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幸せな醜い姫  作者: のぴこ
番外編
3/3

名前の秘密と誓い

本編のすぐ後の話です

あの後、顔を真っ赤に染めたフェリシテと釣られて頬を赤くするルーク。

何となく、気まずい雰囲気になった時、扉が叩かれる。


「は、はい!」


「アグリー!…あ、もうフェリシテよね。フェリシテ大丈夫だっ………あの獣になにもされてないわよね?」


「あ、うっ…えっと…」


恥ずかしそうに目を伏せたフェリシテにレインはルークを睨み付ける。平常心に戻っているルークはしらっとしているが。そんなルークにティファードが持っていた資料らしき束で頭を叩いた。そして、フェリシテを見た彼は深く頭を下げる。


「フェリシテ様。これまでの旅での数々のご無礼お許しください。…と、言うべきでしょうが、貴女様もルーク様と同じで畏まった態度を嫌がる事はよく知っています。私達がこれまでと同じ態度(・・)で接するのをお許し頂けますか?」


「勿論です!こんな、私でも優しく接してくれた大切な人達ですから!むしろ、私がこの国の王女だって、まだ信じられなくて…」


「フェリシテが超可愛くなってて驚いたけれど、貴女はやっぱりそのままね。もう少し自信を持たないと。」


フェリシテの頬をむにゅっと手で挟んで微笑むレイン。目をぱちくりさせる彼女は例え見た目が変わろうが本質はそのままなのが直ぐに分かる。

ルークも優しい眼差しでフェリシテを見つめ、ティファードも肩を竦めながらも穏やかな表情を浮かべている。

そんな時、グレイとルクラスが心配そうに駆け寄ってきてフェリシテを見て、驚いた声を上げる。


「な、あ、は?あ、おま……は?」


「アグリー、なの?」


かなり言葉に詰まっていて金魚の様に口をパクパクさせているグレイは置いといて、ルクラスは目に涙を溜めながら恐る恐るフェリシテに聞く。そんなルクラスに戸惑った様子で頷いたフェリシテ。


「はぁ!?アグリー!?!?」



フェリシテを指差して、大声で叫ぶ馬鹿(グレイ)。レインが頭を抱え込み、ティファードが資料を丸めて叩こうとし、ルークが苦笑いを浮かべその時である。


「だからな!お前らは私の愛娘を侮蔑しているのか!!」


ガタッと大きな物音を立てて部屋に入ってきたこの国の…【アルフファード国】の王、スヴニール。先程、政務に行ったはずの国王である。美しい顔を歪めてグレイを指差しながら部屋に入っていた。……後ろに眼鏡を掛けた人が顔に手を当てているが、それに気付かない位に突然現れた王に全員が呆然とした。


「侮蔑…?」


「スヴニール国王様、なんの事でしょうか?」


「ふざけるな!愚か者が!」


「スヴニー…」


「フェリシテはフェリシテだ!」


「あの」


「娘は誰にも渡さぬ!」


「えっと、お父様?」


なんの事か分からないと言わんばかりの表情を浮かべるフェリシテを含める6人。話がだんだんずれてきているが、怒りを爆発させている国王。

フェリシテにお父様と呼ばれて、思わず口許を緩めた国王だが、直ぐに口許を引き締めて厳しい目でグレイを見る。

その時、国王の後ろで顔に手を当ててため息をついていたはずの男性が、国王の頭を容赦なく殴った。


「貴方はいつも言葉が少ないと言っているでしょう!……ああ、名乗り遅れましたね。この国の宰相であるヴィースト・ナフタリスです。ヴィースト卿とお呼びください、フェリシテ姫様。」


にっこりと微笑んだ眼鏡の男性…ヴィーストにフェリシテも頷く。ヴィーストはナフタリス家の次男で先代宰相を王と共に追い詰めて手を下した人物であり、王妹であり王家の中で唯一何も知らなかった天然娘を他国の王族に嫁がせて、未だに独身である人物だが、その話は今回は省こう。


