74.宰相様は思い切りがいい人です
王城の門前ではAランクを示すギルド証を見せただけで通過できてしまった。さすが緊急事態。
車が停まってレイン教授に導かれたのは、祭事の際には王様の演説なんかもあるらしい、びっしり隙間なく作られた石畳の広場だった。エリアスたちを見つけて駆け寄る。
「エリアス、発動テスト手伝って。微調整するから」
何しろ書き写すだけで手一杯だったから、作った魔法陣はほぼ勘でできている。
俺が魔法陣を書いて、エリアスが発動して、途中からヘリーたちが円と直線でできた図形の書き込みを手伝ってくれて、試行錯誤すること10分。
顔を上げると、ニコル会長と会長に似た年輩の男性がこちらを見守っていた。
「はじめまして、異世界の魔法師殿。ニコルの父でこの国で宰相を務めております」
「はじめまして、リツと言います。仕組みはご説明した方が良いでしょうか?」
「簡単には息子と甥から聞いております。この緊急事態だ、藁にも縋りたい現状です。このエリアスくんを魔法師に導いた貴方を今は信じます。細かい説明は凌いだ後で」
なんでも、話を信じてもらうために、これができれば魔法師になれると有名な入門書に書かれている魔法陣を起動して見せたそうだ。ただでさえ身内の紹介であることもあって、宰相様も信じてくれたとか。頼りになるのは人脈だよな。実感する。
最終調整が済んだ確認用の小さな結界は、石を入れると見えなくなって人がその上から通しても石を掴めず通り過ぎるという見た目のものだ。俺の目からは石が見えてて手が消えるんだけどな。
つまり、これで出来上がり。
「エリアスは少し休んで体内魔素蓄えといて。宰相様。魔法陣をこの通り書きます。手が足りないのでお手伝いをお願いできますか」
「うむ、手配しよう」
言いながら自分は動かず部下を呼びつけるのがさすが最高責任者だ。いや、現場を軽々しく離れないのは責任者のあるべき姿として正しいと俺も思うけど。
さて、作業に取りかかろう。まずは石灰で下書きから。棒やら紐やら使って真円と直線を書き込み、それぞれの枠に決まった指示語を埋めていく。下書きは俺たちが手分けしたが、下書き通りに砕いた魔石を撒いていくのは誰でもできるので人海戦術だ。
魔石を集めてくる人、魔石を砕く人、各作業場所へ運搬する人、そして線にそって撒いていく人。本来なら魔物に対峙しているはずの騎士の皆さんが、それぞれの役割で動いてくれた。文句も言わずに子どもな俺たちに従ってくれて、感謝感謝である。
と思うのは、広場の王城側通路出口に集まって見てるだけのローブ姿の一団が見えるからでもあるんだけど。あれ、国に雇われている魔法使いたちじゃないかな。こっちに来てやり方を監視でもすれば良いのに。
魔法陣が出来上がったのは、王城で一番高い塔の天辺で森を監視している部隊から、スタンピードの先頭が管理森林に入ったと連絡が入ったのとほぼ同時だった。俺と翻訳魔道具を持っている仲間たちで何重にも最終確認して、発動のタイミングを宰相様に委ねる。
すでに街門は閉じられて、間に合わず門に入れなかった人々にも門になるべく張り付くように指示が出ていて、王都全体が厳戒態勢下にある。
「確認完了しました」
「父上、いえ、宰相。お願いします」
「よし。結界、発動!」
「発動!!」
魔法陣の発動点に跪いて手を乗せていたエリアスの手元に、俺にすら見える光で書かれた魔法陣が浮かび、地面に魔石で書かれた魔法陣が一瞬遅れて光り輝いた。
どんだけ力いっぱい魔力注いでんだ、エリアス。
魔石の魔法陣は光った状態を維持していて魔石の色も褪せることなくそのままなので、周囲からの魔素収集も上手くいっていると思われる。後は上手く結界が張れているかというところだけど。
少しして、塔の天辺で監視している部隊から、管理森林の少し内側で入ってきたはずの魔物が見えなくなる現象が報告された。結界を張る前に入り込んだ魔物たちは、前線で待機していた騎士の部隊や冒険者たちによって討伐が始まっているとのことだ。
結界構築はうまくいったようだ。
「うむ。よくやった」
当然同じ場所で同じ情報を聞いている宰相様も同じ判断で、満足げにお褒めの言葉をいただいた。成功してこちらもホッと一息です。
「ありがとうございます」
「先にお話ししたとおり、人も魔道具も通しませんので、魔物の暴走が過ぎたら解除をお願いします」
「描いた陣を一部でも崩せば結界解除されます」
「では私たちは……」
「改めて詳細を聞こう。この魔法は君たちの存在が不可欠だ。解除の瞬間まで同席してもらうよ」
ですよね。
後はお任せして帰ろうとか、虫のいいお話でした。すみません。




