二か。では出撃の号令を発するだ二よ。オミャーら総員、直ちに出撃し、あのいかすかない王モドキの首を捕らえて来るだ二。」
「承知致しました。して、ナザラ様はどちらへ?」
兵士がナザラに問う。
「決まってるだ二。奴の最後を見に行くだ二よ。そして、余がアレの首を切り落としてやるだ二!」
「ひ、ひぃ!」
兵士がナザラの表情を見て悲鳴を上げる。その表情は嬉々とした歪んだ笑顔で染まっていた。