第24話 やっぱりズレてた
食後、お腹も心も満たされたところで、鈴が嬉しそうに提案してきた。
「紫苑ちゃん、甘味でも食べながら女子だけでおしゃべりしようよ!」
当然のように桜も巻き込まれ、三人で紫苑にあてがわれた部屋へと移動した。
卓上に並べられたのは、緋乃がお手製で振る舞ってくれた甘味だった。
(……美味しい! でも、この甘味、なんだか凄く引き締まった甘さというか……)
それもそのはず、体術の師匠でもある緋乃が作る料理や甘味は、
無駄な脂質や糖分を極力削ぎ落とし、効率よく体に栄養を行き届かせる
「武闘家仕様」だったのだ。美味しく体も喜ぶ味に、桜は密かに感動する。
そんな中、お茶をすすりながら鈴がニヒヒと口元を緩ませた。
「それにしても紫苑ちゃん、蒼太と随分仲良くなってきたよね~」
「えっ!? あ、あの……蒼太くんとは、その、護身術を教えてもらったりとか……っ
あ、あとっ、みずちさまの話をしたりとか…そ、それだけで…」
急に茶化されてパタパタと手を振る紫苑。
しかし、鈴は「でもねぇ」と呆れたように肩をすくめた。
「あいつ、重度のマザコンだから気をつけた方がいいわよ」
「え……? で、ですが、緋乃さんはとってもお綺麗でお優しい方ですから、慕われるのも当然では……」
なんとか庇おうと一生懸命に返す紫苑だったが、
鈴は「綺麗とかそういう問題じゃなくてね」と一蹴した。
「男どもなんて単純に『おっぱい』が好きなのよ!
蒼太なんかね、緋乃さんの抱きつき攻撃を受けると『や、やめろよ~』とか言いながら、
完全に全身の力が抜けて骨抜きになってるんだから!」
「おっ……おっ……!?」
あまりにも直球すぎる単語と生々しい暴露に、
箱入り娘の紫苑は顔を真赤にして固まり、言葉を失ってしまった。
その様子を静かに見ていた桜は、ふぅとお茶を一口すすると、
極めて真面目な顔で口を開いた。
「ところで、蒼太くんと言えば…」
「ん? なに?」
「おひいさま、私、蒼太くんの子供を産もうと思います」
「ぶっっ!!」
唐突すぎるブッ込みに、お茶を飲んでいた鈴が大派手に吹き出した。
「あの驚異的な身軽さと身体能力は目を見張るものがあります。
あの優れた血が入れば、我が早瀬家は将来にわたって一層、霞条家のお役に立てるはず……!」
真剣に「お家と主君のための婚姻・血統改善」の算段を語る桜に、鈴は腹を抱えて大爆笑し始めた。
「ギャハハハハ! 桜さん、大真面目な顔して何言っちゃってんの!? 最高なんだけど!」
「ダメですっ!!!!」
さっきまで真っ赤になって固まっていた紫苑が、見たこともないような剣幕で立ち上がり、叫んだ。
「ダメ……ですか?」
「絶対にダメです!! 何を言っているのですか桜さん!!」
「あ、はい……すみません」
紫苑の凄まじい剣幕に押され、桜はあっさりと引き下がった。
世間一般の常識人ぶって澄波の文化にツッコミを入れまくっていた桜だったが、
その根底にあるのは「主君のために命と血筋を捧げる貴族」の思考回路。
やはり彼女は彼女で、一般人の感覚からは盛大にズレているのだった。