「王よ。この者達は我が国の者ではないのですよ。知るわけが(・・・・・)ないのです。」


「だけど、フェリシテがずっとそう呼ばれているんだぞ!」


「あの、何の事ですか?」


むっと言い返す国王だったが、不思議そうに国王を見る。フェリシテに固まる。ヴィーストも同じく固まって、もしやと声を上げた。


「…フェリシテ姫様。アグリーの意味をご存じではないのでしょうか?」


「アグリー?私の、呼ばれていた名ですよ、ね…」


呼ばれていた名…辺りで2人の表情が険しくなっていくので、フェリシテは言葉が小さくなる。目敏く気付いたルークがフェリシテの肩を寄せようとしたが、流石に国王の手前。手を中途半端に差し出したまま止まったルークに、ティファードが呆れた視線を送る。

レインはそれを見て苦笑いを浮かべ、グレイは何気にずっと何の事だか悩んでいて、ルクラスはおろおろと視線を色々な人物に向けている。

そんな5人に視線を向ける国王。すっと姿勢を伸ばした彼らに王は衝撃的な言葉を投げ付けた。


「アグリーとは『醜い』という人を乏す言葉だ。」


この国の古い言語だが、地方の者達は知っている者が多いし、貴族や王家は教育の一環で学んでいる。と言葉を繋げるが、誰も聞いていない。

ティファードもレインもグレイもルクラスは勿論、ルークもフェリシテさえも固まっていた。

国王はそんな様子に気付かず更なる言語の歴史について語っていこうとするが、ヴィーストに指示された騎士達に引きずられる形で部屋から出ていった。

最初に正気に戻ったのはレイン。その表情は青ざめている。


「フェリシテ!私、貴女に対してなんて酷いことを…!」


「そんな事を言うなら私もです。親しげに蔑む言葉をフェリシテ様に伝えていたなど…」


「わりぃ!俺、んな事も知らずに…!挙げ句には大声で叫んで…!」


「フェリシテ、ずっと、酷い言葉、ごめんなさい。フェリシテ、ごめんなさ、」


「い、いえ!私も知らなかったので謝らないで下さい!お願いします!」


レインに続いて3人が表情を変えて謝る。例え知らなくても大切な"仲間"を乏す言葉をずっと伝えていたのだ。それも、彼女の名前として。

慌てて大丈夫だと伝えるフェリシテ。そんな彼女をぐっと強い力で引っ張り抱き締めるルーク。顔を真っ赤にするフェリシテをよそに、フェリシテの肩に額を押し付ける。


「ル、ルーク!」


「……ごめん。お前が気にしないとしても、俺は、俺達は謝りたい。なにが蔑む事はしたくないだ!この国の歴史も調べていれば気付いてたのに、それを怠った!なのに、俺は…」


「ルーク!聞いて、皆さん聞いてください!私は、嬉しかったです。町では、名前を呼ばれる事さえ殆どなくて、皆さんに会えて名前を呼ばれるのが、本当に嬉しかった。だから、そんな事言わないで下さい…」


本当に嬉しかった。

彼らと出逢えて、笑顔で名前を呼ばれて、それに答えて。

今まで、あり得なかった事だから。ずっと憧れていて、それでも容姿で嫌われていて諦めていた事だったから。



「フェリシテ」


「あの、ルーク…」


「フェリシテ!」


「え、レインさ…」


「フェリシテ様」


「ティファードさん…?」


「あー…フェリシテ様」


「えっと…グレイさん…?」


「あの、フェリシ…テ」


「…ルクラス?」


全員がフェリシテの名前を呼ぶ。

ルークはフェリシテの耳元に口を寄せて。

レインは片膝をついて左手の甲に、唇をつけて。

ティファードはフェリシテの左前で頭を垂れて。

グレイは跪いて右手の甲に唇を落として。

ルクラスはフェリシテの右前で頭を深く下げて。


「今だけ、こうさせてくれ。…俺のソロ(唯一の人)



十分二十分…いや数時間がたったと錯覚してしまう光景。実際は数十秒の出来事。


それらが実は隣国にとっては最上級の礼だったり、"ソロ"に深い意味が込められていたりするのを知るのはまだ少し遠い日のことである。




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