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拝啓、都市の中から  作者: 畑野けう


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堂々巡りの行き着く先は


 扉を抜けると、そこは薄暗い廊下だった。

廊下、というと少し語弊があるがコンテナの外側、つまりは船内の荷を積む倉庫部分である。

船内下部の中央に向かうに連れて他にも幾つかコンテナが並んでいるが、今用事があるのはここより少し上。

階段を上った先の水道でバケツに水を汲み、ここまで戻ってくることが目的である。


 歩きだそうとした矢先、再び大きな揺れが足元を襲ってたたらを踏む。

コンテナの外側はより振動が伝わりやすいとはこれまでの経験て理解しているが、やけに今日は揺れが酷い。

夜の海の天気は荒れやすいとは言うものの、乗り込む前まではいつも通りの平穏な曇天であった筈である。

外では通り雨でも降っているのだろうか。

この後の荷運びを思うと空は晴れていてくれた方が有り難かったのだが、今夜の仕事はいつにも増して重労働になりそうな予感がする。

だとすればもたもたしている暇はない。

一刻も速くコンテナ内に帰り、体を休めておきたかった。

不安定な足元に歩みを取られて転けないよう気を張りつつも、急ぎ足で奥の階段まで進む。

右手にバケツ、左手に手摺を握って、急傾斜の古い階段をミシミシと登りはじめた。



 船の真ん中、海上部分まで登ったところで一度足を止める。

連日続く肉体労働と不摂生により、自身の体力上限は確実に削られていた。

今となっては、然程長さの無いこの階段ですら小休止を挟まなくてはならない程に。

浅い呼吸を整えながら、このまま自分は徐々に衰弱していって、最終的には使い物にならなくなって、道端に捨てられて終わるのかもしれないなどと考える。

数ヶ月前から独りになると、常に脳内を占領する妄想だった。

それは確かな実感を伴って、だんだんと根拠の無い懸想には思えなくなってくる。

不思議なことは、想像上の悲惨な結末と自身の実情が重なるにつれ、今まで感じていた焦燥感と恐怖が薄れていくことだった。

頭の中で多種多様なバットエンドを考案しては怯える余りに、苦痛の予行訓練を行いすぎてしまったのかもしれない。

誰だってあるだろう、果たして如何程のものかと想像を巡らせていたことが、実際体験してみれば意外とそんなものかという感想に落ち着いてしまうことが。

多分それだ。もしくは……自分で考えていたよりも、半年前のあの失態を引きずっていたのか。

過ぎた時間は戻ってこないと当然分かっているのだ。

分かった上で気に病んでいるというのなら流石に女々しい気がするのでこれは違うと思いたいが、あれからどうにも自棄糞な思考回路に陥っている自覚はあるので、残念ながら否定はできない。

そもそも、端から見れば悲惨な末路だとしても、最終的な評価を許されるのは結局、その道を辿る当人だけである。その本人に知覚できない感情は始めから無いに等しいのだ。

取るに足らない程度の苦しみなら、例えそれが最期でも別に気にしなくていいんじゃないだろうか?


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