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灰の魔法使い  作者: みつ
第二章「灰の記憶」
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三十九話「北からの知らせ」

父さんとの剣術の練習を終えた俺は、木剣を片づけて家に戻った。

「おかえりなさい。二人とも、今日は早かったのね」

母さんが台所から顔を出す。

「父さんが今日はここまでって」

「そう。汗をかいたでしょう? 先に手を洗ってきなさい」

「はーい」

セナと一緒に水場へ向かう。

「今日のレイ、最後の攻撃よかったよ」

「本当? でも父さんには簡単に止められた」

「エドさんは強いからね」

「セナだって、前より魔法が上手くなってるじゃん」

「まあね」

セナは少し得意げに笑った。

水で手を洗っていると、玄関の方から声が聞こえてきた。

「エドさん、いらっしゃいますか!」

聞き覚えのない声だった。

父さんが玄関へ向かう。

「はい。どちらさまですか?」

「北から来た商人です。少しお話ししたいことがありまして」

北から来た商人。

その言葉を聞いて、俺は手を止めた。

四年前、村に来た商人たちも北の話をしていた。

魔石が手に入りにくくなっていること。

北の鉱山で、奇妙な出来事が起きていること。

そして、もっと前には北から魔石を持ってきた女性もいた。

あの人は、今どうしているのだろう。

「レイ?」

セナに呼ばれて、我に返る。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

玄関の方では、父さんと商人の話が続いていた。

「最近、北の鉱山で何かあったんですか?」

父さんの声が少し低くなる。

「ええ。実は、採掘場の一つが閉鎖されましてね」

「閉鎖?」

「魔石がほとんど採れなくなったそうです。それだけならまだしも、鉱山の奥で妙なものを見たという者が何人もいるんです」

「妙なものとは?」

「詳しくは分かりません。ただ、灰のようなものが漂っていた、と」

その言葉に、俺の手が止まった。

灰。

まさか。

俺は父さんの方を見る。

父さんはしばらく黙っていた。

「……その話、もう少し詳しく聞かせてもらえますか」

いつもの父さんとは違う声だった。

何かを警戒しているような、そんな声。

商人は続けた。

「鉱山で働いていた者の話では、奥から物音が聞こえたそうです。誰かが歩いているような音だったとか」\

「人がいたんですか?」

「それが、誰も見つからなかったそうで」

父さんは返事をしなかった。

俺はセナと顔を見合わせた。

四年前の森で聞いた、あの音を思い出す。

地面を引きずるような音。

灰をまとった、あの異形の姿。

「……父さん」

思わず声が出た。

父さんがこちらを振り返る。

「レイ。今は少し待っていなさい」

「でも……」

「あとで話す」

また、その言葉だった。

いつか話す。

父さんはいつもそう言う。

けれど今回は、いつもより表情が硬かった。

商人が帰ったあと、父さんはしばらく玄関に立ったままだった。

「父さん、北の鉱山に何がいるの?」

俺が尋ねると、父さんはすぐには答えなかった。

やがて、俺の目を見て言った。

「まだ分からない。だが、確かめる必要がある」

「父さんが行くの?」

「そのつもりだ」

母さんが台所から出てくる。

エド、まさか一人で行くつもり?」

「まだ決めたわけじゃない」

「危険なんでしょう?」

父さんは答えなかった。

俺は父さんの顔を見つめた。

北の鉱山。

灰のようなもの。

そして、誰もいないはずの場所から聞こえる足音。

四年前の出来事と関係があるのだろうか。

「父さん、俺も連れていって」

「駄目だ」

返事はすぐだった。

「でも、俺の灰魔法が関係しているかもしれない」

「だからこそ連れていけない」

父さんの声は、いつもより強かった。

俺は言い返せなかった。

父さんは俺の肩に手を置く。

「心配するな。何か分かったら必ず話す」

その言葉を聞いても、納得はできなかった。

それでも、今の俺にできることはない。

北で何が起きているのか。

そして、灰喰らいと関係があるのか。

俺はまだ何も知らない。

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