73.現代の魔導師を御披露目します
成人が昇級条件に入っているBランク以上は街にいるなら召集を拒否できないが、俺たちは学業優先が許されているので、他の学生と一緒に教室待機になった。
ギルドの情報で刻々と変わる現状は把握できている。
長期休暇前から進入禁止になっていた管理森林の向こうの森は、今までなら山脈の奥に出没していたような強い魔物が徘徊するようになっていて、未だに進入禁止措置が解除されていなかったのだが、事態は終息するどころか悪化の一途を辿っていたらしい。
奥から降りてきた強い魔物に追いやられて弱い魔物が街に近いところまで溢れてきている。弱いといっても比較の問題で、単体相手にCランクの冒険者が複数パーティーで対応するような強めの魔物たちだ。その中の一種が、何かのきっかけで暴走状態となり、今こちらに向かっているらしい。つまり、ファンタジー小説に置き換えれば、スタンピードというやつだ。
幸いなことに人の足の方が速く、集団暴走を発見した調査団の冒険者によって知らせが来た。今この状態だ。
街の中心に聳える王城の塔から襲いかかってくる魔物の群れは観測できているそうで、森から出てくるまであと2時間ほどと予測されている。
街には外出禁止命令が出て、周辺の街や村にも情報が回っており、あと1時間ほどもすると街の外周を守る門も閉じられるそうだ。既に街の外へ出る方向は禁止されていて、街に入る方向も検問を一時解除されて全て通行可能にされている。どさくさに紛れて賊が入り込むことも折り込み済みなのだとか。
後始末も大変そうだ。まぁ、この世界で盗賊なんて魔物に襲われる危険の方が高い商売はほぼ成り立っていないようだが。
「通行禁止になるなら、街ごと魔素遮断して魔物を素通りさせても良さそうだけど」
「塔の結界の仕組みを再現するのか」
「接敵予定のあと2時間でそこまで準備できるかが問題だな。国の天辺に許可させてからでないと勝手にできない」
「そもそも街ごとなんてそんな広範囲で可能か?」
「魔石を大量に投入すれば、可能かな。王都がだいたい5キロ四方だから、直径50メートルくらいの魔法陣がいるし、魔石で全部書かないとエリアスでも起動できない」
「50メートル四方の広場がいる?」
「魔法陣が中心で展開するから、街の真ん中でって条件」
「王城前広場とか良さそうだな。ニコル巻き込もう。俺行ってくる」
「起動はエリアス? バレるよ?」
「魔法ならさっき食堂で使ったし、今更だな。リツも、魔法陣の準備を頼む。こっちは任せろ」
「覚えてるわけじゃないから塔に行ってこないと」
「あぁ、頼む。こっちの居場所は逐次リツの端末に送る」
ほとんど思いつきだった俺の発案は、そのまま俺たちの方針になった。少しは俺の発想を疑っても良いと思うんだけど。
教師の監視もないのを良いことにエイダが教室を飛び出していくのに続いて、俺も部屋を出た。悠長に歩いている暇もないし、自宅まで全速力だ。
途中で巡回していたらしい教師に咎められたようだが、申し訳ないが無視させてもらいます。
塔ではドラさんがお留守だった。昼間は出掛けていると聞いていたから驚きはない。ずっと巣に籠もっても暇だろうし。
俺は地下に駆け込んで魔法陣から必要な部分を書き写し、魔法陣全体と文字が読み取れるサイズに分割版を携帯端末のカメラで写していく。
やること済まして蜻蛉返りなんだが、携帯端末には王城に移動するという伝言が入った。レイン教授が送り役に残ってくれているとのこと。遺跡調査に戻る前で良かったな。後から追いかけようにも足がないところだった。
寮を飛び出すと、レイン教授が玄関前で待っていた。車は通りに路駐してあって、乗り込むとすぐに出発した。
「しかし、凄いことを思いついたな」
「エリアスが魔法を覚えてくれてなかったら難しかったですよ」
「リツも魔法陣魔法の起動はできるんだろ? その腕輪で」
「起動だけはできますけどね。魔素集積機能は魔石式魔法陣に付けられないんで、あっという間に魔石の魔素使い切っちゃいます」
それだと、魔物が通り過ぎきる前に結界が消えてしまう。そうなのか、と驚きながら、既に人影の無くなった通りを右に曲がっていく。
学院では、管理森林に実習で出た経験のある中学院3年生以上は管理森林前で防衛線を構築していて、それより若い学生は教室で待機だそうだ。スタンピードの行く先はまっすぐ学院の管理森林を掠めて王城裏の予測だそうで、Cランク以上の冒険者が総動員で戦支度をしているらしい。
そんな中、Aランク冒険者であるレイン教授に移動の足をお願いするとか、失敗したら恨まれるどころじゃないだろうな。
まぁ、失敗すれば命がそもそも危ういけどな。




